6月の太陽は砂漠の奥地から現れた脱獄囚のように、狂った熱さと乾いた砂嵐をまとっている
ワタナベは砂地を歩いている。夏の風は突然理性を失ったかのごとく砂を巻き上げ、どこかの海から届く塩辛い風と、廃工場のガソリンの匂いを巻き込んで、姿を消した
ワタナベはかすかな硝煙のにおいを感じたが、それもまたすぐ乾いた夏の風に吹き消された
果てしなく続く、方向さえわからぬ砂漠に、ワタナベは立っている
逆元装置は、空気中のパニシング濃度が極めて高いことを狂ったように告げている。だが、それとは裏腹に、ワタナベはかつてないほど凪いだ気持ちだった
ふん……貴重な午後の休息だというのに。これ以上、邪魔をするなよ
ワタナベは手を伸ばし、頭の逆元装置に触れた。手に触れた鋭い角は、深海生物や獣の骨のように、冷たく硬く、そして脆かった
ワタナベは角をしっかり握ると、歯を食いしばり、渾身の力でへし折った
ぐっ……あ……
空中庭園の管制ネットワークからは強制離脱してしまったので、ワタナベには痛覚システムを遮断する術がなかった
だが、どのみち痛覚を遮断しようと思ったことなど一度もない。空中庭園にいた時も、自分自身の存在を自覚させてくれたのは、痛みだけだったのだ
痛みによって、ワタナベは多くのことを学んだ。これも教官の教えだ
ぐっ……
痛みに耐えつつ、そのまま逆元装置を無理矢理外すと、ワタナベは額の傷から流れ出る循環液を拭った
ふん……
こんな首輪、もう必要ないな
手のひらの上の逆元装置は循環液まみれだ。ワタナベは手を思い切り握りしめ、再び開いた。指の間から、バラバラになった逆元装置が落ちていく
ワタナベはそれを顧みることもなく、静かに、しっかりした足取りで「オアシス」に向かって歩き出した