Story Reader / ペルソナコリドー / 極楽浄土 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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浄土

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「誰かさん」は扉を開け、「鍵」を握りしめて侵蝕体の群れを見た

ひとりでこの大量の侵蝕体を引きつけるつもり?正気なの?

だから、あなたが残るのよ。そうすれば、後ろの難民たちも「生き延びる」可能性がある

あなたの言った通り……あれは生への執着が弱い羊の群れよ。彼らにはあなたが必要なの

階下に群がる侵蝕体に気付いた時、彼女たちは難民を一時的に脇道の「羊の柵」に避難させた

「誰かさん」がそっと呟いた

私も生き延びたいと思ってた……

彼女は最終決断を下す前についに仮面を外し、大声で叫んだ

あははは……私は生きたいの!

あなたの言う通りよ――逃げようと思った!黒野から、戦場から、ただただ逃げたかった!

あなたが「モス」に最前線から逃げる方法を教えた時、私は彼女よりも真剣に聞き入ってたわ……あははっ……

あなたと「モス」に出会わなかったら、私はあの難民たちと何ら変わらなかった……人は皆、利益を求め、害悪を避ける臆病者なのよ

あなたがあまりにも注目を集めるから、あなたと深く関わるのを避けたこともあった。例えば……コードネームでしか呼ばないとか、それもそのせいよ

……本当にイカれたみたいね!早く追跡装置を渡して!

ヴィラは「鍵」を持つ「誰かさん」の手を引っ張った。ふたりは互いに力を込めて、激しく引っ張り合った

あなたに渡す?今になって、私の「離反」を見逃すの?

今はそんなこと、どうでもいいのよ!くだらないことを言ってないで、あなたみたいな意識海が混乱している人を――

ヴィラ、行かせて。もう終わりにしたい

隊長が「ドッグ」の本名を口にしたのは初めてだった。名前の主はそれに一瞬たじろいだ

あ、そうだ……ずっと訊きたいことがあったの

何を追い求めたら……生き延びられるの?

私は自由になりたいだけ。パニシングのない、戦争のない、疑念のない極楽浄土に行きたい……これを追い求めていたから、いつも、もう1秒だけ頑張ろうと思えた

ヴィラ……私が訊きたいのは――あなたは?

ヴィラは口を開けて2回試みたが、発声装置がしわがれ、言葉が胸の中で轟いた

<size=60>あなたは何のために生きているの?</size>

この質問をされた瞬間、ヴィラは多くのことを思い巡らせた。生まれてからこれまでの1分1秒、恋焦がれた安らぎから、大人になって歩んできた戦場の数々……

人間だった頃に感じていた鼓動。今の彼女の動力は、戦いの中でしか彼女を突き動かさない

彼女はパニシングが破壊した生と、あまねく死を思い出した。その渦中にいる時の刃を伝う冷たい血と循環液を――

彼女は過去の全てを駆け抜けた。最後にたったひとつだけ、たとえ数百年経ってもしっかりと覚えているものがあった

ヴィラの口から、その2文字が出た

「痛み」

……

……ふっ

答えを知った人は、涙を流しながら笑った

やっぱり……どうしてそんなに毅然と生きられるのか、ずっと不思議だったの

痛み……ね。それなら理解できる

ありがとう

「誰かさん」は突然ヴィラの負傷した腕をひねり上げて、壁に刀で突き刺した

!!!

