最後の故障箇所が直り、映画館は再び稼働し始めた
しかし念のためにもう一度全体をチェックし、問題がないことを確認してから、開場することにした
なぜだろう。昨日まではすべて正常だったのに……
やっぱりね。空中庭園はいつからそんなに偉くなったの?貴重な切り札を修理工として働かせるなんて
背後から聞こえた冷たい声に振り返ると、見慣れた白い髪の人物が目に入った
昇格者がこんなに簡単に潜入できるなんて。たかがお祭りで、ずいぶん油断しているのね
指揮官として、何か弁明はあるかしら
仲間ね……ふん……
口ではそう言ったものの、αが現れたのは確かに驚きだった。彼女は、人が多くて賑やかな場所には滅多に現れないという印象があったからだ
訊ねようとした時、αが普段と違う装いなのに気付いた。高い位置で結ばれた髪には、深い緑色のリボンが結ばれている
それは、去年のこの時期に自分が彼女へ贈ったものだった
αがこちらの視線に気付いたようだ
インパクトのない装飾、言葉にしがたい色……うっかりこんなものを受け取るなんて、謎だわ
でも、着けてくれたんだ……その言葉は口には出さず、心の中に留めた
そのリボンを見ていると、ふとある考えが思い浮かんだ
そうだと言ったら?
抜刀を経た斬撃のような、ストレートな物言い――
――その瞬間、どう答えればいいのかわからなかった
ふっ、予想通りの表情ね。去年あなたが挨拶もせず、突然訪ねてきた件のお礼に来たの
それ以上は期待しないで。プレゼントは用意してない
……
αの言葉が出ない様子に、「してやったり」と思った。思わず笑みが浮かび、引き続き祭りの話をする
そう、印象で好みを判断するのね?じゃああなたが好きなのは、スーパーヒーロー映画なの?
恋愛もの……
どの役も脚本という足枷をつけられ、どうあがいても最後は他人が選んだ結末にたどり着くんでしょう
私は好きじゃないわ
スクリーンの前で他人の決まった運命を見るより、現実で自分だけのシナリオを演じるほうが面白んじゃないの?
αは手を差し出し、何かを手渡してきた。それは輝く小さい鉱物――天然のダイヤモンドだった
過酷な環境で形成され、不屈の強さを持つ、自然界で最も硬い物質
登山中に偶然手に入れたの
さあ、遠慮なく受け取って、主演料の手付金よ
契約成立。私の分のスケジュールも空けておいて
安心しなさい。パニシングや昇格ネットワーク、あるいは運命であっても、あなたを束縛するような脚本は全て私が断ち切るから
結末は、私たち自身の手で選ぶのよ