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All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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鍛えし脊柱

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刃がぶつかり合い、金属同士が衝突する音が絶え間なく響く。荒波のように押し寄せる衝撃波が、周囲の建物に次々と新たな傷跡を刻み込んでいく

焼け焦げた鷹の旗が広場を見下ろし、いくつかの砕けた大理石の彫像は闘技場の観客のように、目の前で繰り広げられる凄惨な決闘を静かに見つめていた

ハァ……ハァ……

…………

幾度となく激戦を繰り返した末に、ワタナベと相手はともに体力の限界へとたどり着いた

呼吸をする度に四肢と骨が引き裂かれ、焼けるような激痛が全身に走る。それでもワタナベは並外れた意志の力だけで、必ず勝たねばならぬ戦場に立ち続けていた

悪魔の力はすでに枯れ、銃も全て消え去った。復讐を成し遂げられる唯一の武器は、手にしている焚禍の災輪だけ――

(「鉄逝」の触手も消えた……)

相手も同じ状況だろうか?

確信は持てない。だが、力尽きかけているワタナベは、この戦いを一刻も早く終わらせるために決意を固めた

――!

鋭い刃が太陽の下で致命的な輝きを放つ。ワタナベはサーベルを固く握りしめ、怒号とともに駆け出し、最後の力を絞り切ってこの一撃に賭けた

バンッ――バンッ――

引き金を引くと、2発の血弾がサーベルの閃光と並走し、怒涛の猛攻を形作った

ガキィィィンッ!!!

閃く冷たい光が、断頭台のような斬撃を受け止めた

……やはり我慢できなかったか。獲物が力尽きるその瞬間を待てばよかったものを

触手が空中に飛び出し、最後の魔力を振り絞ってワタナベの血弾を阻んだ。そしてそのまま輝きを失って砕け散り、煌めく金色の斑点となって消えていった

――昔のようにな!

鉄逝は武器を手放し、素早く前へ踏み出しながら身をひねり、ワタナベの上半身に体当たりをした

(……間に合わない!)

鉄逝はワタナベの右手をしっかりと掴んで逆手にひねり、サーベルを地面に落とさせた

――ハァッ!!!

続けざまに、鉄逝は怒号を上げながら右拳を振り抜いた。強烈な拳は烈風のように、致命的な威圧でワタナベの顔面へと襲いかかった

!!

疲れ果てた体は思考に追いつかず、ワタナベはただ筋肉の記憶が促すままに腕を上げて防御した

ガンッ!

激しい衝撃でワタナベは数m押しやられたあと、口から血を吐き出し、力なく片膝をついた

ガハッ……!

血に染まった視界が、衝撃で立ち込めた煙塵に覆われる。ワタナベはその中でぼんやりと、鉄逝が腰の銃を抜いて自身に銃口を向けるのを見た

これで終わりだ――

……ぐっ!!

瞳孔が急に収縮し、その場に立ち尽くした鉄逝の全身が激しく震え始めた

出ていけ……私から……出ていけ!

神経に釘を打ち込まれたかのような心を抉る痛みが、鉄逝の朦朧とした意識の中で炸裂した

ワタナベ……!

朽ち果てた心の中で、もがき苦しむ支離滅裂な思考が彼の体を押し倒し、地面に落ちていた何かを拾い上げた

濃煙の中から勢いよく投げ出された焚禍の災輪は、ワタナベのすぐ近くに転がり落ちた

――目を開けて、周りをよく見ろ!

そこでワタナベはようやく気がついた。これまで断続的に聞こえていた銃声がやみ、代わりに要塞のあちこちから歓声が上げられていることに

彼がゆっくりと顔を上げると、軍団の鷹の旗が次々と建物から下ろされているのが見えた。更に遠くでは、義勇兵たちが喜びの涙を流しながら抱き合っている

どうやらこの小さな決闘の舞台の外で、グレイレイヴンが数多くの苦しむ同胞たちを率いて、より壮大な戦場で勝利を収めていたようだ

フッ……お前が私を殺しても……この結末が覆ることはない……

ワタナベが震える手を伸ばし、地面の武器を拾おうとした瞬間――はっきりと聞こえた撃鉄を起こす音に、その動きを止められた

混乱状態に陥った鉄逝は、再び漆黒の銃口を掲げ、ワタナベの視線を縛りつけた

お前たちの短慮は軍団だけでなく、この焦土の辺境全体を取り返しのつかない深淵へと堕とす!

