[player name]、任務から帰還したばかりなのは重々承知しているが、グレイレイヴン指揮官ご指名なものでね
北極航路連合からの支援要請だ
うむ、確かにバイオニックに関係しているようだな。今はまだ表立って何か起きているわけではないが、最近のモニターでバイオニックのチャンネルに異常が発見されたらしい
インブルリアの活動停止は間違いなく確認されている。だが、バイオニックのチャンネルに異常傾向が現れた……
守林人は空中庭園が協力関係を築き、航路連合との関係を修復したばかりだ。問題の芽は早い段階で潰しておくべきだろう
詳細については航路連合から説明がある。今回は他の小隊も派遣する予定だ。準備ができ次第、向かってくれたまえ
それから、くれぐれも遠隔リンク装置を忘れんように。肌身離さず携帯しているな?
輸送機は無事、航路連合の拠点外部に着陸した。空中庭園の他の構造体小隊もすでに到着していたようだ。中にひとり、見知った顔がいた
やあ、首席どの!とうとうお出ましですか!お待ちしてましたよ!
ええ、お陰さまで!今はすっかり回復しました
極地で嘔吐しながら卒倒した時のことを思い出したのか、シーモンは少し申し訳なさそうに頭をかいた
ええ、志願したんです
シーモンの表情がかげる
以前とは違い、彼の隣にあの金髪の構造体はもういない。彼が志願した理由など、聞くまでもなかった
彼女のことにもっと注意を払うべきだった……いや、気づけたところで、僕は……
シーモンは雑念を払うように頭を振った
行きましょう、シュテッセンがお待ちかねですよ
拠点では、シュテッセンが眉間にしわを寄せながらマップと睨めっこをしていた。入ってきた空中庭園一行に気づくと、顔を上げてうなずく
来てくれたか……せっかくだが歓待する余裕もなくてな。早速、現状を説明しよう
シュテッセンはプロジェクタを起動し、表示された赤いマークを指し示した
直近ひと月の監視で、バイオニックに新たな異常信号が見つかった
最初は目立たない断片的なデータだったが、その意識体は自己学習を続け、日に日に知能も上がっているようなんだ
俺たちは情報を空中庭園と共有し、バイオニックの脳を分析してみた。そしたらなんと、この意識はバイオニックのチャンネルで「インブルリア」として認識されてるらしい
もちろん、本物のインブルリアじゃない
バイオニックのチャンネルに残っていた断片的なデータが少しずつ集まり、それで再構成された偽意識……構造体というよりはバイオニックかAIに近いんじゃないか
今、極地を徘徊しているバイオニックはほぼインブルリアの子機だ。マスターユニットの制御はもうないが、残留データと深層意識にあるプログラムの影響は受け続けている……
さまざまな状況を総合すると、一部のバイオニックが自発的にデータをかき集めて、インブルリアの人格を再構築している可能性が高い
そのバイオニックどもは新しい「インブルリア」を作ろうとしているわけだ
機械に創り出される、人間のバイオニック……
リーフは無意識のうちに両手を心臓の位置に当て、独り言のように呟いた。シュテッセンはリーフに視線を投げると、話を続ける
そうだ。この新しい「インブルリア」がどんな思考回路を持ち、どんな影響をバイオニックにもたらすのか、誰にもわからん
——もし、生き残ったバイオニックを再び支配して航路連合に攻撃を仕掛けたとしたら。今度はもう、インブルリアを制御できるコードはない
現時点でその「インブルリア」を新しいマスターユニットとして接続を受け入れているバイオニックがかなりいる。しかも、どいつも強烈な攻撃意欲を見せている
だから、お前らにはバイオニックの疑似意識海に入ってインブルリアの残留データを削除して欲しい。「インブルリア」を見つけて、意識が完全に統合される前に消して欲しいんだ
言い方を変えるとだな、インブルリアが残した夢に入っていって、夢ごとぶち壊してくれ
データを送受信するバイオニックを虱潰しにするより、問題の根本を叩いた方が手っ取り早いだろ?
僕には深層潜行している構造体の意識海を長時間安定させておくことができない。だから、[player name]の協力がいるんだ
あなたなら、それができるでしょう?
全ての構造体とリンクする必要はないよ。あなたはグレイレイヴンを率いてくれればいいんです
今回、グレイレイヴンの皆さんには斥候としてバイオニックの疑似意識海に入り、「インブルリア」の位置を確認してもらいたいんだ
ハセン議長は仰っていた。現在、小型遠隔意識装置及びその使用権限を持つ指揮官はあなただけだと
時間の関係で、バイオニックの疑似意識海へリンクする端子は構造体用のものしか用意できていません。だから、遠隔リンクで先遣隊の探索を指揮して欲しいんです
重篤汚染区域のみに使用という原則はわかっているけど……バイオニックの疑似意識海もまた未知の領域。指揮官は必須です。それでハセン議長に使用許可を求めました
各地に暴走したバイオニックが現れ始めている。数はそれほど多くないけれど、増加傾向にある。僕は守林人とともに暴走したバイオニックを牽制し、拠点への侵攻を防ぎます
空中庭園から専用の意識海安定剤が支給されています。隊員の皆さんは潜行前に必ず使ってください。もし安定剤では追いつかない状況になったら……その時は首席どのの出番です
その時、音声通話を知らせる通知音が鳴った
説明が終わった頃合いだな?状況は理解したな?もう一回説明しろってのは勘弁だぞ
[player name]、お前らの探索時、こっちも同時に疑似意識海のネットワークの解析を進める。お前らをできる限り異常信号に近いポイントに投下するから
それで、お前らの戦闘データを介して「インブルリア」意識体を定位する。ポイントがわかり次第すぐに知らせる
接続端子はリーフと同期済だ。技術支援は俺が直々に担当するから、総指揮は任せたぞ、[player name]
航路連合と守林人との協力作戦だ。お前以上の適任がいると思うか?
じゃあな、頑張れよ
「眠り姫」が残した夢魔を殲滅してこい
「眠り姫」ですか……悪趣味な冗談ですね
というわけで、状況は把握したな?俺たちはお前らの疑似意識海潜行を支援するから、あとのことは頼むぞ
……どうか、この悪夢を本当に終わらせてくれ
指揮官。グレイレイヴン、いつでも出られます。ご指示を
疑似意識海潜行システム起動、同期開始――
>>>安定剤注射
>>>意識海偏差較正……80%――90%――99.8%――
……ヴァーチャルアバター構築完了
深層潜行を開始します