Story Reader / 幕間シナリオ / 英雄の名 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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理想の刃

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???

あら、意識海の安定度が回復したわね。そろそろ目を覚ます頃合いかしら

意識を取り戻したばかりのロイドの耳元に声が響いた。声の持ち主を判別する前に、激しい痛みが彼の意識海に侵入し、彼を一気に覚醒させた

ハァハァ……ハァ……

ロイドは荒い息をつきながら、激しい痛みの原因を理解した――彼の腕には巨大な傷があった。鋭い刃物で切られたようだ

うるさいわね……痛みを感じるってことはまだ死んでいないってことじゃない

ベッドに横たわるロイドはようやく、傍らに立って不機嫌そうに機械を調整しているヴィラに気づいた

ヴィラさん……どうしてここに……

ニコラの命令であなたの生死の確認をしに来ただけ。どうやらまだしばらく生きられそうね

でも、あなたにくっついていたやつらは運が悪かったわ……

ロイドはようやく、ニコラ直属の構造体兵士たちとともに任務に就いていたことを思い出した。任務中、翼を持つ巨大な侵蝕体に遭遇し、ロイドを撤退させるため彼らは残った……

彼ら……彼らはどうなったのですか!?

ヴィラは煩わしげに目を逸らし、答えなかった。しかし、その答えは明らかだった

私みたいな者のために……どうして……

私みたいな者……?ハッ……

ヴィラは冷笑して、ロイドの襟を掴んで持ち上げ、顔を上げられずにいるロイドに無理やり自分を見つめさせた

英雄ごっこをしたいならご自由に。別にあなたを非難するつもりもない、でもね……

ヴィラの目に異様な殺意が表れた。ロイドは彼女のこんな表情を見たことがなかった

やつらはあなたを守るために命を捧げた。それはあなたが生きていることに、彼らの生死を超えた意義があるからよ。その覚悟を侮辱するつもりなの……

自分の使命に責任を持ちなさい。「不死身のロイ」といわゆる意識伝送は、兵士たちの最後の希望の光じゃないといけないの

ヴィラは声を小さくしたが、それでもなお揺るぎない迫力があった

あなた……本当に英雄になりたいの?

能力も覚悟もない。ヴィラから見て、ロイドはただ馬鹿げた責任感に騙されたお人好しの青年だ。戦場の真の残酷さを知った時、怪我で身体を痛めた時、その甘さは掻き消える

私は……

ロイドは1冊のノートを取り出した。以前、ヴィラと彼が一緒に任務をした時に、ひと目見たノートだった。中には過去の「ロイド」が経験した全事象が記されている

考えたことがなかった……あなたが正しいのかもしれません。私には英雄になる覚悟も力もない……ただこのノートに記されたことに従って、「ロイド」を演じているだけです

ヴィラさん……私は自分がうまく演じていれば、いつか本物の英雄になれるんじゃないかと思っていました

ロイドは苦笑いしながら、力なく首を振った

確かにあなたの言う通りだ。英雄ではない者が英雄になることはできない……日に日に増えていく嘘は、私に苦痛しか与えません――私は一体どうすればいいのか……

本当の英雄になる力、あるいは真相を打ち明ける勇気がなければ、その苦しみは永遠について回るわ。その苦しみに耐えられないのなら……

ヴィラは立ち上がり、ロイドに向かって刀を抜いて構えた

ならば死になさい。臆病者のように死ねばいい。全ての責任を放り出して、この全てを次の「ロイド」に任せればいいわ

目の前の刀はとても鋭く光っていたが、ロイドは恐怖を一切感じなかった

ヴィラさん……次の「ロイド」なら、その彼は私よりも有能な英雄になれるんでしょうか?

おそらくね。でもその時、あなたはもう死んでるから、その答えを知る必要はないわ。未来がどうかなんて、あなたに関係ないこと

あなたに把握できるのは……今だけ、今の自分だけよ

ロイドは目の前の刀に手を伸ばし、強く握りしめた――鋭い刃が手の平に食い込み、染み出した循環液がゆっくりとロイドのノートに滴り落ちた。白い頁が血の色に染まる

痛い……でも……

刃物で手を切る痛みは侵蝕体に突き刺された腕の傷跡よりも鮮明で、握れば握るほど、その痛みが強くなる

今の私はそれでも……それでも、「ロイド」になり、真の英雄になりたいと思っているんです

たとえ、私の物語が嘘に始まり嘘で終わるとしても、もう少し努力して……「ロイド」として戦い続けることにしたいんです

ロイドは刃から手を放し、真の痛みを感じて、そして再び拳を握りしめた

ヴィラさん……次回の任務のあと、戦闘訓練をお願いできませんか?私は、あなたのように、危険に立ち向かうのに十分な自信と実力が欲しい――

ヴィラはいたずらっぽく微笑み、刀を鞘の中にしまった

それを断ったら……?

そうですね……では、ニコラ司令に懇願します

ロイドの真面目な顔を見て、ヴィラの表情は徐々に和らいでいった

ふん、やるじゃない。私が思うほどバカではなかったのね……試してみればいいわ、でも……

きっと後悔する……私と同じようになるかもよ?私は「英雄」という言葉から最も遠い存在なのだから

ヴィラは最後にもう一度ロイドを見て笑い、振り返ることなくその場を立ち去った

ヴィラの背中を見て、ロイドは首を振り、そっとノートの表紙をなでている

違いますよ……あなたこそが……