激痛でヴィラの顔が激しく歪んだ。体中の痛みが1点に集中する――限界を超えた激しい痛みに、彼女は動けなくなった

あなたは私のことを「優しすぎる」と言ったけど……あはは……本当に優しすぎるのは――抵抗しないで、ヴィラ。あなたを傷つけるつもりはない。あなたは生き延びるの

あなたの腕を手当てした時、細工したの……あの時は、あなたが裏切り者の私を「粛清」するのを阻止するためだったけど、違うことに役立つなんて

あなたの後ろに続く顔を、その目を見て

「誰かさん」は脇道にある錆びた金属製の扉を蹴り開けた――

ヴィラが「誰かさん」の言う通りに顔を横に向けると、難民たちと目が合った。ひとりひとりの目に、生への希望が輝いていた

今、彼らを脱出させられるのは、あなただけよ。あなたが彼らの頼みの綱なの。彼らはあなたに縋ってるわ

……

私では……もうこの人たちを連れて逃げられない。でも別の形なら、もう少し頑張れるかも。少なくとも、あなたたちが生き延びる助けにはなれそう

ヴィラはその言葉に含まれた意図を察知し、必死にもがいた

うっ……!もう……十分よ!!「お人形さん」が話してたビーチ……あなた、憧れてたでしょ!??

多分、あれは妄想よ

「モス」が黒野に来た時はまだ幼くて、災難のせいで記憶が美化されて……彼女は自分の名前すら思い出せないのよ

だから、本当はあんな美しい場所なんて存在しない

私は彼女にたくさんのことを教えた。例えば「隊長」……この単語をきっちり言えるようになるまで教え込んだ

あなたが013班に入ったばかりの頃……彼女は私に「ヴィラ」の読み方を教えてほしいって言ったわ。舌足らずだから「ヴィア」って呼び続けてたけど

一度は本気で離反を考えたこともあった。でも、009班の事件で諦めたわ……私の過ちをあなたたちに背負わせたくないから

そのあとで、私は黒野本部から遠く離れたこの任務を引き受けた。「遠く離れた海沿いの町なら、ひとりでこっそり逃げるチャンスがあるかも?」って思ったから

結果は……このザマよ。迷いに囚われて、優柔不断だったせいで、あなたたちを連れて突破することもできず、あなたと探り合うことになってしまった

「誰かさん」はヴィラの怪我をした腕にそっと手を添えた。慰めるように、願うように

私はこの地下に閉じ込められたせいで、意識海が錯乱し始めてる。あなたの言うように、もう何十日も経っているのに……黒野は一度も連絡してこない

ヴィラ……黒野は、私たちを互いに引き裂こうとしたんじゃないかしら?

……

それに気付いた時、思ったの――「モス」とあなたに生き延びてほしい、って

でも「モス」が死んだ今、私??のバカバカしい幻想もここで終わりよ

黒野の中で唯一、あなたたち……「チームメイト」に対してだけ、嫌悪感を感じたことはなかった

「誰かさん」は身を翻して扉に向かって歩き、最後にもう一度ヴィラを振り返った

「モス」の言った言葉に私も賛成よ

「この世界には私たち以外に、誰もいないかもしれない」

……ヴィラ、あなたが生き延びれば、私たちも生きていることになるわ

……待って!!

ヴィラは再び自分の腕を引きちぎりそうになりながら、刀の柄を握り、腕に突き刺さっていた鋭い刃を引き抜いた

ヴィラは扉に駆け寄り、手を伸ばした――

その時、数え切れないほどの難民の手が伸びてきて、ヴィラを掴んだ

!?

ヴィラは前のめりになりながらもがいたが、指先の遥か向こうで、鳥が宙に舞った

隊長――!!

