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All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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運命の迷宮

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秘密の地下広間で死の騎士を見つけた瞬間、魔女ハイタンは恐怖に駆られ、迷路のように入り組んだ通路へと駆け出した

どどどどうして彼女が、ここまで来られたの?あの人と一緒にアケローン川に囚われてるはずなのに?

落ち着いて……!私は魔女ハイタン。もう立派な悪魔の領主なんだから。アトランティスも奪い返した。ほら、準備はもうできてるし、全ては私の手の中……

オメガの卵はもう少しで孵化するから、皆戻ってこられる。あの怖いヴィラでさえ、私の選択を認めるしかなくなるんだ……

彼女の呟きは、尾鰭と人の脚を必死に操りながら、アトランティスを無邪気に駆け回っていた頃の幼い少女そのものだった

もう、誰も何も消えたりしないんだから……

魔女ハイタンは全力で逃げた。しかし、死の騎士は影のように背後をぴたりと追い詰め、じりじりと迫る熱気が背中に張りついてくる

ここの広さなんて知れてる。逃げられるとでも思ってるの?

ヒィッ!!

魔女ハイタンが悲鳴を上げ、全身の鱗が逆立ちそうになった

彼女は前方に転がるようにして、死の騎士の一撃を辛うじて避けた。槍の穂先が耳元をかすめて壁に深く突き刺さり、彼女は低く唸りを上げて震えた

その衝撃で、彼女の懐からいくつかの小さな物がバラバラとこぼれ落ちた。それは、かつて彼女がラストリアスの部屋で手にしていたものだ

――あッ!

激しく擦り減ったペンが地面に落ちるのを見た彼女は、手を伸ばして拾おうとした

しかし、死の騎士が彼女より先に動き、落下するペンを掴み取った

ダメ……!返してよっ!

彼女は慌てて取り返そうとしたが、その時、こちらが銃口を彼女に向けていることに気付き、動きを止めた

……前の領主の物をずっと持ってるのね?

死の騎士はそのペンの持ち主を見抜き、少し意外そうに、目の前の人魚を見つめた

よ、よくもあなた、そんなに平然と「前の領主」なんて言えるよね?

あの時、皆が死の王に従って聖堂に歯向かうって知ってたんでしょ?それがどれだけ危険なことか、全部わかってたのに、止めなかったんでしょ!

前の領主は、あなたを信頼してた。何もかも、信頼して任せてた……アトランティスそのものさえ託したのに、あなたは……くっ!

死の騎士は素早く距離を詰め、魔女ハイタンを地面から乱暴に引っ張り上げた

戯言はもういいわ、使者に取り憑いているオメガの卵がもうすぐ孵化する。取り除く方法をさっさと吐きなさい

もう手遅れ……オメガの卵は孵化しなきゃいけないの!アケローン川の水を吸って、アトランティスで孵化するのが絶対なのっ!あなたに止められるもんか!

あなた、ずっと私のこと、アトランティスでいたずらばっかりしてるバカだと思ってたでしょ!?

魔女ハイタンは怒鳴り返した。赤髪の悪魔を前に、初めてその胸の奥にある叫びを解き放った

以前の私は……「死」とか「別れ」とか、そんなもの全然わかってなかった。ただアケローン川を眺めてただけ。そういう存在だったから。考える必要なんてなかったのよ

アトランティスの皆が去っていくなんて、想像したこともなかった

でも、皆がいなくなって、気付いたんだ!

黎明の法則は生死の法則とともに崩壊し、夜のない夜が幾晩も続いたあの頃、彼女は分け与えられた小さな領地で、ただひたすらにアトランティスでの日々を思い返していた

あなたたちが私に「魔女ハイタン」なんて名前を与えて、遠くの領地に追いやった……自分たちはもっと遠くに行って、二度と帰ってこなかったくせに!

