夜の帳が降り、商店街は喧騒に包まれ、楽しげな人々で溢れている
あえて少し早めに来て、商店街の一角にあるベンチに座り、あのイタズラ好きな少女が待ち合わせに現れるのを静かに待った
そう長くは待たず、肩にトンボが水面に触れるような、微かな感触が伝わってきた
背後には誰もいない。それと同時に、今度は反対側の肩に軽い感触が伝わってくる。まるで目に見えぬ「幽霊」が、自分をからかっているようだった
あっ、ずるーい!
背後に立ち、尻尾でちょっかいをかけてきたジェタヴィを後ろ手に捕らえる。しばらくもがいたのち、少女は「抵抗」を諦め、こちらにぎゅっと抱きついてきた
もうバレちゃうなんて……でも、さっきのキミの様子はぜ~んぶ撮っておいたから
少女は手にしたカメラを高く掲げ、得意げにこちらの目の前に突き出した
ジェタヴィの操作で、小さなディスプレイに次々と写真が映し出される。彼女の言葉通り、どの写真にもつい先ほどまでの自分が写っていた
ひとりで商店街を歩き回る姿、ベンチに座っている姿、更には背後にいる彼女の尻尾を捕まえようとする姿まで……
自分の「傑作」を見せ終えると、ジェタヴィは体をぴったりとくっつけて座った
「無敵のジェタヴィの支配下で、天に選ばれた人が成す術もなく抵抗もできず、普段は見せない困惑の表情を晒す瞬間」……これを私たちのテーマにするのはどう?
期待通りの答えだったのか、少女は満足げな笑みを浮かべた
彼女の期待に沿わない答えだったのだろう。ジェタヴィは口を尖らせ、無意識に尻尾を揺らしている。どうやってこちらを「お仕置き」するか、真剣に考えているようだった
だが、すぐにまたイタズラっぽい笑みを浮かべた
やっぱり、さっき撮ったのは全部ナシ!カメラは、[player name]に任せるね
何を撮ってもいいよ。でも、どの写真にもジェタヴィとキミが写ってること!いい?
だって、今日は私たちだけの特別なバレンタインでしょ?だから、何をすべきかはわかってるよね?
それだけ?キミならもっと……
単に言葉だけで「応える」だけでは不満らしく、少女は更に強くこちらに寄りかかってきた。温かい吐息が耳元を掠め、頬が赤くなったように感じる
私も同じ気持ちだよ?でも、全然足りない
今日だけじゃなくて、これからキミと過ごす全ての日々が、今みたいじゃなきゃダメなの
天に選ばれた人と私の物語は、これからもずっと続いていくんだよ。今の私たちみたいにね
少女はそっとこちらに手を絡ませ、満面の笑みを浮かべた。そして、一緒にレンズを見るように促す
――だが、カメラは「バッテリー残量不足」の通知音を鳴らしただけだった
え、よりにもよって今!?ねぇ、[player name]……この「ハプニング」の責任は取ってくれるよね?
だって、キミに早く会いたい気持ちで頭がいっぱいになっちゃって、急いで家を出たから充電する暇がなかったんだもん。それに、さっきもキミを撮るのに夢中だったし……
「ツーショット」が妨げられたせいで、少女はすっかり手持ち無沙汰な表情になり、尻尾を揺らしている。どうやら、こちらの「解決策」を待っているようだ
彼女の何気ない仕草を見た瞬間、閃いた――ジェタヴィが揺らし続ける尻尾に指を差す
あ、そっか!さすが天に選ばれた人!
もうちょっとで、私たちの思い出を残せなくなるところだったね
こちらの「解決策」を聞き、少女は納得と喜びに満ちた表情を見せた
ジェタヴィは尻尾でカメラを巻き取ると、その尻尾を「マルチ充電器」のように使って充電を始め、再びこちらに寄りかかった
充電が終わるまで、退屈になっちゃったね
だから、ちゃんと考えてね?この間にできること
アイスクリームの早食い競争でもする?それかゲームセンターに行くか、それとも……
自然と笑みが浮かび、彼女の誘いに応じた。すると少女の顔にも、満足げな表情が浮かぶ
写真が撮れなくても、こんな計画も悪くないよね?[player name]も、そう思うでしょ?
じゃあ、行こう!
少女はこちらの腕に全体重を預けるかのように、ぎゅっと強く腕を絡ませてきた
ジェタヴィとさまざまな店や遊びで時間をともにした。深夜近くになってようやく、彼女は名残惜しそうに今夜の遊びを一時的に切り上げ、自分と一緒にベンチに並んで座った
夜の静けさの中、彼女は少し疲れたのか、そっと頭をこちらの肩に預けて休んでいる
今日はすっごく楽しかった……今日のこと、絶対に忘れないでね。私も忘れないから……
彼女はしばらく沈黙したあと、再び顔を上げて遠くを見つめた。その表情は真剣そのもので、まるで果てしない未来の時間を見据えているようだった
ネオンが彼女の顔を照らし、その瞳には限りない希望と幸福が凝縮されているように見えた
ううん。今日だけじゃなくて、明日、そして未来……その後もずーっと続くたくさんの時間を、ちゃんと覚えておくこと。[player name]、約束ね?
少女は小指を差し出し、こちらが応えるのを待った
ふたりの指がしっかりと絡み合うのを見て、少女の瞳は優しく輝き、限りない希望と幸福が凝縮されているように見えた
カシャ――彼女の言葉に続いて、頭上からシャッター音が響く。顔を上げると、彼女は充電の終わったカメラを尻尾の先で持ち上げ、ふたりだけのこの瞬間を捉えていた
カメラは尻尾から彼女の手の平に戻り、少女はディスプレイに映るふたりの姿を満足そうに見つめていた
指揮官と一緒の幸せの時間、ちゃんと記録しておいたからね
ジェタヴィは更に身を寄せ、イタズラっぽい笑みを浮かべていた。彼女の尻尾はいつの間にかこちらの首に巻きつき、その先端が触れる度に、微かに痺れるような感触が走る
[player name]、今夜のことは全部忘れちゃダメ。もし忘れたら、私……