天使は全ての人類を抹殺する!この星の歴史も、我々が奮闘し続けた全ても、栄光も死も、全てが永遠に忘れ去られ、葬り去られる!

私は無数の未来を見届けた。だが……軍団と人類が存続する明日に繋がる道は、これしかないのだ!

人々に打ち倒された屠殺者どもが……天使の傀儡にされた指導者が……何の資格があって……未来を語っている?

ワタナベは軽く笑い、口元の血を拭いながら顔を上げ、目前の致命的な脅威と向かい合った

かつての鉄逝はもう死んだ……どれだけ綺麗事で飾り立てようと……お前は人間の皮をかぶった怪物でしかない

聖堂はその体を……悪魔より恐ろしい悪魔に腐敗させたんだ

黙れ!

悪魔と呼ばれたことに対して「鉄逝」は怒鳴り声を上げた

鋼鉄軍団の歴史は、悪魔の断末魔と屍血の上に築かれたものだ!ケイオスバースを征伐する戦いの中で、どれだけ多くの戦士が悪魔に虐殺され、異郷の地で死んだと思っている!

人類と悪魔は戦い続ける運命にある。たとえ最後のひとりになろうと、地獄とは相容れない。それが我々の血に刻まれた真実であり、鋼鉄軍団が決して裏切らぬ使命だ

白隼もツウも、この大義のために身も心も削り尽くした……それなのに、その子孫が悪魔と手を組む日が来ようとは!なんと哀れなことか!

常に余裕を見せていた「統帥」の目には、いまや許しがたい怒りの炎が燃え盛っており、その語気は次第に激しさを増していった

……

まさにその「悪魔」とともに歩んだ旅路の中で、私は戦場では決して学べない、しかし生涯をかけて貫くに値する真理を理解したのだ

ワタナベは身を引き裂くような激痛に歯を食いしばり、ゆっくりと立ち上がった

力とは公正な1発の弾丸だ。その価値を決めるのは材質でも重みでもなく、自分がその弾丸を何に向けるかだ

旅路の道中で私は見た。聖堂が容認したために悪行に走った罪人を。そして地獄に選ばれながらも自らを燃やし、人々の未来を照らした善人を

そして、私は悪魔になった

しかし私の弾丸は、とっくに人間の在るべき方向に向かっていた

勝利の凱歌の中で、人々は新たな旗を高々と掲げた

烈風にはためく灰色の旗々は、決して人間に慈悲を与えなかった天穹を昂然と見下していた

父上が言っていた。この地を見捨てた者は、最後には必ずこの地の反撃を喰らうと

人々のために戦う者が何万回倒れようと、その人々が立ち上がらせる

あの人に出会うまでは気付かなかった。私たちの間の憎しみは、この世界の崩壊した秩序と深く結びついていたんだ

ふっ……

軽蔑するように笑った「鉄逝」の瞳が、完全に金色に染まった

そして、彼は懐から懐中時計を取り出した

音が止まったら武器を拾え

そして私を撃て

彼は銃をホルスターに戻し、不公平なルールを淡々と口にした

……お前が弾より速く動ければの話だがな

カチッと音がして、美しい旋律が流れ始める

それは清らかな泉のように湧き出し、刻一刻と時がすぎていく中で、砕け散った戦場の中心からゆっくりと広がっていった

……

ワタナベは旋律の一音一音を注意深く捉えながら、視線を鉄逝と足下の武器の間で油断なく動かしていた

そして音が止まったあとに取るべき行動を脳内で何度もシミュレートし、打開策を探す――

音が止まる前に動き、鉄逝の不意を突くべきか?

(……いや、「鉄逝」は私より速く反応できる)

ワタナベは少し前にやり合った鉄逝との決闘を思い出し、その考えを捨てた

ならば大声を出すか砂を蹴り上げ、相手の注意を逸らすか?

(……いや、彼にそういった小細工が通用するはずがない)

(音楽の音)

そよ風は首を長くして待ち侘びる死神のようにこの墓地をなで、旋律が終焉へと向かうのを見届けていた

あらゆる抜け道は断たれ、時間はもはやワタナベが新たな答えを見出すのを待ってはくれない

ここまで来た以上、正々堂々と命を賭して戦う他ない

(一瞬で身を翻して武器を拾い、引き金を引けば……いや、さすがに難しいか……)

(……それでもやるしかない)

残り僅か数秒のところで、ワタナベは全身の筋肉を引き締め、全てを賭ける決意を固めた

(音楽の音)

そして、旋律は終わりの瞬間を迎えた

(――今だ!)

