林南道は……
九龍環城から1000kmほど離れた地方都市だ
人類が最も繁栄を謳歌した黄金時代にあっても、東アジアの巨大都市に挟まれたうら寂しい沿海地区にすぎなかった
そんな場所になぜ、議長は注目しているのだろうか?
「MotherSwan-2よりキャビンへ、まもなく林南道FOB(前線作戦基地)の臨時滑走路に着陸する。」
……資料を読み込む時間は終わったようだ
空中庭園支援部隊、セキュリティナンバー「深淵E3714」、身分認証を行なってください
ID照合……照合成功。空中庭園執行部隊、[player name]、任務コードE-A-3317
33分14秒後にブリーフィングを開始します、4号テントへ向かってください
テンプレート通りの対応を終えると、総務用構造体は去っていった
……スムーズで結構なことだ
これよりブリーフィングを開始します
俺は執行部隊「ドードー」隊長の……まぁ、名前なんてどうでもいいな
任務コードE-A-3317の説明及び権限移管のために俺はここにいる
余計な挨拶は抜きにしよう
任務詳細を説明したうえで、基地の補給と支援部隊の指揮権限を移譲する
林南道の状況は資料で読んだ。免疫時代のとある需要により、実際は「うら寂しい場所」ではなかったのだ
ちっ、任務ファイルを読んでいないのか?
林南道は東アジアのニ大都市の共同管理区域だったんだ。つまり、パニシング爆発以前は無法地帯も同然だったと言っていい
パニシング爆発後、ニ大都市でも治療の術がない人間、それから侵蝕の疑いがある機械が全てここへ放り込まれた
……「人道」というのは、人間と人間の間でのみ成立する言葉だ
そしてその時とられた「人道的な措置」は、治療の術がない人間に一生かかっても使い切れない弾丸と食糧を与えるだけのものだった
まあ、あの時代の最優先事項は……「アルカディア」だったからな
……余計な話はやめだ。移譲プロセスを起動する……
「認証成功、任務責任者:[player name]」
これで俺の任務は完了だ。こんな厄介事はさっさと次の連中に放り投げた方がいいぞ
本当に厄介なんだよ、こればっかりはな……
1時間後。グレイレイヴンを乗せた輸送機も無事着陸し、指揮官と合流した
よ、指揮官!やっぱりいざって時に頼りになるのは、ルシアじゃなくてオレってことだな!?それで呼んだんだろ!?
カレニーナ、どいてください。支援部隊の作業の邪魔になってますよ
確かに、私の手に余る事情があったことにはあったんですが、最大の理由は……
……ということです
ちっ……まあつまり、どっちにしてもルシアにはできねぇことをオレに頼みてぇんだろ!
あの……
おしゃべりは、目標ポイントに着いてからにしませんか?
……
……
な……な……
なんなんだよ、これは!!!!
無残にも大破した巨大な人工建造物を、大量のテントとかまどがところ狭しと囲んでいる
だが、本来あるべき人影が一切見当たらないのだ
偵察するまでもないですよ。テントの中に、熱源反応はありません
だとしても、人がいれば運動信号があるはずです。ですが、ごくわずかな信号すら感知できません……
つまり、テントの中には誰もいないのだ。少なくとも生きている人間は
リーフ。大気と土壌のチェックをお願いします
はい
……土壌の腐植質には、人間の遺骸由来の成分は見られません。大気中の成分も正常です
機内で確認した資料によれば、ここには015号、049号、063号等の都市から流れ着いたスカベンジャー1000人余りが暮らしているはずなのだ
テントに囲まれている巨大建造物をスキャンします
複数……いえ、かなりの数の侵蝕体信号を感知しました
……ありません
いえ……あります!ひとつあります!
私の機体はスターオブライフのカスタマイズ品で、逆元装置の生命信号感知能力が強化されているんです……
リーフはホログラムマップにマークしたポイントを、指揮官の端末に同期した
了解!