市場にいたパフォーマンス用ロボットを操縦したのか……
隊長、あの怪しいやつがいなくなりました!
そこまでだ
パフォーマンス用ロボットを操る吊人を払いのけるようにして、風変わりな装束の人物が現れた
なぜ私のあとをつける?そもそも、お前たちは一体どうやってこの船に乗り込んだ?
機械体を操る能力を持つ、仮面を被った――構造体。クロムが「気になる人物」といった存在が目の前にいる
クロムはカムイに目配せし、武器を床に置いた。カムイもそれにならう
我々は空中庭園のストライクホーク。私はクロムだ。隣の男はカムイという
我々の目的はこの船の情報だ。特に、AIシステムに関する情報が欲しい
待ってくれ、こっちの情報をそうも開けっぴろげに……
通信機越しに傍聴していたマーレイが、慌ててクロムを遮る。クロムの意図をまるで理解できないといった様子だ
こいつ、殺気がないんだよ
殺気……?
そう、殺気。信号の一種。隊長の特化装置で感知できる……
そもそもロボットを操れるんだから、ケンカしたいだけなら、わざわざ自分で出てくることないじゃん
クロムに代わってマーレイに答えるカムイはどこか嬉しそうだ
まあまあ、ここは隊長に任せとけって!
空中庭園……ふむ、聞いたことがあるような、ないような……だが、AIの話ならば、心当たりがある
そう言うと、仮面の男は右手を差し出した。クロムもまた、右手を差し出し、ふたりは握手を交わした
何も訊かないのだな
差し出された手を握る勇気もない者に、小隊長は務まりません
両者の間には一瞬にして信頼関係が築かれた。少なくとも、マーレイにはそう見えた
一体どうなっているんだ……
ふむ、お前たちが先ほどから通信を繋げている相手……そちらもご紹介いただけるかな?
もちろんですよ。マーレイ、通信を共有しますが問題ありませんか?
あっ、ええ、隊長のあなたにお任せします
マーレイはぎこちなく微笑みながら、仮面の男の視覚システムに同期を行う
なるほど、連絡員の類か……
私は嘲風、九龍商会九龍衆のひとりだ
やはりこの船の所有者は、九龍商会なのですか?
昔はそうであったが……今はお前たちが言うところの「AI」にコントロールされている
AIに……?
もともとは九龍商会が開発した「華胥」というAI管理システムで、航路計画や運航等あらゆる動作を担っていた
つまりはこの船の頭脳であったわけだが、長きにわたる航海中に不測のトラブルでも発生したのだろう……
やがて、華胥は船上の全ての存在を束縛するようになった。あらゆる機械に制御コマンドを埋め込み、この商船の制御を完全に掌握したのだ
ゲシュタルトと同原のAIが、なぜそんなことを……
どうやら「人間」になりたいらしい。あらゆる者を船上に縛り付け、永遠に続く航路を設定した。全ては、己にふさわしい「体」を探すためだ……
つまり、AIは自分の意識を機械にインストールするつもりってこと?
構造体の身体にな。最初に標的とされたのは我々の首領「曲」だった
では、曲は今……
身体こそ奪われなかったが、傀儡に成り下がってしまった。今はシステムの制御下だ
この船はAIシステムの統制下で……終わらない悪夢を見続けている……
……だが、それも今日までだ。私ともうひとりの九龍衆が、首領の奪還計画を実行する
曲を奪還してどうするつもりですか?
首領は中央制御室へのアクセス権を持っている。華胥のコアがある場所だ
そこに侵入し、華胥のコアを直接叩く……そういうことですね?
そうだ。私は華胥の制御下にあるため、手出しはできない。だが、お前たちなら可能だ。そして、我々が他所から呼んだ者たちも……
なるほど、外部応援も手配済だったのですね
ああ……手数は多いに越したことはないだろう