皆の視線を一身に集めながら「見捨てられた」ハチドリは、侵蝕体の群れの中に落ちていった

不穏な金属の切断音が響き、循環液が花びらのように宙を舞った

「ハチドリ」は手に持った刀を旋風のように回転させ、自らの循環液を散らしながら、怒涛のように襲いかかる侵蝕体の群れを切り裂き、ゆっくりと遠くへと歩いていった

遠くへ行って、あの海を見たい――

彼女の腕の中にある偽物の「鍵」は、かつて彼女に希望を与えた。しかし今は、この偽物の鍵を利用して、生者がひしめく海岸から災難を遠ざけようとしている

……

潮が引き、海の果てまで

人々の視界から外れた遠いところから、長い口笛の音が聞こえた

子機

<i>帰る</i>

帰る

子機

<i>漁が終わる度に、漁師たちはこの音で海岸に連絡するの</i>

<i>そしたら、浜で待つ人は食事の準備をしながら、彼らの帰りを待つの</i>

<i>ヴィラ、一緒に帰ろう</i>

いっしょ……に、か、える

口笛が聞こえたあと、大きな爆発音が響いた

残された者が生き延びる策はうまくいったが、誰も歓声を上げなかった

……

……こうやって吹くの?やり方はこれで合ってる?

うん……うん!

あの時、「誰かさん」は「お人形さん」の真似をして手を動かした。ヴィラは彼女が少し照れたような表情を浮かべているのを見ていた

じゃあ……他のは?「帰る」はもう覚えたわ

この音は……「帰る」じゃない……

彼女が新しく覚えた言葉……

ヴィラは一瞬口を開いたが、難民の前ではそれを口にすることはできなかった

この瞬間、彼女は難民の先頭に立ち、生存者を率いて「生き延びる」という任務を引き継いだ

難民たち――「羊の群れ」は黒い羊に触発されたのか、次々に見えない柵を飛び越え、それぞれが意思を持ち始めた

ひとりの難民が前に出た。彼は「誰かさん」の武器を拾い上げ、ヴィラに渡した

続く難民は前を歩いてランタンを高く掲げ、前方の道を少しでも明るく照らした

……

それに続く人々……

互いに支え合いながら、日の当たらない地下要塞を抜け出し、開けた場所に出た。海からそう遠くない。耳を澄ませば口笛の音が響く波の音が聞こえる

逃げる道中で侵蝕体が襲ってきたが、ヴィラは刀で体を支えながら、1体ずつ切り裂いた

……ふぅ……

ヴィラの怪我がどんどん増えていく。皆は「モス」から使えるパーツを取り出し、ヴィラに渡すしかなかった

かつての「モス」の腕が、ヴィラの腕になった。「モス」がヴィラと一緒に生きている

ヴィラはしばらく回想に耽った。44日目のこと――「お人形さん」との会話の流れで、珍しいことを話した

私の故郷は……海から遠いところよ

夏はそれほど暑くないから、水に入るのには適してないけど……冬はいつも雪が積もるわ

雪の中での楽しみはたくさんあったけど、海と同じくらい楽しいかどうかはわからない。笑うわよね?私は黄金時代末期に生まれたけど、海を見たことがなかった

私の家族は……いなくなった。常にもっとうまく生き延びる方法を考えていて、立ち止まって景色を眺める余裕なんてなかった

だから私は、あなたが言うような風景……極楽浄土みたいな景色を見たことがない

私には……背中を預けられるようなチームメイトがいなかった

……

……刀を振り上げるしかないじゃない

「お人形さん」を除いて、難民たちの生を求める手はまるで彼女の体にしがみつくようだった。何度でも刀を握らせ、何度でもその手を振り上げさせるように

刀を振り上げるのは……「自分」を生かすため……じゃないの?

なんでこんなに複雑になってしまったの……

刀を振り上げ、また刀を振り上げる

他人のために刀を振りかざし、もう何度目かわからなくなった時、彼女は「お人形さん」が語る浄土が見えた気がした

……!

虹のように輝くビーチ、透き通る海、千変万化のサンゴ、そして甲高く鳴きながら餌を奪い合う海鳥――それらが見えた気がした。賑やかで色彩豊かな祭りのようだった

……

彼女はそんな景色を見て、微笑んだ

彼女も同じだった――

彼女も極楽浄土の存在を信じていた。「お人形さん」が与えてくれた希望に感謝していた

老人と子供たちは隊列の中央に囲まれながら、顔を上げ、最前線の赤い姿を見つめる――それは彼らのヴァルキリーであり、彼女の立つ場所こそが冥界の境界線だった

人々は「生」に向かって歩いた

歩いて――

歩き続けて……

……

……誰かいるぞ!

