深紅の光が混戦の中を幾度となく貫いていく
1分もかからずに、互いの絵に塗料をまき散らしていた機械たちが次々に停止した
機械たちは、長刀に斬られて使い物にならなくなったスプレーガンを見る。そして一瞬、固まってから……
すぐに塗料の入った缶を取り出し、先ほどまでの目標に直接投げつけた
あなたのアイデア……
機械たちの間を行き来していたヴィラがこちらに戻ってきた
彼女がどれだけの「武器」を壊そうとも、機械たちは争いをやめず、思い思いの方法で壁に描かれた他者の絵の破壊を試み続けている
そうすることで、勝利者を決定できるとでもいうように
本当に、くだらないわ
ヴィラの身体にも塗料がついてしまっていた
残り少ないスプレーを取り出し、ヴィラに向けて噴きかけた
シュー
スプレーに溶けた塗料がゆっくりと垂れ落ち、ヴィラは無意識に腕を振り回した
!!!
覚醒機械の辺りにスプレーの液体が飛び散り、広げられたキャンバスに危うく「穴」を開けるところだった。慌ててイーゼルをはたいて、絵の裏をこちら側に向けた
覚醒機械が使用する塗料の成分は芸術協会の物と同じだったので、アイラからもらったスプレーは最高の掃除道具になる
自分はといえば……色鮮やかに染まった自分自身を見て、もはや綺麗にする気は失せていた。結局のところ機動力に左右されるのだ、またすぐこうなることは見えている
周囲が全て機械たちのキャンバスであることを考えると、この色とりどりの迷彩による「扮装」はちょうどいいのかもしれない
何か手伝うことはあるか?
覚醒機械が画板の裏から頭を出した
そんな危険な物は持っていない
だが、非常に優秀な映像記録分析機能を備えている。塗料を使って人間を元通りにしてやることができるぞ
そう言うと、手に持ったスプレーガンを上に掲げ、こちらの肌色に合わせて調色した塗料を噴射してきた
そう言うと、キャンバスがなくなったことを惜しむかのように、明らかにがっかりした様子で装置を収めた
そうだ、人間よ。ひとつ提案がある。こっちに来て一緒に隠れないか?
各派のスプレーガンを消耗させたいというのなら、混戦の中に突撃していくのはあまり賢い選択とはいえないぞ
あら?わかってるじゃない。あなたたちはただ塗料をまき散らすしか能がないのかと思っていたわ
この戦いで勝利を収めるために我々は長い時間をかけて、廃棄された戦術モジュールからバラバラに散っていた関連情報を復元したのだ
いい分析ね……とでも言ってほしいの?
黙って描いてなさい
……
知らず識らずの内に完全に乱戦状態に陥ってしまい、こちらの会話の内容は空を飛び交う塗料の中に一瞬で埋もれてしまった
ここは戦場だぞ。戦場で敵を理解するのか?
敵?戦場?ハッ、笑わせないで
塗料でじゃれ合っているだけで?なんて残酷な戦争なのかしらね。結局、どの絵がどれほど素晴らしいかを、お互いがキャンキャン吠えているだけじゃない
どの絵がどれほど素晴らしいか、などという問題ではない。これはコンステリアの芸術の未来を決定する重要な分水嶺なのだ!
覚醒機械は少し怒りながら画板を叩いた
ヴィラに覚醒機械の芸術への執着が理解できないように、覚醒機械もまたヴィラが暴動を茶番劇と見た理由が理解できないのだ
ちょっと待って。指揮官、いいことを思いついたわ
そして、手に持っていたスプレー缶がヴィラに奪われる
本当の戦争がどんなものか、知りたい?
見せてあげる。戦争の残酷さを、ね
ヴィラはそう言い終わると、画板の一番上に噴射口を押しあてた。彼女があと少し指を押し込めば、缶の中の成分が未完成の絵を全て綺麗に消してしまうだろう
覚醒機械は仰天してキャンバスを取り外そうとしたが、ヴィラは片手で覚醒機械の手をぐいと押さえる
あなたたちのリーダーの居場所を言いなさい
絵を描くためなら他のことはどうでもいいと考えているようなのが、3つの流派に分かれているんでしょ。「リーダー」がいないなんて言わないわよね?
やっ……やつらのリーダーの居場所なら知っている……
そう言うと、その機械はあわてて地図上の2点を指差した
ヴィラが持つスプレー缶が、チャプチャプチャプという音を鳴らし、画板をつかむ覚醒機械の手に一段と力が入った
私·が·訊·い·て·い·る·の·は、あなたたちのリーダー。起きてるかしら?
我々のリーダーの居場所を知って……どうするつもりだ?
わかりきったことでしょ?「武装解除」したあとも止まらないのだから、直接会って解決するだけよ
彼女はスプレー缶を握りしめた手の指に力を入れる。すぐ側では「芸術戦争」が次第に苛烈になっていく
覚醒機械はためらっていた。まず目の前の作品を見て、それから、塗料を浴びながらも缶を投げている仲間たちに目をやる
最後に恐ろしい目つきで自分を睨みつけているヴィラと、ノズルにしっかりと押しあてられた指に視線を戻して……
待て、待て、待て、わかった!話す、話すから!
我々のリーダーは、大体あのあたりのエリアにいる
覚醒機械は覚悟を決めて手を伸ばし、遠くの建物を指さした
……あぁ、痛快痛快
我々はこの身体に執着することはない……ただ
だからこそ、頼む。偉大なる超現実機械野獣派芸術のために、力を尽くしてほしい