風車広場の舞台上では色鮮やかな絵の具が舞っていた
3つの流派に囲まれてもなお、アイラはイーゼルを広げ切り札を放とうとはしない
その代わりに、評論という名の「舌戦」に突入するのだ
アイラ本人に言わせれば、芸術の評論というのは非常に危険なもので、特に両者が「武器」を持つ時はより慎重になる必要があるらしい
感情は作品以外の場所に溢れやすいから、と
これで、戦争を止めることができるの?
まさか。芸術の主導者が選ばれ、各流派の安全が保証されるまで「パレットクラッシュ」は終わらないだろう
シュッ!
誰かがスプレーガンのトリガーを引いたのか、再び場がかき乱される
アイラはビーム槍を頼りにそれを左右に避けながら、安全そうな場所を探した
その際、風車広場付近のインフラを兼ねた各種設備が被弾した
14のエネルギー貯蔵庫がフリーズ、排水システムは塗料詰まりを起こし、完全に機能停止……
予想では2時間以内に、このエリア全てのインフラ設備が停止する
機械体たちは文字通りもみくちゃになっている
止めるには更なる武力行使か、アイラの力に頼るしかない
おお!ついに制作段階が始まるのだな?
しかし、誰が勝利を掴んでも、事態の収束にはほど遠い。その後に控える復旧作業は困難を極めるだろう
芸術の主導者……
何か手伝えることはあるだろうか?
初めは38の流派に分かれていたが、淘汰され今では3つしか残っていない
おそらく。いずれかの流派が勝てば、セルバンテスさんのような芸術の主導者が誕生する
それまでスラスラと疑問に答えてくれていたマルクが黙り込んだ
そして、思考中を示すランプの点滅が停止してから、ようやく口を開いた
しばらく一緒に行動して、指揮官が他の人間とは違うとわかった。だから、あなたにだけ伝えよう
コンステリア公認の芸術主導者は、ずっとセルバンテスさんだった
だが彼がいなくなったあと、コンステリアは公認の芸術主導者を置かず、誰もが互いに従うことのない状態になった
実はパレットクラッシュには、新しい芸術主導者を選ぶための芸術コンクールの側面もあるのだ
指揮官は、この都市における芸術の力をまだ理解していないようだ
工場を閉鎖し、エネルギーやパーツを捨てることになっても、我々は生涯をかけて芸術を追求する
戦争に参加しない機械体が避けたいのは争いそのものであって、絵画や彫刻、グラフィティアートではない
そこまでやる価値が……本当にあるの?
どういう意味かな、ドルシネアさん
その問いに触発されたのか、マルクはまるで「機械体」が変わったかのように訊き返す
ドルシネアがその変化に気付いたかどうかはわからないが、彼女はそのまま話を続けた
あなたたちの行動を止めることはできない。でも、事実としてパレットクラッシュによる都市の破壊は存在し、今後制御不能になる恐れだってある
コンステリアは今、人類とのコンタクトを終えたばかりで、共存を模索するとても重要な段階にいる
つまり、我々は芸術を放棄するべきだと?
わからない。私は芸術のことは詳しくないから……
ああ……やはりわかってもらえないのか……
以前も伝えたように、この件について、皆を説得するのは不可能だ
人間や構造体にはわからない。ドルシネアさんのような人型の機械体にだって
マルクは自身の焦燥を表現するかのように、その場をぐるりと一周した
やがて思考中のランプが消えると、自分のイーゼルを広げて、己の感情を絵に落とし込むかのように作品を描き始める
沈黙が続く中で、遠くにいるアイラがまた勝利を収めていた