飛行ユニットの中で、ずっとある問題について考えていた
機械体の芸術戦争を止めるには、どういうステップを踏めばいいのか……と
あの時、報告を聞きながらアイラは短く答えた
その返答はこれまでの作戦プランを全てひっくり返し、新プランを思いもよらぬ方向へと発展させていく
そうして今は戦場の隅っこに放置され、アイラの「不敗」伝説の傍観者となっていた
これで、私と指揮官の勝利ね
……
負けました
街のそこかしこでピンク色の姿を囲んでいた機械体たちが、次々とスプレーガンを地面に置いていく
今日だけでその光景を何度見たことだろう
計画では、アイラが戦場に突入する度に、自分は世界政府芸術協会特製のメガホンを取り出して、その場の機械体たちに向かってこう叫ぶ
「芸術で勝負だ!」
そして、アイラは機械体たちに包囲されながら絵を描き始める
最初は、アイラを奇襲しようなどの密談が堂々と行われていたものの……想定していた展開はそこまでだった
アイラの描く速度が上がるにつれ、全ての騒乱は沈黙に変わり、作品が完成する頃には周囲から一斉に悲鳴が上がった
負ける、負ける
クソッ、ここまでなのか!?
もう自分は描かない方がいいのか……
うなだれて落ち込む機械体たちは、これ以上戦争を続けるという思考を放棄し、その場に立ち尽くしている
だが、この状況を作り出した当人は、華麗なターンを決めるとこちらに向かって右手でピースサインを作った
指揮官、鎮圧完了よ
芸術で彼らを止めるの
これがアイラの提案した新しいプランだった
アイラ流派のメンバーはふたり、中でもアート方面に特化した戦闘可能なメンバーはひとり、そして現在の勝率は100%だった
アイラさん、なんと素晴らしい!
短時間での機械芸術流派の習得が難しいと知った途端、自然をテーマにした創作に切り替えるなんて
これで両者の認識違いによる齟齬は可能な限り回避できる
マルクはただの道路メンテナンス機械だ。絵のことはわからない
そう言いながらも、内心は残念そうだった
指揮官、指揮官
アイラは絵画道具を抱えながら、包囲していた覚醒機械を押しやって包囲網から出てきた。どうやら、作品を残していくようだ
えっ?
いいの。ここの皆は心から芸術を愛してるみたいだから
それに指揮官だって言ったでしょ?絵で私たちの思いを伝えたいって。私もこのやり方が好きなの
ある意味、アイラさんは本当に残酷だな……