閃光が空中の物体を全て斬り捨てていく
ヴィラは刀身を電光のような早さで振り回しながら、瓶や缶の中から飛散する塗料を素早くかわしていく
こっちに来るな!
理解不能な絵を取り囲んだ覚醒機械たちが、各種画材を手に最後の防衛線を張っている。命懸けで「大魔王」の前進を阻止しようとしているかのようだ
強いのはもう全て倒しておいたわよ、おとなしく降伏したら?
ヴィラは話しながらも、投げられた塗料の缶をかわしつつ、無鉄砲に突進してくる覚醒機械を鞘で押さえつけている
見事な動きで淡々と相手を制圧する彼女の様子に、羨望の感情が湧き出るのを禁じえなかった
それに比べて自分ときたら……
アアアアアアアアッ
噴射装置を装備した機械体に、まるで雁字搦めにされてしまっている……
彼らと人間はよく似ている。感情が昂ると、夢中でトリガーを引いてしまうのだ……
ビシャッ!
塗料が正面から飛んできた
オレンジの「波」を浴びながら、手に持った発射装置で拘束ロープを発射して反撃する
すぐに「波」は止まった。拘束ロープに固定された覚醒機械が地面に倒れて、ギイギイとのたうち回っている
あらためて自分の身体を見ると、あちこちが色とりどりの塗料で染まっていた
もし筆を持っていれば、自分の身体をパレットにして絵を描き始めていたことだろう
芸術協会が塗料を消すのに使うスプレーを取り出し、使ってみることにした
空中庭園の分析は正しかったようだ。コンステリアの覚醒機械たちが使用する塗料の成分は黄金時代の物と同じであるため、スプレーの効果はすぐに現れた
覚醒機械には命を奪うための武器を使用する選択肢がなく、こちらは動きを制限するような手段でしか相手を制圧できない
だが、これはまったく不公平だった……生身の体で「完全武装」した金属の塊に対抗しなくてはならない上に、相手の武器の射程はこちらより相当長いのだ
これでは、相手の「砲色弾雨」を全身で受け止めながら近付くしかない
スプレーで顔の「色」を消してから、ヴィラの方の主戦場を見ると、今まさに不公平な対決が繰り広げられていた
さあ、死にたいのは誰?
彼女は塗料のホースを刀で切断しながら、飛んできた塗料缶を掴んではその塗料をすばやく別の覚醒機械の視覚センサーにぶちまけている
ついに、最後の防衛線も「大魔王」によって破られた
わかった!降参だ!
「武力」を失った機械たちの頭から小さな白旗が上がり、それが風にたなびいていた
もう終わりなの?がっかりだわ。でも理解が早いのは褒めてあげる
ヴィラは刀を鞘に収め、道にいる覚醒機械を押しのけた
そして僅かに身体を折り曲げ、顎に手を当てると、覚醒機械たちが守るキャンバスを興味深そうに眺めている
それは天馬が駆ける空の線上に自由奔放な色彩を加えた、視覚的なインパクトにあふれる色鮮やかな作品だ
そこに描かれた景色は、基本的に自然界のリアルな描写からは逸脱している
これは我々、超現実機械野獣派の得意とする作風である。どうだ、素晴らしいだろう!
覚醒機械たちのリーダーは両手を腰に当てて、自慢げな様子だ
ちょっと理解できないわ……
この絵には奥深さがある、ということだ
サンプルをとるのなら、どこを壊せばいいかしら。支え?それとも木板?
一瞬、その覚醒機械の頭からネジが数本飛び出たように見えた
彼は素早くヴィラに向かって駆け出すと、絵の前に立ちふさがった
ヴィラが手を伸ばして彼の頭を掴もうとすると、頭上の小さな白い旗が左右に揺れ始めた
話を聞いてくれ、そこの機械体よ
この街の騒乱を収めに来たのだろう?
私は他のふたつの流派の詳細な情報を持っている。私の作品を壊さないというのであれば、全て残すところなく教えよう
ヴィラはまったく興味がなさそうに、刀の柄に手をかけた
覚醒機械が慌てるほどにその腕がバタバタと暴れはじめ、まるで手振りで必死に意志を伝えているようだった
これらは全て超現実機械野獣派の作品であり、唯一無二の宝なのだ
だがヴィラは動きを止めず、ゆっくりと前へ進む……
これを破壊すれば、世界中どこにも同じ物は存在しないのだぞ
ヴィラは動きを止めず、前へ進み続け……
あ、貴女様を讃える絵を描き続けますので、なんとか作品だけはお助けください……
ヴィラはずんずんと動きを止めずに、彼女の影もが覚醒機械を圧倒した……
正直、あなたのことなんて、どうでもいいの
ヴィラの行動を止めようとしてわざと咳払いをした。彼女と一瞬、目が合う……
指揮官、どこか身体の調子でも悪い?それは大変、応急処置をしてあげましょうか
あら、残念。じゃあ、オペは次回のお楽しみね
ヴィラは注射器を指の間でくるくると回しながら、収納ケースに戻した。彼女が一歩下がったので、その覚醒機械が見えた
覚醒機械は戸惑った様子で首をかしげている
もちろんだ
覚醒機械はなおさら戸惑ったようだった
いずれにせよ、暴動鎮圧の不要な戦闘を避けられるのなら、これが一番の方法であることに疑いの余地はない
結局、これからの人間と機械の未来を考えることが解決に繋がるのだ
ヴィラはイライラしていたが、ひとまずアイコンタクトで必死に宥めた
ひとつ質問をしても?
なぜこの機械体は人間の命令を聞くのだ?
この機械体はどう見ても人間より遥かに強いだろう?
これを聞いてヴィラは笑いが止まらなくなった
アハハ、残念でした。私はあなたが考えているような機械体じゃないの
私たちのような構造体は、指揮官にとってはただのオモチャみたいなものなのよ
そう言うと、彼女はこちらに視線を向けた。完全に面白がっている……