もし本当に別れが来るのなら、それは皆が地獄の務めを終えた時。アケローン川に喜んで入って、人間界に渡って、再び人間界の生活を楽しむ時であるべきよ

たとえ皆がよぼよぼになってても、地獄に戻ってきた時には私は絶対にわかる。きっと笑顔で、すぐにもう一度アケローン川に蹴り落としてやれるのに

こんな……今のこんな終わり方、絶対に認めない!!!

その叫びは、かつての「ラミア」としての彼女から漏れ出た、哀切極まる慟哭だった

涙が目元から静かにこぼれ落ちる。彼女は「ヴィラ」の手からペンを奪い、拘束を振りほどいて、地面に突っ伏した

そして再びグレイブを持ち上げると、しっかりと握り締め、ヴィラの正面に立ちはだかった

なんで聖堂なんかと戦おうとしたの?あんな不可能なことに、どうして挑んだの?

なんで人間と手を組むの?なんで人間に優しくするの?

皆が追い求めているもの……どうして私には、ずっとわからないの?

彼女は叫ぶように問いかけてきた。理解できなかったことを、認めたくなかった真実を、自らがすがる最後の流木のように手放さずに、問い続けた

まるで、かつてのあの日、元の生活を取り戻せると囁かれたその瞬間に、迷いなく飛びついたように

つまり、聖堂に保管されてるあの……「オメガの卵」は、一時的にアケローン川の代わりになれるってこと?

向かいの闇に溶けた影が、静かに頷いた

焚火の谷の古文書を読み返してみて。「オメガ」と呼ばれる卵はアケローン川と同じ源から生まれたもの。もともとはアトランティスのものだった

でも聖堂はそれを奪い去り、更に死の王を封じた。結果、生死の法則は崩れ、アケローン川は死の水となった

魔女ハイタンは目を見開き、その真実に身体を小さく震わせた

……アケローン川が死んだ水となった今、あの卵なら……皆を連れ戻すことができるの?

あなたは……どうするつもり?

その影がくすりと笑った気がした

ふふ……大胆で危険な考えね

ば、バカにしないで。わ、私は、聖堂なんて怖くないんだから

混沌の使者の秘法門なら、どこへでも行ける。聖堂にだって潜入できる……そうだ、使者を説得して協力させて、あとは聖堂の連中に成りすませば……

そううまくいくとは限らない、魔女ハイタン。聖堂は子供の遊び場じゃない

じゃ、どうすればいいの?

もしかしたら……力になってあげられるかもね

その日、彼女は痛みを伴う選択をした。それはまるで足を焼かれながら聖堂の床を素足で歩くような、そんな苦しみに満ちた決断だった

それでも彼女は、最後の希望を手放さなかった。この全てを成し遂げさえすれば、世界はきっと、元通りになると信じていた

彼女は聖堂の壮大なドームの下に立ち、たったひとつ彼女の手が届く「星」……オメガの卵を見上げていた

彼女はそっと跳び上がり、その卵を抱き締めた

あの卵はアケローン川の代わりになれる。川の中に囚われて生まれ変われない「石」を救い出せる

は?バカなこ……

ほら、やっぱり。何を言っても無駄だ

私が誰かの甘言に乗せられたって……そう思ってるんでしょ?確かに100%安心ってわけじゃないよ、でも、他に道がないじゃない!

そもそも、そっちもどうなのよ?その、正体の怪しい人間を信じちゃってさ。今でも聖堂に牙を剥く道を進み続けてるんじゃないの?

皆で私を子供扱いして、ワタリガラスすら飛んでこないような場所に放り込んで、能無しの魔女だってバカにして!

魔女ハイタンの怒りは憎しみの根を越えて広がり、自らに銃を向ける人間と、その人間のバッグから顔を覗かせるワタリガラスを鋭い視線で睨みつけた

ガァアアァ!?

もう我慢できない!ヴィラ。あなたは真っ赤っ赤な大嘘つきだ!世紀の大泥棒よ!

凶悪だし、強引だし、横暴な理不尽ヤロウめ!

魔女ハイタンは力強くグレイブを持ち上げ、目の前の相手へと真っすぐに向けた

私の目の前から……永遠に、深淵の果てに沈め!