少々想定外のこともあったが、構造体ルシアは審査に通った
長官、それはつまり、彼女を実戦に投入するということでしょうか?
その通りだ
リスクが高すぎます。もう少し経過観察をした方が……
実際に運用しなければ、正確なデータは得られんだろう。それに……粛清部隊がいる。何ひとつ心配はいらん
再考の余地がないことを悟った科学研究部員は静かに首を振り、手元の端末で軍用構造体のデータを読み込み始めた
……では、グレイレイヴンに新しい隊員を配属しましょう……長官のお考えは?
補助型は必須だ。それに装甲型も……いや、あとは黒野の上層部に任せよう
黒野?なぜです?
我々の判断だけでは公平性を欠く。ルシアにつける隊員については、向こうにもそれなりの考えがあるかもしれんからな
了解しました。隊員を確認後、全データを長官にお送りします
うむ、急ぐように
某日、空中庭園通路
今日は恐ろしく重要な日。私は緊張のあまり、油の足りない機械のようにぎこちなくなっている。歩く度に左右の手足が一緒に出るありさまだ
全ては数日前に指揮官が受け取った資料のせい
司令部は、諸々の検討によりグレイレイヴンに対する新規隊員の補充を決定した。また、隊員補充後は作戦任務に配置するものとする
資料には他にも色々と書かれていたが、私は最初の通知文に釘づけになっていた
補充される隊員は2名。私と同じように地上での作戦経験を持つ、明らかな即戦力だ
嬉しい反面、グレイレイヴンの行く末を不安に思う
――少なくとも、記憶の中の……あんなことにはなってほしくない
考えていても仕方ない。指揮官に声をかけられ、私はオフィスのドアを開けた
あっ……
オフィスには、初めて見る構造体が2体。青い男性、ピンクの女性
あまりにも単純な言葉だが、それがふたりに対する第一印象だった
男性はこちらに気づいても何ら反応せず、静かにオフィスを見回している
女性は少し落ち着かない様子で室内をうろうろしていた。たまに目が合っても、すぐに顔を赤くして下を向いてしまう
個性溢れるふたり……私とは違うタイプだ
指揮官も彼らも、何も話さなかった。この沈黙を誰かが破らないといけない。そうでないとグレイレイヴンは翼を広げられないし、私たちの物語も始まらない
だから――
皆さん初めまして、ルシアと申します。機種番号BPL-01、紅蓮。グレイレイヴンの隊長です――
以後、よろしくお願いします……!
言葉を発している間、意識海の状態は大いに乱れた。何をされているわけでもないのに、ただただ「恥ずかしい」という感情が湧く。それでも、なんとか最後まで言い終えた
やや形式ばった挨拶を終え、安堵のため息をつく。するとドアの前に立っていた指揮官が拍手をし、自分は正しかったのだと理解した
新隊員のふたりも、その雰囲気に流されたようだ。先に口を開いたのは男性の方だった
機種番号BPN-06、異火。リーといいます
以前は……まぁ、今はもうグレイレイヴンの一員ですし、やめておきましょう。武器は双銃を使用しています
戦闘も戦術も、僕にお任せください
リー、異火。データによれば、私と同じ攻撃型のようだ
次は私ですね……えっと、リーフと申します。補助型です
以前はホワイトスワンにいました……使用武器はフロート銃です。皆さん、よろしくお願いします
番号は?
あっ……すみません。機種番号BPN-08、機体名は闇蝕です
少しおどおどした様子だったが、リーフも自己紹介を終えた
ホワイトスワン……なるほど、戦略的で有名な小隊ですね……
まるで情報を分析するかのように、リーはしばしの思考に入る
う…………
それによってリーフは余計に不安になったようだ
ルシア、リー、リーフ
私たちの名前
紅蓮、異火、闇蝕
私たちの機体名
刀、二挺拳銃、フロート銃
私たちの武器
これが――新しいグレイレイヴンだ