新しく開店した菓子屋で伝統的なお菓子の「巧果」が売られていた。かりんとうのようなお菓子らしい。かなり珍しいので、ワタナベと1袋ずつ購入してみた
アーケードのプレオープンが七夕に間に合ったからだろう
子供たちは巧果を見たことがない。持って帰ってやろう
抱えている紙袋は黄金色の巧果で溢れ、小麦粉と卵の香りが鼻先をくすぐる
食べてみるか?
ワタナベは巧果をひとつ手に取り、こちらの口へと運んでくれた
どうだ?
自分も袋からひとつ取り出し、ワタナベに差し出した
中に餡が入ってる……ナツメの餡だ
味を確かめたあと、ふたりは道端のベンチに座った。ワタナベがもうひとつ取り出して、こちらへ差し出してきた
先ほどと同じように、ワタナベが見ている前で大きく齧った
だが予想していた満足感が感じられない。口の中は困惑の状況に陥った
恐怖の味覚に与えられたダメージで、噛む動作が次第に弱くなっていく
ワタナベもこちらの様子がおかしいのに気付き、半分に齧られた巧果を見た
餡の周囲は油でテカテカと光っていたが、かろうじて中身が判別できる
なんだ……?肉と豆腐?それに花椒?どういう組み合わせだ?
赤いのは何だ……唐辛子か?食材の無駄遣いだな
おい、もう食べない方が……待て……
吐きそうなのか!?あそこにゴミ箱が……
統一性のない食材に味覚がショートしてしまった。ひと口で酸味、苦味、甘味、辛味を味わう無謀さについて、今日初めて理解した
だがスターオブライフで鍛えた不屈の闘志で、なんとか飲み込んだ
そんなにまずいなら吐き出せばいいのに……すまない、私が食材の無駄遣いだと言ってしまったからか?
あなたは……
ワタナベはこちらの背中をさすってくれながら眉間に皺を寄せ、抱えていた紙袋を取った。そこでようやく袋の反対側に印刷された小さな文字を見つけた
「巧果30%OFFで販売中。シークレット味を見つけて記念コインと交換しよう!」
紙袋の底を掴んでみると、いくつかの丸い記念コインが、袋越しに浮き出てきた
道理であの店員、戦場の危機を感じさせるような、不気味な笑みを浮かべていたのか
紙袋を揺すり、ふたりは底にある記念コインを見つめて沈黙した
汗を流しながら憂慮する人間を見て、ワタナベは軽く笑い、相手の肩をポンポンと叩いた
いいさ、子供たちにも奇想天外な体験ってやつを味あわせてやろう