しかし、音が止まることはなかった

!?

ワタナベの背後から完全に一致する旋律が鳴り響き、まるで灰燼の中で再び燃え上がる炎のように、この決闘の伴奏を引き延ばした

人間は銃口を鉄逝に向け、もう一方の手には同じ金色の懐中時計を持ちながら、ゆっくりとワタナベに歩み寄った

……グレイレイヴン?

ワタナベはすぐ側にいる戦友を見た。その瞳の奥には驚きと、誰にも気付かれないほどの微かな喜びが光っていた

これを持っていてくれ

牢屋にぶち込まれる前に、きっと身体検査が行われるだろう。これを敵に渡したくない

ワタナベはゆっくりと顔を上げ、殺戮の跡が広がる大地を越えて、遥か高くに広がる蒼穹を見つめた

……私は信じている。英霊たちの魂が、彼らが深く愛したこの地から離れることはないと

彼らは風となり、岩となり、愛した全てとなって……いつまでも人類の子孫を見守り、ともに歴史の波に乗り続ける

だからこそ、父には鋼鉄軍団の再生を一番近くで見届けてもらいたいんだ

それに、焦土の辺境でグレイレイヴンの側より安全な場所はないだろう?

彼は顔を横に向け、小さく微笑んだ

とにかく、頼んだぞ

どうか、大事に持っていてくれ

人間人間はそう話しながら、1挺の銃が入ったホルスターをワタナベに渡した

まさか、先にあなたに背中を守られることになるとは……

彼は、以前人間と交わした「約束」を口にした

自分の仇は自分で取るのが筋だ

彼は軽く笑いながら首を振った

いや、ちょうどだ

ああ

彼は小さく頷き、涼しげな笑みで応えた

ここで戦争の歩みを止めるわけにはいかないからな

人間は頷き、銃口を鉄逝に向けたままゆっくりと後退し、いまだ決着のつかぬふたりにその場を明け渡した

旋律は鈴のように澄み渡り、新たな憎しみも古い恨みも、熱く静かな戦場に溢れ出していた

そうか……お前を悪魔の従僕にしたのはグレイレイヴンだったのか

あいつあいつまでもが……チッ、本当に救いようのない種族だ

そろそろ目の前に集中したらどうだ?

……

澄みきった旋律が流れる中で、ワタナベは一瞬たりとも目を逸らさずに鉄逝を鋭く見据え、右手をグレイレイヴンのホルスターにかけていた

鉄逝は顔を上げ、余裕すら漂わせる冷笑で応じた。生死を分かつ審判を目前にして、その目には絶対的な自信が宿っている

天使と悪魔は原始的かつ野蛮な形でぶつかり合い、死の鐘が鳴るのを静かに待っていた

砂塵が舞い上がる中、ワタナベは突然遥か昔の蒸し暑い午後を思い出した

あの時の湿った空気と、汗ではりつく衣服――そして、いまだに結末を見ないまま終わった口論を思い出した

その時、鐘が鳴った

……狂信者の主力はすでに撤退した。残りの敵はこの先の監視塔に立てこもっている

聖環銀弾を渡してはならない。態勢を整える時間を与えずに、今すぐ砲兵部隊を動かして攻撃を仕掛けるべきだ!

ダメです、塔には多くの無辜の民がいます!

私に任せてください、彼らと交渉してみます

あの狂った連中と交渉だと?塹壕から1歩踏み出した瞬間にお前は蜂の巣だ!

足下の血にまみれた肉塊が見えないのか?やつらがお前の同胞を何人殺した?お前はやつらの兄弟を何人殺した?ここは学校ではない、戦場だ!

……軍規第3条、鋼鉄軍団は人々によって創設された軍隊であり、常に焦土の辺境の民を守ることを最高の使命とする

私の銃口は、人類の敵にのみ向けられます

軍団の参謀部を代表して、鉄逝副統帥からの作戦命令の執行を拒否します

この馬鹿者が……卒業を早めるべきではなかった!

白隼統帥、作戦命令の再検討を!

これ以上ためらっている時間はないぞ!現に聖環銀弾はまだ敵の手にある!

……

命令を伝達せよ――

その時、衝撃音とともに監視塔の扉が内側から蹴り開けられた

???

