Story Reader / シークレット / 15 ラストスパーク / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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15-5 好奇心

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ラミアは彼らの中で自分が異物だと知っている

死の恐怖、痛みの恐怖、飢えの恐怖。彼女は多くのものを恐れ、頭の中にはいろいろな感情が満ちている。彼らの中では、ラミアは別の星から来た宇宙人のようなものだ

全ての人間は彼らのように冷酷で薄情なのか?それとも彼女が弱すぎるのか?

彼女はいつもそのことで頭を悩ませ、更に自分の存在意義をも疑っていた

医療部の部長は最近忙しく、ずっと何かを書いているようだ。机には参考資料とメモがうず高く積みあがっている

ラミアは彼のことをよく覚えている。長い間、面倒を見てくれたからだ

「飼育」してくれたと表現するほうが正しいかも知れない

彼にとって、ラミアはただの変数の集合体だ

身長、体重、血圧、心拍数、肺活量、基礎代謝。これらの数値に問題がなければ、彼はラミアをほったらかしにしていた

ラミアは彼の前で泣き叫んでみることがある

彼の反応はいつも同じだ――ラミアに心理疾患があるかどうかを診断するだけ。ラミアがただ怒っているだけと確認できれば、彼はすぐさま自分の仕事に戻る

今、彼は机に向かってラミアが理解できない文章をずっと書きつけていた

おじさん、何をしているの?

仕事だ

でも……おじさんの仕事って病気の人を治療することじゃないの?

それは以前のことだ。今は任務が変わった

にんむがかわったって、どういうこと?

もうすぐ医療部の人間がいなくなるから、同僚たちのために薬の使用方法を書き残しているんだ

よ……よくわかんない

意外にも、彼は彼女の無知にうんざりした様子をみせなかった

基地が今、配給制度になっていることは知っているな?

知ってる

もうすぐ、食糧が足りなくなる

じゃあ、どうするの?

簡単だ。消費量を減らす

ど、どうやって減らすの?

誰かが飢え死にすればいい

ラミアは目をみはった

そ、そんな!誰が飢え死にするの?

今の研究に対する貢献度で、優先順位をつけるんだ

まずは行政部、それから後方支援部、次に医療部

お……おじさんが、飢えて死ぬの?

彼はそれに淡々と答えた

ああ。私は医療部の一員で、例外は許されない

……

医療部長は終始、こちらを見ずに話し、話す間も一度も手を止めなかった。ラミアには人間味のなさを感じさせる背中しか見えない

ラミアは今までになく恐怖を感じた

彼女は思わず声を張り上げた

じゃ、私は?

何?

わ……私も飢え死にするの?

ああ、君は特別だし、編制からみてもどの部門にも属さないので……主任は別の手配をしているはず。でも、君は役立たずだから、最後までは残せないだろう

知りたいなら、彼らが君をどの段階においているのか、代わりに行政部で訊いてやろうか?

わ、私……

涙があふれ出てきた

すすり泣く声を聞いて、ようやく医療部長は振り返った

泣いているのか?

言葉も声帯もコントロールできず、ひきつけを起こしたような声だけが激しくなっていく

私……

嫌だ……

ラミア、死にたくない

その様子では今は話せないな

まず自分の気持ちを落ち着かせるんだ。それからまた話そう

彼の注意はまた自身の仕事に向けられた

どれほど時間が経ったのか、ラミアはやっと自分の激しい感情をコントロールできた

声は涸れ、目も腫れている

袖はすで涙と鼻水で汚れていた

ラミアが泣きやむと、医療部長はまた振り返った

普通に話せるか?はいかいいえで答えるんだ

……はい

どうして生き延びたいんだ?

生きたくないという方がおかしい!

みんな頭がおかしいの!?

感情を爆発させても無意味だ。私の質問を理解できていないようだね。言い方を変えよう

何かしたかったことがあるのか?

……ありません

君でないとできないことがあるのか?

ありません……

なら、君の命は主観的にも客観的にも必要性がない

必要性ってなに?ラミアは死にたくないだけなの!

感情をコントロールしなさい

私にやらなきゃいけないことはないけど!でも、まだ経験していないことがいっぱいある!

大陸にいきたい……

で?行って何をする?

わからない……

着いて何をするかさえわからないのに、大陸に行きたいのか?

大陸が、本に書いてある通りかどうかを知りたいの

山と森を見たい。砂と泥を踏んでみたい。雨の後の草の匂いをかぎたい。大陸の風と海風の音の違いを聞いてみたい

サンプル室に大陸の砂と泥のサンプルがある。特に変わらないよ

ううん、違う

そう言い切る理由は?

……理由はわからないけど、でもきっと違うと思う

医療部長は無機質に白い光を反射する眼鏡の奥から彼女をじっと見つめた

ずいぶん時間が経ってから、彼の顔が少し和らいだ

なるほど、「好奇心」だな

アトランティスに入るために、ここで働くために、私は多くのものを手放した

君は……不思議だ。君を見て思い出したことがある

……うん?

君は生きたいと思っている、そうだろ?

ラミアは勢いよくうなずいた

ならば「役立つ存在」にならなければ。それはアトランティスのルールだ。使えない者は不要だ

ラミアはどうすれば「役立つ」んだろう

焦る必要はない。君が何の役に立つのか、考えてみよう

……そうだ。ひとつ方法があるが、リスクがある

やってみる

最後まで話を聞くんだ

パニシングが発生する前、科学理事会はある技術を開発していた。人間を機械に改造する技術だ

技術は未熟だが、我々はその技術で君を改造できる……君はもともと下肢がない。もし海洋での長距離移動に適した下肢に改造すれば、我々に代わって外に情報収集に行ける

情報収集することで、君は生き延びる価値を持つ

だが改造を受けるにはTa-193コポリマー適性が要求される。すでに技術は更新段階かも知れないが、我々の技術はプロトタイプだ。我々の本職は人体改造じゃないんでね

外の文明が今、どうなっているのかは知らない。改造された人間がパニシングの侵蝕に抵抗できるかどうかも知らない。それでも、君は外に出たいか?

はい

彼の説明を待たずに、ラミアはすでに何度も頷いていた