Story Reader / 幕間シナリオ / 無垢なる祈り / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

雪の森の少女

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新ムルマンスク港近郊の森は雪に覆われた。木々の上に厚く積もった雪が、落ちそうで落ちない絶妙なバランスを保っている

トナカイ

…………

突然、木々の間から若いトナカイが飛び出し、ふらついたかと思うと雪の上にドッと倒れた

その振動で、木に積もった雪が一斉に落下する。白い雪とトナカイが流す血が鮮烈なコントラストを織りなした

続いて、猟銃を持った老人が現れた。老人は体に積もった雪を払ってから、トナカイの脇にしゃがみこんで様子を確かめている

ロゼッタ!

またしても木々が揺れ、ひとりの少女が現れた。老人が「ロゼッタ」と呼んだ少女であるらしい

ヒョードルおじいちゃん

こいつはお前に任せた。森で生きていく方法を勉強しなくちゃな

トナカイはもがいており、荒い呼吸に合わせて傷から血が溢れ出てくる——もう長くは持たないだろう

トナカイ

ヒュー、ヒュー……

ロゼッタはナイフを構え、そっと近づく。トナカイに恐怖と絶望に満ちた目を向けられ、ロゼッタも怯えた

だが、ヒョードルが決して弱さを許してくれないことは、彼女自身が一番よく知っている。ロゼッタは震える身体を叱咤し、トナカイの喉もと目掛けてナイフを振り下ろした

だが、ロゼッタがナイフを刺し込もうとした時、ヒョードルが溜息を漏らした

ロゼッタ……お祈りはどうした?

あ、ごめんなさい、おじいちゃん。忘れてた……

ロゼッタは慌ててナイフを置くと、目を閉じて祈り始める

ロゼッタ、よく覚えておくんだ……どんな時も自然と生命への敬意を忘れてはいかん

災難というのはな、いつだって人間の傲慢さがもたらすもんだ。わかったか?

ロゼッタがそっと目を開けると、トナカイの呼吸はすでに止まっており、その目も閉じていた

ロゼッタは安堵のため息を吐き、それから慣れた手付きでまだ温かいトナカイの毛皮を剥ぎ、肉を切り分けていく

そういえば、おじいちゃん。今日、狩猟漁業組合の人が来たよ。多分……

何回言えばわかる!外の連中と話してはならん!会ってもいかん!いつも言ってるだろう……!

突然のヒョードルの怒声に、ロゼッタはビクついた

会ってないよ……ただ……人がうちの前にいるのを遠くから見て、泥棒かと思って……

ヒョードルは大きく息を吸い、必死に怒りを制御しようとしている

泥棒が来ようが、お前が心配することじゃない。わかったか

ロゼッタは首を縦に振り、それ以上なにも言わなかった

組合から請け負った調査員か何かだろう……わしは明日港に出るから、小屋でおとなしく留守番をしていろよ。絶対外に出るな

うん……わかったよ、おじいちゃん

帰りには市場に寄ろうと思っている……

ロゼッタの戸惑ったような顔に、ヒョードルの表情もようやく柔らかいものになる

お前に彫刻刀を買ってやろうと思ってな。ずっと欲しがってただろう?

ほ、本当!?

ロゼッタが物心ついた頃、ヒョードルはいつも木を彫っていた。そうして出来上がった彫刻を、市場で売るかロゼッタの玩具にするかしていたのだ

それがまさか、孫娘が彫刻に興味を持つとは……ヒョードルはずいぶん前に気づいていたが、口に出したのは今初めてだ

じきに夜になる。さっさと片づけて帰るとしよう。今年は冬が早い――「潮」もだ

ヒョードルは目を細めて耳をすませる。遠くで、バイオニック特有の送受信音が鳴っていた