見ろ!人がいる!助かった!!

すぐ先に保全エリアがあった

激しい雨が降っていた。雨の中でも、侵蝕体の襲撃がこの保全エリアにも及んでいることがわかった

ヴィラは目を凝らした。予想通り、パニックになって逃げ惑う人々の姿が見えた

しかし……群衆の中に、際立って目立つ構造体の小隊がいた。雨に打たれながら何かを叫んでいる

皆さん落ち着いて!我々の仲間が侵蝕体を食い止めています!避難する時間は十分あります!

空中庭園の構造体……

輸送車は明らかに足りなかったが、それでもかなり整然と避難の順番を決めていた

子供のいる人から先に乗って、残りの人は――

しゃべっていた構造体が足を滑らせ、もうひとりの仲間に助けられた

っと……サンキュ。地面が滑りやすいからお前も気をつけろ

……

……お互いに背中を預けられるの?

ヴィラは疲れ果ててその場に立ち尽くしていた。保全エリアの構造体が気付いた時、彼女は一番近くにいた難民の背中を押した

行って……あっちに……

食料、水……輸送車……あなたたちが生きるのに必要なものは、彼らが持ってる

彼女の目は、走ってくるふたりの構造体に釘付けだった

空中庭園……黒野よりはいいところかもね

ヴィラに促されて、難民たちは一斉に走り出した。待ち望んだ安らぎが目の前にある

しかし、ヴィラはこの平和な流れに合流しなかった。黒野特殊作戦班の「ドッグ」は、空中庭園の構造体と顔を合わせない方がいい

彼女は体を刀で支えながら、波の音の方へと歩いた

……潮が引き、海の果てまで

ふぅ……

ヴィラは海岸にたどり着いた

彼女は小さなボートを見つけ、その上に身を投げ出した。そして、波に流されるままに漂流した

何度も波が打ち寄せ、ヴィラが砂浜でよろめいた足跡を洗い流し、全てを消し去った

……

……

…………

雨粒が彼女の顔に落ち、睫毛を僅かに震わせた。そっと目を開ける

ひとりの人間が、彼女の顔を真剣に覗き込んでいた

ここに……流れ着いたのね

海岸の小さなボートは生き延びた者を乗せて、何年をも経た今日に運んだ

ボートに乗っているのは黒野の「ドッグ」ではなく、空中庭園のヴィラだった

ヴィラが視覚モジュールを調整する前に、ぼやけた色の塊が彼女の前で僅かに揺れた。人間が彼女の顔の前で手を振っているようだった

このままでいいわ。休息の邪魔しないでくれる?

まぁいいわ……ちょっと座って

人間はケルベロス隊長への接し方を心得ている。彼女の辛辣さを受け流し、ただ誘いに応じて、彼女の隣――波打ち際に座った

あなたがここを見つけるとは思わなかったわ

人間は「もっともらしく」ヴィラからの手紙を端末に映し、読み上げた

まさか、こんな馬鹿げた手紙のために、また私を探しに来たの?

何度も「オオカミ少年」を演じたから、もう騙されないと思っていたけど

ヴィラは口ではそう言うものの、その表情は「あなたが来るのはわかっていた」と言っていた

ヴィラは満足そうに目を細めた

へぇ、そう

つまりニコラがあなたを派遣したのね。彼は任務以外のことも話したの?

