魔王に勝ったその瞬間、周囲の一切がボヤけ始める。そして……まるで見えない力に掴まれて、そこから投げ出されたような感覚に襲われた
指揮官ッ!!
気がついた時は、一面の暗闇だった。目を凝らすと、遠くの方で微かに光っているものが見える。先ほどまで戦闘していた場所のようだ
エンディングの準備中です
……皆、無事です!
勇者の皆さん、ゲームクリアおめでとう!
お前は女神か、それとも魔王か?
女神に決まってるじゃないですか。ちなみに、国王も魔王も、ちゃんと生きてますからね
なんだと……生きている!?まさか、2巡目があるんじゃないだろうな!?
先ほど「クリア」って言ったでしょう?このゲームはおしまいです。国王も、魔王も、もうできることはありませんよ
世界は平和になったのか?
ええ、世界は平和になりました。次にゲームが起動するまではね
私たちはゲームから独立した意識を持っているように見えるかもしれませんが、実際はゲームの一部にすぎません
もし他の勇者がやってきて、ゲームのリプレイボタンを押せば、世界は変わり始め、魔王やら何やらが悪事を始めるでしょう
じゃあ、俺たちがやったことって、全部無駄だったのかよ!?
そういう循環こそが私たちの「ルール」ですから。同じ年月の繰り返しかもしれませんが、私たちは変わらず、この世界で生き続けるんです
あるいは、世界の変化に気づいていないだけかもしれませんが、私たちは毎回確実にシナリオの一部として勇者たちに協力し、次の循環に繋げる
大いに達成感を感じます
女神はゲームの全てを「ルール」と呼び、誰もが皆、ルールの下で生きている
そして、女神はそれを誇りとしている。そうでなければ……光り輝く笑顔は見せないだろう
ボタンひとつで世界が混乱するとか、どう考えても駄目だろ!お前ら、本当にそれを受け入れられんのかよ!?
一見シナリオの本筋とは関係なさそうに見える女神として、あまりふさわしい発言ではないかもしれませんが
ですが、あえてこうお答えしましょう
それがどうした?
はあ!?
女神の回答はカレニーナを愕然とさせた。その呆れきった表情に、女神は笑みを深くする
あなたたちは次もこの世界を救ってくれると信じています
じゃあ、約束しましたからね
じゃあ、他の勇者にお願いします。あなた方のような勇者たちにまた会えると信じてますから
そろそろ時間ですね
はい。このゲームは、プレイが一定時間を超過した場合や最終章をクリアした場合、プレイヤーの安全のために強制退出させる仕様になっていますので
女神が言い終えた瞬間、またしても見えない力に体を掴まれ、外へと引っ張られる感覚に襲われる
暗闇の中、女神は再び口を開いた
私はこれまで、多くの勇者と出会いました。そのうちのひとりが言ったんです。ゲームの中で世界を救っても、何の報酬も得られないと……
他人の称賛を得られるわけでもなく、ゲームで得たアイテムを外の世界に持ち出せるわけでもない
それで、私は彼に訊ねたのです。ではなぜ、真剣にこのゲームをクリアしようとするんですか、と。彼は答えました
「この世界が、勇者が必要としているから」
超かっけぇ…………
どこがかっこいいのよ!単なるゲーム廃人じゃない!
このゲーム最大の泣かせどころですよ……!あなたって人は、なんでそう台無しにするんですか……
クリエイティブスタッフの名前が目の前を流れていく。ただし、その多くが「セリカ」に書き換えられていたが
皆がスタッフロールを尻目に、思い思いに感想を言い合う……
「色々めちゃくちゃだったけど……プレイしてくれて本当にありがとう。」
それが最後に見た言葉だった