ちょっと!あなたたち!!

彼女は肩に負傷者を担ぎ、気絶させた狂信者を片手で引きずり、息を切らしながら戦場の向こう側に向かって叫んだ

ツウ

中に怪我人が大勢いるの!早く手伝いに来なさいよ!!!

……母上?

特攻組の単独行動など誰が許可した?

ツウ

またあなたたちが言い争う声が聞こえたんだもの!

何度も言ったでしょう、喧嘩したってチャンスなんて掴めない!いい加減覚えなさい!

それで?お互い気は済んだ?だったらさっさと仕事しなさい!

歳月はあまりにも多くの命と色彩を奪い去り、かつて信じていたいくつもの真理さえも曖昧になってしまった

長い時を経て、彼らが再び立ち並び、砕け散った自分自身を拾い集めた時――

あの勇気と命をめぐる議論も、2度の鐘の音とともに勝敗が決した

ぐっ……!

勢いよく飛び出した銃弾が、武器を抜くワタナベの右腕を正確に貫いた

血が飛び散り、激しい衝撃によって吐血したワタナベは、体を揺らしながら片膝をつく。手にしていた武器はそのまま足下に落ちた

……

しかし、鉄逝は次の引き金を引くことはできなかった

空を裂くように飛来した1発の灼熱の血弾が、まっすぐに彼の胸を貫いたからだ

な……に?

鉄逝は膝をつき、武器を落とした。そして信じがたいものに触れるように、血まみれの胸の空洞に手を伸ばした

ガハッ……!

彼は大量の血を吐き出し、驚愕の表情を浮かべたまま銃弾が飛んできた方向を見やった

そよ風が煙と塵を散らす。鉄逝の視界の先で、ワタナベは荒い息を吐きながら、ゆっくりとその鋼鉄の左腕を下ろした

その悪魔の腕からは、炎を噴き出したばかりの迫撃砲のように熱気が立ち昇り、空気を焼けつけていた

お前が私に残した傷が……

私の最大の武器となったんだ

……ははっ

よく……やった……ゲホッ!!ゲホッ……

鮮血が決壊した堤防のように溢れ出し、視界はぼやけ、喉まで出てきた言葉までもが霞んでいく

次第に自分の声さえも聞こえなくなった彼は、ゆっくりと顔を上げ、かつて啓示をもたらした空を見上げた

その先で天地を見下していた双頭の鷹はすでに下ろされており、義勇軍の旗だけが風にはためいていた

すると彼は何かを見たかのように、もがきながら腕を伸ばした。血に満ちた喉からゴボゴボと音が漏れる

――!