ニコラ司令官によれば、ヴィラは密かに「鍵」を探しているという

この「鍵」は黒野が持っていて、唯一のコピーは黄金時代末期に失われた。パニシング爆発後、黒野は闇市でコピーの回収を試みたが失敗に終わり、その後の行方はわからない

空中庭園が「鍵」の背後にある宝物に興味を持ち、コピーを探し始めた。そのため、ヴィラと、ヴィラが指名した人物――グレイレイヴン指揮官が派遣された

ええ。私がまだ黒野特殊作戦班にいた頃、私の小隊は本物の「鍵」を見つけられなかった。騙されてチームメイトは全員死んだ

偽物の「鍵」のせいで長い間お互いが疑心暗鬼になっていたけど、実は本物の「鍵」はずっとダイダロスが持っていたの

でも、まさか隊長が生き延びたなんてね。彼女が黒幕に復讐し、ダイダロスから本物の「鍵」を持ち出した。彼女の行方がわからないこと以外は、この「後日談」は素晴らしいわ

アハ、空中庭園が私に後続任務を任せるなんてね。一番簡単な方法は、この「勇気ある隊長」を見つけることよ

だから私はある手段を使って、知っている可能性のある人に吐かせたの

不必要な優しさは捨てた方がいいわよ。あの「関係者」たちは死んでも罪を償いきれない悪党だから

やつらは黒野にいた時から、裏切りなんて朝飯前。あの任務がうまくいかなかったのも、あいつらのせいだった。目には目を、歯には歯をよ

でも、たとえあの任務で小細工をしたやつを見つけられなかったとしても、彼女が最後にこの島に来ることはわかっていたわ

ヴィラは、人間の方をちらりと見た。自分の過去に関わるこの取引が適切かどうかを考えているようだった

最終的に、彼女は語ることを選んだ

あれは本当に……長い物語よ

ヴィラの言葉とともに、波がふたりを優しくなで、遠い記憶を呼び起こした

……

3人の物語だった。ヴィラの話は彼女たちが無名だった頃から始まり、黒野特殊作戦班-013班の結成??にまで至った

お互いに関わりがない頃から、運命の糸が絡み合うまで

疑いとためらいから「軽蔑」が生まれるが、思い出す度に目を伏せてしまうふたりの死

モスの息が止まった。そしてハチドリが飛んだ時、彼女が掴めなかったその手と、同時に彼女を力強く掴んだ難民の手

そして雨の中、小さなボートに乗ったことから……今、この瞬間に至るまで

ヴィラは人間に見つめられながら全てを語り、目の前の美しい景色を指差した。それが彼女が手紙で話した「隠れ家」だった

ねぇ……この島は美しいと思う?

私たちの幻想と合ってる?

