毎日こんな風にここに立っているなんて、悪い子なのか?
遊び相手は?
ちょっと、君のことだよ!
私?
そう、君だよ
遊び相手ならいるよ。ほら、私と私のこいぬ
ずっとぬいぐるみとおままごとなんて幼稚すぎるよ。ふたりなら、もっと色んな遊びができるよ
どういう遊び?
そうだな、口笛とかさ?工房の職人たちが仕事終わり、嬉しそうに吹いているみたいにさ~
ふ、ふぅ――(必死に吹く)
できない……
じゃあ、口笛はまた今度だ。今日は砂のお城を作るってのはどう?土台を作ってよ、てっぺんを仕上げてあげる!
ねぇ、崩れちゃった……アハハ!
君の服、どろんこだよ……裁縫師のお爺さんに怒られない?
大丈夫だよ。洗えばいいって言ってくれるもの
見て、空がきれい
いつだって、君が顔を上げさえすれば、空は綺麗なんだよ
あの人たち私たちになんか興味ないわよ、主役じゃないもの。消滅も忘却も犠牲も、どうでもいいこと
ここは私たちの秘密基地!ここなら誰にも見つからないし、こっそり服だって縫えるわよ……
私がずっと、側で口笛を吹いてあげる~
息苦しい現実の中、私たちの小さな自由~
実は、私の歌声を1度も聞いたことがないでしょ?
あなたが私を立ち上がらせてくれて、夢を教えてくれた
ううん、あなたが知らないことじゃないなら私は教えられないし、あなたがやりたくないことを私が無理にやらせることもできない
憧れも渇望も全て、あなたの心の中から来ているものよ
でも、あなたがひとつの曲しか知らないなら、私が他の曲を教えてあげられる!
大事なのは……あなた自身に、声を出したいっていう気持ちがあることよ
誰もあなたの物語には興味を持たない、たとえ誰かに必死に伝えても、あなた以外は誰も、あなたのぬいぐるみを大事だとは思わない
あなたに傷ついてほしくない。体も、心も
聞き役が欲しいなら、私が聞くわ
今の私には……仲間がいる。これから更に増えるかもね
それはよかった、じゃあ、もう会う必要はないわね
あなたのぬいぐるみ、すごく大事なものなのね
そうね、私にとって大事なもの……あなたの存在だってそうよ
手術で脳を勝手にいじくりまわされて、あなたは本当に、理想の自分になれた?
それともぼーっとしたまま、苦痛を忘れられるようになっただけ?
帰って。あなたはまたいつか私を思い出すかもしれないけど、私はもう二度と現れない
でも……私はやっぱり、孤独だと感じてしまう
孤独?それなら、あなたが愛している人と過ごして全ての瞬間をかけがえのないものにすれば、思い出を代えがたい宝物にしてくれるはずよ
思い出の他にも、どんどん広がっていく世界とどんどん増えていく選択肢が、あなたを待っているんじゃない?
本名を知ったんでしょう?いつでも元の名前に戻せるわよ
いいの、私はまだ過去を捨てたくない。過去が私を苦しめても、それもまた私の一部に変わりはないもの
じゃ、模様の場所を空けておけばいいわ。新たな物語を織りなしに行けばいい……もう二度と私たちのところへ来ないで
わかった?
贈り物を開けた瞬間からずっと「ありがとう」を「さようなら」と上書きし続けてきたのだ。お互い、これはいつか来る別れだと知っていた。離別の刻限を見誤っていただけだ
シルエットは期待に満ちた目でリボンを解き、その目はキラキラしていた
仔犬のぬいぐるみがプレゼントボックスの中に静かに横たわっていて、その上部にはいくつか、ステッチが見えている
ここから旅立とう
それじゃあまた、さようなら、さようなら……
ちゃんとお別れね
絡まりもつれていた感情が伸びて新たな絆として組み合わさり、彼女に離別の方法を教えてくれた
……
シュエットは騒がしい声の中で目を開けた。体中はどこもかしこも痛むが、バイタルは全て正常で、機体の外傷もすでに修復されていた
意識海にまだ少し後遺症が残っているようだと、誰かがそう言った
最近、どこに行ってもウロチョロしてない?気のせい?
はあ?
失礼ーっ!人のこと、まるで神出鬼没の飼いならされた妖精みたいに!
今回ばかりは、私だってちょっと役に立ったでしょ?そうだよね?
これって私のお手柄にしてくれる?してくれるよね?
……
誰かこれ、ミュートにしておいて
しー!皆静かに、シュエットが目覚めたよ!!
一番うるさいくせに!!
彼女は夢うつつの状態で、次第に全ての経緯を整理していった
ロプラトスの潜入任務で、昇格者によって宇宙船のキャビン最深部に叩き落され、彼女は重度の失神状態に陥り、一時的とはいえ危篤状態になった
意識海の病状は複雑で難解なものだ。病状が軽快したあとは、信じて待つしかない
八咫は両足では歩きづらいと手で逆立ち歩きを試していたが、すぐにやめた。最終的には支援で来たホワイトスワンのレイアが大騒ぎしながら、彼女たちを空中庭園に連れ戻した
昇格者と遭遇して、9割無事なら相当上出来、悪くない結末といえる
なるほど、片足の割合ってたったの5%だけなんだ!
期待を一身に背負ったシヴァは、休む間もなく宇宙船が受け取った自壊信号との競争に集中しており手が離せなかった。潜む危機は皆が思っていたよりずっと深刻なものだった
幸いなことに全ての残留資料は保管され、抽出された。エビアティスという名の昇格者は宇宙船本体を改造しておらず、過去の戦闘履歴で遭遇した全ての躯体履歴ももう出現しない
スカラベ小隊の成績は、持って帰った内部遮断装置の緻密な実験資料でも証明される。現有のデータと照合し、逆元装置の実験データのバックアップは著しく拡張された
逆元装置かあ~~~あれが悪目立ちすると、私のコーデに影響するんだよね~
レイアは少し困った様子でイメージを膨らませていた
皆は顔を見合わせ、一斉にシュエットの機体、裁断の頭頂部に視線を向けた
……コーデ?
もし必要なら、機会があれば服を直してあげますよ
彼女は少し微笑んだ
やった!じゃあ、お願いね!
ふふふっ、シュエッティーもたまにはお洒落しちゃったら?髪にリボンを着けるとか。ほら、私、いっぱい持ってるの!
不要です
普段にはない彼女のはっきりとした拒絶に、八咫とシヴァは一斉に目を見開いた
レイアは断られても微塵もしょげずに、次々と試着相手を変えようとしている
待って、私もいらない!
こっち来んなって、ショートだっつの!
仲間たちに囲まれた青い髪の構造体は、もう場違いな存在ではない。今の彼女は、穏やかで落ち着いている
こちらの心配はもはや杞憂のようだ
[player name]
彼女は遠くから見ていたのだろう、立ち去ろうとしたこちらを呼び止めた
あなたの質問に、答えが出ました
私は……引き続き裁縫をしたいのです。私の手作りの服の中で……感情を込めて
平和と安らぎの日々がなるべく早く来ますようにと願いを込めて
私が大切にしている何かと、誰かのために、私は戦い続けます
黎明の最後の星々が、やがて訪れる朝日を告げている
運命のミシンの前に、風に導かれるまま……無言で裁断される時を待っていた
糸は弦にも形を変える。その音色は心の詩編を奏で、明日へと続く序曲を紡ぐ
彼女はそっと手を差し出し、遅くなった返事を告げた
ひとつの、明るい楽音