鉄逝の体内からひと筋の金色の光が浮かび上がり、肌を照らした。それは血肉の中で凝結し、蠢き、沸き立ちながら背を突き破ろうとしていた

この時、鉄逝は完全に自分自身――バラードの意識を取り戻していた。彼は顔を上げ、最後の力を振り絞って叫んだ

ワタナベ!今すぐトドメを――

強い風が鉄逝の顔に吹きつけた。言葉が終わらぬうちに、サーベルが鉄逝の喉元に深く突き刺さり、彼の体内に宿る白い光を正確に斬った

……聞こえたぞ、バラード

私は……燼炎三傑の全てを受け継ぐ

……

鉄逝は笑みを絞り出し、腕をだらんと垂らしながら、徐々にぼやけていく視界の中で弟子の目を見つめた

よくやった

鉄逝がゆっくりと指を緩ませる。広げた手の平にある1発の弾丸が青色の輝きを放った

聖環銀弾……

それが鉄逝の言い残した言葉であり、ワタナベに残した最後の教えでもあった

天使の翼は折れた

塵土の者であった彼は、塵土の中へ還る運命にある

ワタナベは父の世代が人の世に残した最後の遺物を握りしめ、ほっと息をつくように顔を上げ、溶炉の中で再生した蒼穹を見上げた

死と新生が交錯する戦場の上空で、ワタリガラスがけたたましく鳴いている

そして、聖堂と地獄の間の静寂を飛び回った

ワタナベ。お前の疑問について、私も多く考えてきた

どれほど偉大な人物や事柄も永遠には及ばず、死という終末から逃れることはできない

歴史の流れが我々の足首まで達すれば、我々が刻んだ足跡は洗い流され、壮大で果てしない過去の中に消えてしまうだろう

しかし、歴史書を紐解けば、人類がずっと昔から時間に打ち勝つ奇跡を手にしていた事実に気付くはずだ

不毛の大地を開拓した賢人たち、暴君を打ち倒した英雄たち……膨大な歴史の中に、彼らの名が刻まれている

彼らの選択と勇気は、決して世界から忘れられることはない。永遠に我々の心の中で生き続けるのだ

だからこそ、責任や困難な道を恐れるな

お前が前に進むと選択したのなら、壮大な歴史が自然とお前の背中を支え、前進させてくれるだろう

鋼鉄軍団は死に負けることはあっても、時間に負けることはない

行け、ワタナベ

進むべき道を選ぶ時、振り返ることを忘れるな

焦土の辺境

1カ月後

焦土の辺境、1カ月後

砂塵舞う大地に、突如として旋律が響き渡った

西風が唸りを上げる中、ひとり佇む赤い姿がゆっくりと砂の帳の中に浮かび上がる

……

彼は鞍に跨り、両手でハーモニカを口元に当てていた。嵐の中で孤独に酔いしれる楽師のように、荒廃した大地にその洒脱さと矜持を撒いている

いつの間にか、背後から馬に乗った別の人物が現れた

お陰さまでな

ワタナベは演奏を止め、隣の人間に向けて包帯で巻かれた右腕を軽く振ってみせた。そして、誇らしげな笑みを浮かべた

まさか本当に勝てるなんて……しかも聖環巨砲まで奪還できた……

まるで夢みたいです!

聖堂に体を奪われた鉄逝の仇を必ず取らなければ

鉄逝の名誉と信仰を汚した天上の畜生どもめ……絶対に許さん!

聖堂なんてクソくらえだ!今の俺たちには無敵のワタナベさんと、グレイレイヴンさんさんがついてるんだからな!

砂塵が晴れ始めると、ふたりの背後に人が集まり始めた

ワタナベ統帥、各地の義勇軍が続々と合流している。数日前までは、あんたも懸念していた補給の問題があったが……

各地の人々の自発的な支援により、兵士たちの食料も水もこれまでにないほど充実している

率直に言おう。私の30年近い軍歴の中で……

これほど圧倒的な軍勢は見たことがない

周囲を覆っていた砂の帳は完全に消えた。ワタナベと[player name]は手綱を引きながら、かつてともに歩んできた道を振り返る――

――そこには人類史上例を見ないほどの大軍勢がいた

軍馬の嘶き、林立する兵器。灼熱の太陽の下で、その軍列は奔流のようにひび割れた大地を越え、地平線の彼方でひとつの大波となっていた

グレイレイヴン……

昨晩一緒に準備した演説だが、どちらがやる?

ワタナベはハーモニカをしまい、微笑みながら隣にいる人間を見つめた

ワタナベは頷き、前方へ馬を進めようとしたが、ふと何かを思い出したように振り返り、人間に向かって右拳を伸ばした

景気づけということでどうだ?

ワタナベは微笑みを返すと、両足で馬腹を圧迫し、迷いなく前方へと駆け出した

同胞たちよ、私は鋼鉄軍団四代目統帥ワタナベ!

先日、私は諸君とともに血戦を繰り広げ、要塞を攻略し、神殺しの聖環巨砲を奪還した!

その生死を賭けた激戦の中、私を含め多くの戦士がこの目で目撃した。鉄逝の背から生えた天使の翼と、心を操る彼の能力を!

鉄逝の行動は天使に操られていたがためであり、彼こそが至高の御方の毒刑を受けた聖堂の眷属であったことは疑いようのない事実である!

ここまでの言葉に、目の前の兵士たちは騒ぎ始めた

この30年間、聖堂は天災を仕組み、天使を派遣し、子供たちを虐殺した。そして土地を焼き払い、息が詰まるような恐怖でこの焦土の辺境全体を腐敗させてきた

今もなお、やつらは白昼が足りないと不満を抱き、人間同士の内戦を誘発し、我々が互いを憎しみ殺し合い、最後の人間が同胞の血の中で溺れ死ぬのを望んでいる

新たに生まれた統帥は、一語一語厳かに言葉を紡ぎ、荒れ果てた人間の世界を見下ろした

しかし諸君は最も暗い時代にあろうとも、人類は恐怖に屈するどころか団結し、自らを救う道への反撃を開始したことをやつらに示した!