ここが「お人形さん」が言っていた美しい故郷――「レインボービーチ」よ

「誰かさん」が行きたいと夢見ていた「極楽浄土」……彼女が本当に生き延びたのなら、きっとここに来るはず

彼女は寝転んで手足を伸ばし、その下にある浜辺の波と色鮮やかな珊瑚礁を感じた

人間は黙って耳を傾け、再び目の前の光景に視線を向けた

<i>私の家のすぐ前にはビーチがあって、皆「レインボービーチ」と呼んでる</i>

<i>「レインボービーチ」は浅い海。満潮の時には無数の魚が泳いで、干潮の時には珊瑚が海面から顔を出す</i>

<i>海はカラフルで、太陽に照らされてキラキラしてる</i>

ここには色鮮やかな珊瑚も、優雅に泳ぐ魚もいない

あるのは灰色の死んだ珊瑚と骨の山だけ

「極楽浄土」は口のきけない少女の妄想、あるいは逃亡に執着する女性の幻想にすぎなかった

極楽浄土は、パニシングによって破壊されていた

ヴィラはその「美しい景色」を見て思わず苦笑した。灰色の水の中に横たわり、かつて破壊された左目をなでた

ヴィラ

皮肉ね……

黒野にいた時の全てがヴィラの目の前を流れ、やがて枯れた骨と化した

人間はヴィラを指差した――灰色に満ちた世界に、鮮やかな赤色が輝いている

毎日、その赤い背中を騒がしく追う特別な小隊がいる

ヴィラ

フン、そんな高尚なものじゃないわ。最初から最後まで、私は自分が生き延びることしか考えてなかった

ヴィラ

……

時が経ち、「ドッグ」は「ケルベロス」になった

ヴィラ

…………

特殊作戦班-013班を失ったあと、ヴィラもまたその経験に終止符を打とうとしていた

彼女は何度もダイダロスに関係する任務を率先して引き受け、ダイダロスが滅んだあとも、各地に残された支部を行き来し続けた

彼女はこのビーチにある以上の、もっと多くの悪意と骨を目にした

探し続けた末に、彼女はとある支部の実験室で歓喜に震えた。ついに唯一の生存者を見つけたのだ

正確に言うとひとりの構造体――ひとつの白い影だった

白い影は彼女を抱きしめようとするように、彼女の刀の下で手を伸ばした

21号

……いや……置いて行かないで……

……21号……

彼女は白い影の肩を支え、人形を扱うかのように真っすぐに立たせて、慣れた手つきで「血」を止めた

21号

……あなたは……

……あなた……天使?

ヴィラは唖然とした

いつもの癖で、彼女は否定する言葉を言ったはずだ。しかし、その子が意識を失った時、彼女はその子を肩に担いだ

あの雨の夜――

狭い通路で崩壊が迫り、黒野と連絡が取れなくなった瞬間、彼女は上層部の意図を理解した――「適者生存」。1カ月以上も放置された013班は地下要塞で瀕死の状態だった

黒野はまたも弱者を排除しようとした

彼女は21号に撤退を命じた。これ以上、自分が背負った命を失いたくなかった

しかし、彼女は物分かりが悪かった

21号は身を屈めて彼女のために落石を食い止め、必死に彼女を引きずり出した

循環液が床一面に流れても、夜の雨に打たれても、21号は彼女を連れ出そうとした

そうして、彼女の背中にはまた白い影が増えた

ヴィラ

ちょっと!寝ないでってば!

私に死体を背負ってヒィヒィ帰れって言うの!

21号

……寝てない

ヴィラ

……

彼女は21号をしっかりと背負い、背中から伝わる温もりを感じた

彼女は初めてほっとした

……

「チームメイト」との絆は、強固なものに変わっていった。彼女の性格と同様、彼女の過去に根ざし、現在の彼女を作っている

そして今――運命の歩みは止まることなく、報酬として「ドッグ」に更なる未来を与えた。013班はもういないが、「ヴィラ」にはかつて想像だにしなかった光が傍にある

無数の細い糸が織りなす絆が、あらゆる因果の果てに、絶好の瞬間で人々を結びつける

アハ……そうね、あなたの言う通りよ

ケルベロスの隊長は立ち上がり、骨の山に向かって歩いた

骨の山の中で、1体の構造体の残骸が異質な存在感を放っていた

「ハチドリ」は海水に洗われ、侵食され、生前の姿はもうわからなかった

ヴィラはその構造体の残骸から小さな権限カードを取り出した

「シンプルで、ほとんど価値のない小さな装飾品」

幻想の極楽浄土は存在しなかった。だから、生きる最後の意味を失って……自ら命を絶つことを選んだ

ハチドリ、私はあなたの選んだ結末は好みじゃない。私は今、指揮官が言った方が好きよ

ヴィラは「鍵」をしっかりと握り締めた。まるで新たな信念をその手に掴んだかのように

本物の「鍵」は私に任せて

ヴィラは「鍵」をしまい、特別な口笛を吹いた。その音は波とともに遠くへと運ばれていった

指揮官、物語はこれで全部。じゃあ、今の音が何を意味するか当ててみて?

ヒントをあげるわ。これは「ハチドリ」が侵蝕体をおびき寄せる時に吹いた音よ

ヴィラは大笑いした

残念、ハズレ

彼女は手に持った旗槍を砂浜に突き刺した。旗がすぐに広がり、空中にはためいた

ヴィラ

「出発」よ!

次なる極楽浄土は、私が切り開く!