皆さま御覧ください。こちらにございますのは、黄金時代の古典娯楽ゲームの……
通りに突然人だかりができ、大勢がごった返す小さな店に興味を惹かれてちらりと見てみた
なぁに?これ。制限時間内に密室から脱出できれば、豪華な報酬がもらえる?
主催者が黄金時代の古典ゲームだって言ってたな、何だっけ、脱出……
そう!脱出ゲームです!
ちょっと待った。この主催者の声、どこかで聞き覚えが……
これはこれは、ずっと行方不明だった私のアシスタントではないか?
店の入り口で呼び込みをしていた主催者は、なんとロランだった
彼はずかずかとこちらへ近付いてくると、自分の手を引いて店内へと連れ込んだ
早く、参加者は揃ってる。ゲームが始まるよ。さぁアシスタントさん、自分の役割をしっかり果たしてくれよ
ロランは表情を変えず、1冊の台本を押しつけてきた
1ページ目の上部に「敵の脱出を助ける。怪我はしないように」と書かれている
詳しく訊く間もなく、ロランにスタッフ専用の秘密通路へと押し込まれた
ゲームが始まったら、私はあんたの対戦相手役を演じる。あんたは台本の指示通りに、私が脱出するのを最大限手助けしてくれればいい
その他のシナリオは……指揮官、あんたならうまく対応できるはずさ
人ひとり隠れるのがやっとの狭い通路。彼がしゃがみ込んでこちらの耳元で囁くせいで、言葉ひとつひとつの熱い吐息まではっきりと聞こえるようだ
心配ご無用、難しい台本じゃない。このボードゲーム店でたまたま見つけたものだからね
黄金時代の娯楽品が、コンステリアにこんなにたくさん残っていたなんてね。この機会に、あんたも日頃の悩みは忘れて楽しめばいい
言い終わる前に彼は笑いながら数歩前に出て、こちらに振り返って手を差し出した
結局……台本通りにロランの脱出を手助けするチームメイトの役を精一杯演じた
まったく知らないシナリオだったが、ボロが出そうになる度にロランがうまく誤魔化してくれ、彼の協力でなんとかゲームを終えることができた
ゲームが終わり人々が去ってから、空となったボードゲーム店にふたりだけが残されていた
説明って?ゲームのルール、どこかわかりにくかった?
説明する必要があるのかい?そんなの、とっくにわかってると思ってたけど
他でもない、あんたに会うためだ
おや?その疑う表情はまさか、私の言うことが信じられないのかい?
困ったな……どうすれば他意がないってことを証明できるだろうか
ああそういえば、さっきの台本は最後までちゃんと読んだ?
ロランに渡された台本をもう一度開く。ペラペラと最後のページまでめくったところで、印刷とは違う手書きの文字を見つけた