あれから2時間、カレニーナとさまざまなエリアを回った
排水に影響を及ぼす彫像も、電子回路に影響を及ぼす地面の落書きも、全て爆発音とともに強制的に撤去された
最初は順調だったが、爆発情報が広まるにつれて各流派の覚醒機械たちが警戒し始めた。作品を守るためにパトロール隊まで出動する始末だ
計画が難航してきたため、カフェのようなところで一旦休憩することにした
やっぱりお前の言う通り、スピード重視で動くべきだったのか?
カレニーナは少し不機嫌そうにストローをいじっていた。ドリンクカップに入っている青い液体は覚醒機械たちが好んで飲む「ドリンク」で、内部パーツの洗浄効果があるらしい
しかし、構造体と外界の機械体は構造そのものが異なるためか、カレニーナは看板に書かれている「爽やかな一日」を感じられないようだった
ドルシネアはこれを初めて見たようで、勢いよく飲んだと思いきや、少し残してその液体を興味深そうに眺めていた
どこも巡回中の機械体だらけだな。計画通りにできやしねぇ
ドールベアのやつ、後方指揮だか何だか知らねーけどオレたちの苦労も知らずに勝手なことばっかり抜かしやがって。地下の人工水道から目標に近付けだの何だの……
泡の準備も時間がかかるし……クソッ、こうなるってわかってたらあいつを来させたのに
……おい、聞いてんのか?
こちらの異変に気付いたのだろうか、カレニーナが様子を伺ってくる。ちょっとこのドリンクは……なんというか……
覚醒機械が試作品と言っていたため、スターオブライフ送りにならないように飲む前にしっかりとチェックしたのだが……
口に合わなけりゃ飲まなくてもいいんだぞ?
もちろんそれも考えたが、あの覚醒機械の期待に満ちた眼差し……。初めて人間のために作ってくれたのかもしれないと思うと、残すことなどできなかった
理由を説明すると、興味を持ったのかカレニーナがこの赤い液体を観察し始めた。とある仲間のかつての傑作でも思い出したのだろうか
ひと口飲ませろよ
こちらの返事を待たずに、カレニーナはドリンクカップを奪ってそのままひと口飲んだ
……ゲホッッ!!ゴホッ!!
奪われたドリンクカップはすぐさま突き返された
ゲホッ……自分で頼んだものは自分で何とかしろよな
……
3分の1なら手伝ってやる
カレニーナは少し手を震わせながら、処刑場に赴かんばかりの覚悟でドリンクカップにストローを突き刺した
……ん?
いざ飲もうという刹那、道端に立っていた色とりどりの機械体の「彫像」がカレニーナの目に入った
何でまだここにあるんだよ?
カレニーナは彫像に近付くと、それをざっと確認した
芸術品の「制作」は止めたはずだろ?それにさっきまでこんなのなかったよな?
……にしてもすげー色だな、ここまで色が使われてんのは初めて見た
そう言いながら爆弾を設置するためにしゃがむと、突然「彫像」がレンチでカレニーナの頭を叩いた
ゴンッという鈍い音がしたが、装甲のお陰で大事には至らなかった
っっっテェな!
手足を失うのはごめんだ
色鮮やかな「彫像」が動き出し、少しよろめきながらこちらへ向かってきた。一歩一歩進む度に、色とりどりの粉末がパラパラと落ちていく
塗料を落とすスプレーをかけてやると、マルクはテーブルの上のドリンクに視線を移す。まさかとは思うが、何かを訴える代わりに飲み干そうというのだろうか
もうこのようなことには協力できん!ドルシネアさんにやってもらってくれ!
ゴクゴクゴク——ガハァッ!!!
こちらが言い終わる前に、マルクの頭部のランプは光を失っていた