フェイススキャン完了。身分認証中……身分認証成功、ランストン·スミス
オ帰リナサイマセ、ランストン·スミス
ただいま
ハイ、オ帰リ
ありがとう
7時になったら登校する。30分後に起こしてくれる?
コマンドエラー
上位コマンドト相違。上位コマンドヲ優先シマス
スミス様ヨリ、ゴ指示デス。ゴ帰宅後、速ヤカニ書斎二向カイ、スミス様トゴ面会クダサイ
お父様、じゃなかった……
スミス様は……今書斎にいるの?お休みを邪魔することにはならない?
ロボットの言葉を聞いたランストンの表情はわずかにほころんだ。だが、すぐに気を引き締め、そっと荷物を置く
ゴ帰宅後、速ヤカニ書斎二向カイ、スミス様トゴ面会クダサイ
ロボットは命令を復唱する。ランストンも足早に書斎へと向かった
……スミス様、いらっしゃいますか?
入れ
はい、失礼します
君の成績表を受け取ったよ
……はい
悪くない
ジョン·スミスは指を動かし、バーチャルスクリーンを2回タップした。スクリーンはブラックアウトした
だが、授業中のテストとはいえ、4.721……なぜ5を取れなかった?
こういったつまらんミスは……今後二度とないように。わかったかな?
君はこのジョン·スミスの息子なのだ
最も優れた、完全無欠の創造物であるはずだ
はい、肝に銘じます
わかったならいい
R2に君のデータベースを検索させた。不要なデータは私の方で削除しておいたぞ
黄金時代初期以前の雑音、綺麗事ばかりの嘘八百、無意味な物語、それにエドガー何某。「グレート·エスケープ」でゴミまで一緒くたに宇宙へ持ち出してきたとは、実に遺憾だ
ランストン、我が息子よ。ジョン·スミスの息子として、何をなすべきかわかっているね?
有用な物だけを選択し、つなぎ合わせて、完璧な自分を創り上げるのだ
「スミス」とは、完璧な怪物なのだ。私が君を連れ帰って息子としたのは、君をスミスにするため、完璧な「私」にするためなのだから
……
……いつか私が一線を退く時、君が次のスミスになる。私がしていることは、君のためでもあるのだ
これは、父たるスミスが息子たるスミスに、毎日投げかける言葉だ。ランストンも、その言葉の意味をよく理解している
父親に憧れ、父親の指示に従う。何も持たない、ただの子供だった自分が今のランストンでいられるのは、全てスミスのお陰なのだから
スミスこそが、この世界の答え。スミスになることが、ランストンの最終目的であり、究極の夢。スミスで始まり、スミスに終わる――
それが、ランストンの世界だった
話は聞いている。指揮官選抜のための最終リンク試験は3日後だそうだ
スミス様。僕も教官から聞きました。指揮官選抜は実戦試験ではなくなったようですね
本来は実戦が予定されていたが、人員不足なのだろう。今空中庭園にいる構造体はおそらく、黒野専属の機体ばかりだ
だが、かえって良かった。実戦となると、構造体という影響要因が出てくるわけだからね。君も、劣った製品に足を引っ張られるのはごめんだろう、「スミス」
はい、仰る通りです
スミス様、午前7時ニナリマシタ。本日ノ主ナ予定ハ、地表7号基地ノ建設場所ニ関スル常務委員会会議デゴザイマス
もうそんな時間か。それではランストン、私は出かける。君も遅刻しないように
上座のスミスは、執事ロボットを伴って部屋を出ていった。残されたスミスは、頭を下げたまま扉が閉まるのを見送った