Story Reader / シークレット / 16 永夜の胎動 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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開演

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私はここに記す:

実験失敗

実験失敗

実験失敗

集噛体の構想は新たな可能性を示したが、代行者の前では吹けば飛ぶようなひ弱な力でしかない

やはり「コア」がなければ、設定した力を全て発揮するのは困難だ

絶対的な力がすぐ眼前にあるのに、それをコントロールできない

それを思うだけで私の全身のパーツがきしむような思いだ

どうしてもコアが必要だ

必要とあらば私の命も差し出せるが、昇格ネットワークが私の手で未来へ進むのを見届けなければならない

ラミアは無能だがロランにはわずかながら利用価値がある

ロランの立ち回りのせいで、αにはまだ我々の計画を気取られていない

……α

代行者の意志を揺らがせる不安要素。それ自体にも十分な資質を持つ

最適な選択肢といえる

ルナ様に私が創り出した異合生物の力をお見せすれば

あの方はきっと私の計画に賛同し、私のやり方を肯定してくれるに違いない

もし、そうならなければ……

……別の案も用意している

こ……殺さないでください。お願いです!私はただ仕方なく……

顔が泥まみれの難民は震えながら壁の一角に身を縮め、彼に迫ってきた3人を見た

完全武装の3人のスカベンジャーが武器を彼に向けた状態で取り囲んだ

まさか、俺らからスろうとするなんて。俺らが可愛いカモに見えたのかよ

気をつけろ。体に包帯を巻いてる。もう侵蝕されているかもしれない

もたもたするな。めぼしい物を奪って早く行こうぜ

最も近い保全エリアまで、あと4、5日はかかる。夜はもっと危険だ。ここで時間を無駄にしたくない

ま、待ってください。も、持っている物は全部差し上げますから!どうか殺さないで……

自分のマントへ伸びてきたスカベンジャーの手をさっと避けると、難民は震えながら自分のリュックの中身を地面にぶちまけた

数個の缶詰と圧縮ビスケット、未使用の小さな包帯やアルコールと弾倉いくつか、ぼやけた写真が入った写真立てと壊れたトランシーバー等がスカベンジャーたちの足下に転がる

ほう、結構持ってんな

「髭」は写真立てを蹴飛ばすと、食べ物と包帯、弾倉をチェックして自分の鞄に入れ、ザックに目配せをした

ザックは頷き、リュックを必死に抱えている難民の手を銃で殴った。痛さに悲鳴を上げて、難民はリュックから手を放した

「髭」は短刀でリュックを持ち上げ、冷ややかに笑いながら地面に叩きつけた。二重構造のリュックには布で包んだ鉄の箱が入っており、箱には褐色の汚れが全面に付着していた

……うぅ!

隠そうとしていた物が露出し、難民は震え、更に頭を下げた

こいつ、こんな状態でよく隠そうと思ったよな

これは何だ?お前が開けろ。余計なことはするなよ

それを聞いた難民はすぐに箱を拾い上げ、縁に貼ってあるテープを剥がそうとした。しかし彼の両手に汚れた包帯が巻かれているせいで、指が滑ってうまく開けられない

それを見たザックは、不機嫌そうに舌打ちをした

す、すみません……手に怪我をしていて、すぐ、すぐ開けますから

テープが少しずつ剥がれていき、ガチャリと音を立てて鉄の箱が開いた

すぐに冷気が立ち上がって消え、やがて鉄の箱のくぼみに3本の血清があるのが見えた。隣にセットされた注射器には世界政府のロゴがはっきりと印されている

これは……まさかこんな簡単に手に入るなんてな。血清だ。ザック、お前の……

黙れ

……しかも普通の血清じゃない。こりゃ世界政府のマークだ。軍隊で配られる品だから民間の血清より効果が高いはずだ

……ますます貴重な逸品さ。俺たちでもこんなのは手に入れようがないってのに

なあ、えらくいいものをいっぱい持ってんのに、更に俺らの補給をかすめようとしたってのか?欲をかくとそのうち死んじまうぞ

……

その言葉はつまり、そこにいる全員を罵ることと同義だった。だが「髭」はそれに気づかず、嘆きながら血清を鞄に入れた

愚かさを隠そうともしない仲間から離れ、ザックは震えている難民の横にしゃがみ込み、小声で訊いた

……どこで手に入れた、教えろ

……浄化塔だと?

難民は勢い込んで頷き、逃げ出したそうに体をずらした

ここからそう遠くない場所に森林公園があって、そ、そこに浄化塔があって。そこは誰もいないんです

中には多くの補給物資があって……大きな箱やこれと同じような箱がいっぱいあって、どれも全部世界政府のロゴがあるんです。でも、重すぎて、全部は運べなくて……

それは砂漠を彷徨う旅人に、すぐ近くにオアシスがあるぞと言っているようなものだ。夢のような吉報に、スカベンジャーはしばらく黙り込んだ

やっと誰かが声を出した

……どう思う

怪しいもんだな。そんなに補給物資があるなら、この状況じゃあとっくに空っぽにされてる

……でも、本当にあいつが言うように多くの補給物資が残っているなら、行く価値はあると思う。こちらの補給ももうそうないしな

マジかよ?そんないい場所があったとしても、俺らを待つのは補給物資だけじゃねえよ。すでに中でくつろいでるヤツらとドンパチやるだけだ、わかってんのか?