ワタナベは体を横に向け、背後の遠方を指し示した

諸君の前にある道は、間違いなく困難と危険に満ちている。遠くない未来に、より凶暴な怪物が天から降り、更に多くの仲間が我々の眼前で犠牲になるかもしれん

恐怖を感じるのは当然だ!しかし、我々は決して恐怖を捨ててはならない。それこそが我々が人間として生まれ、聖堂や地獄と一線を引く証なのだ!

両親が目の前で命を落とし、天使が血にまみれた口を開けて襲いかかった時……私も諸君と同じく、恐怖を感じた

しかし!私は信じている!

ワタナベは右拳を高く掲げた

本当の勇気とは、心の中の恐怖を抑え込むことではない!前途が絶望に満ちていることを知りながら、それでも胸を張って1歩を踏み出し、命を賭けて戦い抜くことだ!

私は戦い続ける!なぜなら両親と恩師の、聖堂との因縁はまだ終わっていないからだ!そして、燼炎三傑が残した余燼も、誰かが受け継がねばならないからだ!

我々は戦い続ける!誰かが立ち上がらなければ、目の前の絶望はますます広がり、我々が愛する全てを破壊してしまうからだ!

いつかは私も死ぬ。我々は必ず死を迎えるだろう

だが必ず同胞が我らの旗を受け継ぎ、何千何万の仲間が命で築いた背骨を踏みしめ、前進し続けるだろう!

なぜなら!私は常に信じているからだ!

守るべき美しいものが背後にあるからこそ、人類の歴史は永遠に輝き、ひたむきに前へ突き進む!!

その高らかな宣言は大地に響き渡り、人々はこぞって右拳を掲げ、雷鳴のごとき轟きを巻き起こした

私は軍団統帥の名の下に、焦土の辺境の人類全員を代表して――

あの傲慢不遜な聖堂に、人間の苦しみを無視する至高の御方に、宣戦布告する!!

全員

「おう!」 「最後まで戦ってやる!」

「戦争だ!戦争だ!」 「天使を皆殺しだ!!」 「妻と娘の仇を!」

戦争の鉄蹄は止まらず前進し、人類を滅ぼさんとする全ての悪党を轢き潰し、腐敗した大地を一寸たりとも残さず踏み潰す!

ワタナベはサーベルを抜き、その刃を遠くの燃え盛る大地に向けた

この戦いは、永遠に続く――

聖堂が根絶されるその日まで!

「戦おう!」

天使の血が最後の1滴まで流し尽くされるその日まで!!

「戦おう!」

そして黒夜が再びこの大地にもたらされるその日まで!!!

「戦おう!戦おう!戦おう!」

戦争を必要とする者にとって、戦争は正義である

全ての希望を失った者にとって、戦争は合理的である

総員、旗の示す方向へ!

進め!!!

シンよ、答えを聞かせてもらおうか

白隼は黙ったまま眉をひそめる。その眼差しは、刃のように冷たかった

お前は……バラードじゃない

私にはわかる。君の中にすでに別の魂が入っていることが……いや、天使の傀儡になっているというべきか?

……

鉄逝は相変わらず冷たい表情で相手を見下ろし、唇を僅かに動かした

これは「彼」の残した最後の理性がために、「我」がお前に与えるチャンスだ

ホルスターにかけられた白隼の手に、ぐっと力が入る

私は鋼鉄軍団三代目統帥「白隼」

聖堂の狗と取引などするものか!

ふたり同時に引き金が引かれ、命を奪う炎が噴き出す

しかし、命中した弾丸は1発だけだった

……

ゴホッ……!

もう1発の弾丸は白隼の頬を掠り、浅い血の跡を残した

……お前、わざと急所を外したな?

鉄逝は口から血を吐き出した。瞳に浮かぶ金色の光と、背中の翼が消えていく

まだ挽回の余地があると信じているからな

彼はそう言いながら銃を下ろした

落ち着いたか?バラード、何があったか教えてくれ

私は……

鉄逝は突如口を噤んだ。「何か」が視界に飛び込んできたからだ

ワタナベ!?

!?

白隼が勢いよく振り返ると、テントの中に風が通り抜け、彼の背後に立っていたワタナベが地面に倒れ込んだ

驚いのさなか、静かに冷たい閃光が走り――

刃先が白隼の胸を貫いた

シン!!!

鮮血が噴き出し、致命的で不気味な気配がテント内に渦巻く

……お前は……誰だ?

???

……

バラード殿

取引をしませんか?