コンステリアの街をぶらついていると、ふいに遠くから拍手と歓声が湧き上がった。人間も構造体も、足を止めてその光景を見上げている
人混みをかき分け進んだ先に、青緑色の美しい姿が目に入った。光と影が交差する中で、その人が舞う姿はあまりに優美で、思わず息を呑んだ
[player name]、本当にあなたでしたか
舞い終わったばかりの彼女の身体には、まだ舞の余韻が残っていた。灯籠と月明かりの柔らかな光に彩られ、静けさを秘めている。まるで、周囲の喧噪などないかのように
驚いたようにこちらを見る含英の眼差しは、どこか恥じらいを帯びていた。観衆が余韻を壊さぬように静かに引いていく中、自分はその美しさに魅了され、動けずにいた
……来てくださったのですね
今日は七夕。九龍にいた頃、よく「めぐり逢い」や「想う心」の物語を聞きましたので、その想いを舞いに込めました。いかがでしたか、私の舞いは少しでも上達していますか?
奥ゆかしい告白のようでもあり、ほんの少しの臆病さを滲ませた探りのようでもあった。含英はそっと両手を胸元で重ね、こちらを静かに見つめてくる
賑やかさにも趣きがありますが、静けさにも心をなでるような調べがあります。今日、コンステリアの中心部で九龍音楽の演奏があるようです。ご一緒にいかがですか?
微かに漂う檀香と、屋台の飴細工の甘い匂い。それらが混じり合い、不思議な七夕のトップノートを作り上げていた
遠くから届く絃の音が、やがてふたりの間に静かに溶けていく。呼吸さえも重なり合い、灯火の陰で静かに距離が縮まっていく
ふと目を向けると、青緑の彼女は静かに微笑みながら、こちらを見ていた
はい。機械の身体になっても、この音の流れと美しさには心が揺れるものがあります。この曲のタイトルは『カササギ橋の天女』……
九龍の言い伝えでは、七夕の日に、カササギたちが心と心を繋ぐ橋を架けるのです。そうして、長い間引き離されていた恋人たちが、月下で再び巡り合えると
天女は恋人を待ち続けていましたが、天の川を超えられず……夢で逢えても、切なさが募ります。だから、この曲には「後悔を残さぬように」という思いが込められています
……つい、私ったらひとりでたくさん話してしまいました。[player name]、退屈ではありませんでしたか?
恥ずかしそうにうつむいた彼女の髪が頬にかかった。その頬はほんのり染まっていた
指揮官、私……私と一緒に「カササギ橋の天女」を踊っていただけませんか?
含英はくすっと微笑みながら、そっと手を差し出した
ふふふ、大丈夫です。ほんの少しの簡単な二人舞ですから。必要なのは技術ではなく、心の共鳴です
さあ、手を私に預けてください。リラックスして。私が導きますから……
彼女は優雅に手を差し出して誘っている。その掌は穏やかで、けれど拒めない確かな意志を宿していた
深く息を吸い、そっと手を重ねる。含英の手は少しひんやりとしていたが、指先はしっかりと力強く、安心感を伝えてくれるようだった
最初の踏み出しは、左足を前に……軽やかに……はい、その調子です。私の肩の傾きに合わせて、そっと流れを感じてください
慣れない拍に足がもつれる度、まるで春風が花びらを優しくすくい上げるように、含英がそっと導いてくれる。いつしか、音の波に軽やかに乗っていた
彼女の瞳が真っすぐに自分を見ている。灯籠の光が視界に柔らかな弧を描き、ふたりを包む空気が暖かく感じられた。いつの間にか、周囲には観客が集まり始めていた
とても上手です。軽くターンしてみましょう……そう、目に見えない絆の糸で繋がっていることを思い描きながら
ほら、ご自身のリズムがわかってきたでしょう?舞いとは、動きの中に宿る信頼と心の交流なのです
軽やかなターンをいくつか終えたところで、音楽が静かにやんだ。含英はゆったりと身を引き、優雅に礼をした。先ほどまでの情熱は影を潜め、いつもの静寂が彼女を包む
いつの間にか周囲には人だかりができていた。盛大な拍手と歓声に包まれ、まるで、夢の中にいるような不思議な感覚だった
頬を紅潮させた含英と、不意に目が合った
……あなたと一緒に舞うと、普段にはない不思議な感じが湧き上がります
遠くではまだ祭りの音が響いている。笑い声、灯りの煌めき、色とりどりの夜。その中でそっと彼女を見つめた。柔らかな光の中で静かに佇む、青緑の美しい姿
含英は微笑みながら、こちらの手に自らの手を重ねた。ふたりは連れ立ち、灯火の揺れるその先へと、夜の帳に溶けていく
なるほど、並んで歩むこと。それはきっと一番永く続く「舞い」なのかもしれませんね。今日は、一抹の後悔もない素晴らしい1日でした
ありがとうございます。そして、指揮官、七夕おめでとうございます