もう忘れたか?前もどっかの組織が再建物資をなくしたとかどうとか似たような話で、お前、どうしても見に行くって言い張ったよな!

結局行ってどうなったよ?あそこにゃ、赤潮と気が狂って中へ飛び込む変なの以外、なーんにもなかったぜ。俺らは仲間を失い、ザックは危うく……

でもザックは無事に生きているじゃないか。それに撤退中、075号都市を通った時に空中庭園が難民を移転させて、保全エリアを建てるって情報を聞いただろう

もしお前があんなにグズグズしてなければ、最後の輸送機に間に合ったのに

俺のせいかよ!?

ザックがイラついてそう言うと、言い返そうとしていた「髭」もその表情を見て渋々口を閉じた。しかしその手はぐっと短刀の柄を握りしめていた

もうたくさんだ

ザックがイラついてそう言うと、言い返そうとしていた「髭」もその表情を見て渋々口を閉じた。しかしその手はぐっと短刀の柄を握りしめていた

……

ザックは鞄から地図を取り出し、地面に広げた

その浄化塔、具体的にはどこだ?

ここから北西へ、道に沿って歩けばすぐです!

本当です。嘘なんか言ってません!

ザックは難民が示した方向を指でなぞり、「プリア森林公園」と書かれた場所で止めた

……40号浄化塔か。我々の移動速度と道の状況を考えると、到着まで3、4日かかる

塔の存在と場所についちゃ、彼は嘘を言っていない

まさか、行く気か?

俺たちの今の補給物資だけじゃ保全エリアへ行くのは無理だ。コルテス、医療物資はあとどれくらいある?

コルテスはためらいながら口を開いた

昨日、最後の血清を使いきった

……この1週間は高濃度のパニシングエリアを避けようと遠回りをしすぎた。消耗が激しいな

浄化塔内に補給物資がなかったとしても、この方向から公園を抜け、北上すれば保全エリアを探せる

拠点から離れた時から、どうせ俺たちには退路はないんだ

ザックは地図を鞄にしまい、立ち上がった。それからこっそり逃げようとしていた難民に素早く銃を向けた

前を歩くんだ。道案内をしろ

銃口を向けられて難民は雷にでも撃たれたように、両手を挙げた。しかし、ザックの言葉を聞いて彼は明らかに動揺し出した

どうした。何ぐずぐずしてんだ。早く歩けよ

あ、あの場所は……

怪物が、侵蝕体がいます。危険です……

難民はしどろもどろになりながら遠くを指さした。町の外、遠くの地平線の向こうに緑の線がわずかに見えた

あの公園には……多くの侵蝕体がいます

じゃあお前はどうやって逃げ出した?

私は……

このざまを見ろよ……俺らが補給を全部奪ったら、どうせこいつは生きられないぜ。ここで殺してやるってのは?

「髭」は短刀をくるくるともてあそびながら笑い出した

こ……殺さないでください!森へ入る道を知っています!な、何度も行ったんで、安全な道がわかっているんです

裏切ったら、どうなるかわかるな?

「髭」、さっさと片づけて、出発だ。それとしまい込んだ補給物資を全部出せ。俺が見てないとでも思ったか

へいへい、まったく目ざといな

「髭」は鞄から弾倉と医療用品を取り出してザックとコルテスに分け、その後また鞄の中をザックに見せた

ほらよ、これで全部だ。決まりでは食べ物担当は俺だろ。もうこんだけしかないんだ。俺が取ったって言うなよ

よし、出発だ。ああ、えっと……

ザックは眉をひそめた

名前は?

え?

名前はなんだって訊いてるんだ

こそ泥の名前を気にする者などいない。今まで誰もそんな質問をしなかったせいか、難民はあっけに取られていた

私は……

ゴクリと唾をのみこんで、難民はたどたどしく答えた

ロルモ、私はロルモといいます

よし、ロルモ、前を歩け

逃げようなんて考えるな。お前の足より俺の弾の方が早い

小突かれながら、難民は前屈みで先頭を歩いた。スカベンジャーから顔が見えなくなった一瞬、難民の顔からさっきまでの卑屈な表情が消えた

……

ずっと影に隠しているオッドアイの両目を細めて、「ロルモ」は考えていた

通常、グループで行動するスカベンジャーは、物資や補給を均等に分配し、各自が好きなように使うはずだ

だが彼らは補給物資を分け、それぞれが保管している。ひとりは医療補給物資、ひとりは食べ物、ひとりは武器弾薬というように

これは見えない鎖だ。グループから離れて単独行動ができなくなる。自分の物資だけでは生き延びられないからだ

安定して物資を得られないこの末世では、食べ物は前進のためのエネルギーで、医療品は傷や侵蝕の手当、武装は侵蝕体を回避する唯一の手段だ。どれがなくても死んでしまう

全員がそれぞれにグループの生命線を握っているため、彼らは敵対もできないし、単独行動も取れない

愚かなのか、賢いのか。だが彼らが互いを信用していないのは明らかだ。彼らは何かの理由で行動をともにするしかないらしい。だからこんな方法でお互いを牽制している

あまりに古典的なやり方に、ロランはすでにこのグループの結末を予見した

(……ふぅ。今回も、同じ結末の茶番劇だな)