隊長、またなんか難しいこと考えてるんですか~?
……
カムイはいつもこうやって、クロムの思考を邪魔する。初めてチームを引き継いだ日から今日まで、ずっとだ
「ストライクホーク」は、噂通りに優秀だ。隊員それぞれが独自の強みを持っており、単独行動に長けている
……カムイ。30分以内に整備を終え、ポイントに戻れと言ったはずだが
整備ったって、武器を解体して組み立てるだけじゃないですか。なんか意味あります~?
おのれが手にするあらゆる物の構造を熟知し、徹底的に利用する。それがスミスのやり方だ
スミスって……またソレですか。俺たちの隊長はクロム隊長であって、スミス隊長じゃないでしょ
クロムはモニターを操作していた手を止め、カムイを見た
……私は、なろうとしているんだ
そっか……じゃあ、そうなれるように俺も手伝いますよ!
手伝う?
うん、だって仲間じゃないですか!
クロムは隊長権限を行使してカムイを定位置に戻し、「スミス」から受け取った任務計画の確認を再開した
「今回の作戦中、ストライクホークは囮となる。予定のポイントに到着後、クロムは単身後退せよ」
……
クロムはそっと目を閉じた
「機械の発明ほど素晴らしいものはない」
「我々はおかしな時代に生きる、おかしな人間だ」
空中庭園·ファウンス士官学校、7:30
ランストン·スミス
第1問。「構造体+指揮官」戦闘体制において使用されるリンク技術の現状について、軍事的観点に基づき簡潔に述べよ
ゲシュタルト教室抽選システム作動中
被選出者、ランストン·スミス
起立して、解答してください
はい
科学理事会の最新の研究報告によれば、リンク技術の軍事応用には主に二通りの方法があります
1、コネクトシステムを用いて構造体の意識海と深層的なリンクを行う方法。空間的な距離を考慮せず作戦の指揮を行うことができ、現在は主にこの方法が採用されています
2、現場における構造体との協同作戦。逆元装置と人間のマインドビーコンを用いた短距離リンクです。この方法は制約が多く、現在ほとんど使用されていません
得点を計算中。次の設問に解答してください
第2問。指揮官‐軍事構造体リンク技術の運用原理について、要点を述べよ
「ゲシュタルト」システムの公共運用投入により、人間の認知意識を持続的にアップロードすることで高効率かつ絶対的客観性を持つ決定を行うことができるようになりました
ですが、人間の脳に関わる研究は権利関係が極めて複雑なため、科学理事会によって特定秘密研究に指定されています
現在の権限で閲覧可能な初期の研究資料によれば、人間の大脳にあるニューロンは約1000億個、つまり100万億を超える接続を「生成」できる
ニューロン、つまり神経細胞は、樹状突起から神経伝達物質を発出して情報を伝えますが、これは電位であることから現在の……
あいつが……ランストン·スミスか……
今学年の首席らしいぞ
スミスっていったら……もしかして……スミス政務官の関係者かな?
政務官のご子息様で学年首席、天才にしてイケメン。いいとこ全部取りかよ……
……同時に、指揮官は意識リンク技術によって、構造体意識海の不正常波動をより効率的に安定化できるというわけです
得点を計算中。次の設問に解答してください
第3問。地上作戦を遂行する構造体を指揮するにあたり、データベース上における任務地の情報が不十分だった。この場合、行うべき事前準備について述べよ
可能な限り資料を集め、既存資料の情報分析を行います。パニシング濃度は地理的要因と密接に関係しますから、まずはガウス·クリューゲル図法で地形を投影し……
さすがは優等生。月末の予備指揮官選抜試験、枠は3つしかないって話しだけど……こりゃもう1枠は埋まったな
得点を計算中。しばらくお待ちください。
ランストン·スミス、5点満点中4.721点。正答との誤差がわずかにあります
おいおい、史上最高得点じゃないのか?
ほとんど満点みたいなもんだろ
……大いに違うね
天才のつぶやきが、誰かの耳に入ることはない。机の下でそっと握られる拳……何かが壊れる音が鳴った
やっと終わった!ランストン、俺たちと一緒に遊びに行かない?
おいおい、なに誘ってんだよ
なんだよ、皆クラスメイトだろ?
……天才は俺たちとは違うってわけか。ごめんな、ランストン。勉強の邪魔しちゃって悪かったよ
……
時間の流れに従い、空中庭園内部も次第に人工的な夜の色に染まっていった
空中庭園·ファウンス士官学校、0:30
人間の脳の記憶力はおおよそ100万億シナプス強度
脳は、その時の状態と過去の経験に基づき、ニューロン間の接続強度を修正することができる
反復訓練によって神経回路の接続方式を最適化し、速度と精度を大幅に高めるんだ
全ては反復だ。ひたすら繰り返せば、いい
成績順公開システムのモニター。常時表示される順位の第1位に掲げられた氏名は、ランストン·スミス――
「英雄のごとく戦わん——!」
「驚くべき勇猛——不朽の名声——!」
完璧でいなくては……
ランストンは直立したまま、科目要項を繰り返し読み込んだ。昨日、今日、そして明日の科目――あらゆる情報を一文字も漏らさず、全て脳に刻み付けるかのように
……
ランストンは目を閉じ、ポケットに忍ばせていた鋭利な突起物を自分の皮膚に突き刺した。その瞬間、鋭い痛みが全身を走り、意識が覚醒する
くっ……
鋭い痛みに患部が脈打つようだ。だが、慣れてしまえば、そこまで耐え難いことでもない
……もっと痛みを強くするべきだな
携帯式の工具でも作るか……
……やはり天才だ
どこからともなく、あざ笑う声が響いた