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ER12-22 出会い

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夜が明けた頃、空中庭園の支援大部隊が島に到着し、ふたつの執行部隊の隊員たちは

それぞれ心配していた仲間のもとへと駆けつけた

科学理事会から派遣された者たちは、初めて見るヴィラの新機体に驚いて息を呑み

スターオブライフの職員たちは職務に忠実に、グレイレイヴン指揮官の救助に当たった

綿密に調査していた者たちが「空洞」下の狭い窪みに微かな生命反応を検知した

幸いにもグレイレイヴン指揮官よりも瀕死の状態だった人物を引きずり出すことに成功した

負傷者は全員、空中庭園へと搬送された

1カ月後、各方面での協議の結果、あの島で起きた出来事は最終的に「事故」として扱われ

機密として厳重に扱われることになった

3人は未知の昇格者に挑み、長年闇に潜んでいた「老人」を完全に排除した

事件に巻き込まれたにもかかわらず、誰も命を落とさなかったのは、ある意味「奇跡」である

<size=31>黒野は灼魍機体に関する設計情報を差し出した――どうやら監察院の圧力で、科学理事会が機体の全権限を手に入れたらしい</size>

ハニフには、退院後に厳しい取り調べが待っている

そしてグレイレイヴン指揮官は……

ある静かな午後、人間は真っ白な病室でうたた寝をしていた

まどろむような夢の中では、何年も時が巻き戻ったようだった……恐らく、ファウンス卒業間近の頃だ

それもまた静かな午後で、病室すら同じだった

死んで当然のような任務だったのに、よく生きて帰ってきたわね……運がいいにもほどがあるわ

清潔な白い病室の中で、人間はぼんやりと天井を見つめていた。耳元で3人の若者がかしましくしゃべっているらしい

それは、恐らく人間が初めて「スターオブライフ」の集中治療室に入った時のこと――当時はまだ、これが奇妙な日常になっていくとは知らなかった

……運がよかったのは僕たちの方かも。あれだけの侵蝕体がいたんだ、もうダメかと思った……まさかまた空からの援軍に救われるなんて……

ブリギットさんが、汪婆さんの古い知り合いだったのには驚いたよ……カッコよかったよな。輸送部隊もアリじゃない?

賢いやつはどこに行ったって上手くやれるわ。でも、「落ちこぼれ」はどこに行っても落伍者よ

……

シーモンの声が消えた

まあいいさ、僕はやっぱり執行部隊に行きたいと思ってる。輸送部隊には申し訳ないけどね

私たちに言ってどうするのよ、誰も訊いてないのに。落ちこぼれたちの進路なんてどうでもいい。私は絶対に執行部隊に入るから

バネッサこそ、どうして執行部隊に?

……家でバカな人形が待ってるからよ。6のペア

声はふいごのように掠れていた

[player name]は僕のこと、覚えてるかな?基地の外で倒れてたのを助けたのは僕なんだ――まあ、駆け寄った時にはもう気を失ってたけど

さあね。医者が脳内血腫はもう治ったとは言ってたけど。でも、ここ数日の様子を見る限り、その辺の記憶は残ってないみたい

じゃあ、[player name]が退院したら僕が話すよ

この役立たずに話すのは禁止。話したらタダじゃ済まさないから

何で?バネッサには黒歴史かもしれないけど、どうして僕たちまで秘密にしなきゃいけない?僕はこの目ではっきり……

僕もバネッサに言い返したいけど、彼女の言ってることは正しい……教官から話があった。今回の件はどんな情報も一切公言するなってさ……かなり上の人たちからの命令らしい

特にあのふたりの構造体に関しては……黒野が関わってるんじゃないかと疑ってる

ふたりの構造体?

「レイア」以外に、もうひとりいた?そんな話聞いてないけど、まさか、僕にまで内緒にしてたのか?イジワルだなあ、もう!

シーッ――

ふふ、バカがおしゃべりに夢中でカードも見なくなったわね

言ったでしょ。正規の執行部隊に入りたいなら、黒野とは関わるなって。この寝坊助の役立たずをこれ以上揉め事に巻き込ませたくないなら、何も言わない方がいい

はい、私の勝ちね

バネッサは最後の数枚のカードをバラッと出すと、これで終わりというように手をパンと叩いて、病室を出ていった

数分後、病室は静まり返っていた――人間は枕元の棚に置かれた新品の端末と、シーモンが置いた花束を見つめていた。地上での実戦訓練のことは、何ひとつ覚えていない

抜け落ちた記憶への戸惑いは長い間つきまとった。医者から定期的なリハビリを勧められたが、数カ月が経って無事に卒業する頃になっても、何も思い出せなかった

人間は自分の脳と記憶力への執着を手放し、次々と後方へ流れていく景色を眺めていた――乗っている輸送車は、すでに1時間ほど廃墟の中を走っていた

到着だ。新兵!降車せよ!

運転席から降りてきた兵士が後部車両の人々に合図をした

この一帯はもともとファウンスが設置した地上実戦訓練基地のひとつだ。だが去年異常事態が発生し、廃棄された――お前たちの中に、その時の当事者がいるんだろう?

彼はいぶかるように見回し、「当事者」がなぜまたこの地を訪れるのか理解できないようだった

よし、急いで任務を片付けろ、長居は無用だ!周囲の保全エリア再建にも人手が要るんだからな!

人間は新たに支給された戦術端末を握りしめ、灰白色の廃墟を歩きながら探索していた

周囲をくまなく探し回り、人間は微弱な信号をたどって、積み重なる瓦礫の間にある隙間を見つけた。しばらく考えた末、その狭い入り口の中へと這い込んだ

その場所に足を踏み入れた瞬間、奇妙な既視感に包まれた――特に、明らかに人為的に残された焚き木と包帯の山を見た時、その感覚は無視できないほど強くなった

期待せずに何度か呼びかけたが、やはり返ってきたのは自分の声のこだまだけだ

更に人間は足下にいくつかの怪しげな真っ黒い破片を見つけた。拾い上げて匂いを嗅ぐと、焦げたプラスチックのような臭いがする

――これが焼けて溶けた旧端末だったとすれば、データを抽出することはまず不可能だろう

廃墟の下ではそれ以上の手がかりは見つからず、人間はやや落胆しながらコンクリートの塊に手をかけて、地上へ戻ろうとした

だが、指先がその縁を掴んだ時、隙間から脆くなった紙片がひらりと落ちてきた

素早く身を乗り出して紙片を掴んだが、紙に書かれた文字はぼんやり掠れてしまって判読できない。どれほど長い間、風雨に晒されてきたのだろう

だが、それでも人間の心臓は高鳴った

廃墟の上を足早に歩いた

次第に歩調は速くなり……

耳元に流れる風がだんだんと唸りを上げ始め、歩幅は一歩ごとに大きくなり……やがて全力で駆け出していた

聞き覚えのある風の音が響き続ける。ハッと気付いた――自分はついこの間も、まさにこの道を必死に走っていた

ある名前が不意に喉元まで出かかったが、どうしても口に出すことができない

もっと、もっと速く走れ。耳元で、ある構造体のカウントダウンが聞こえるようだ

日が陰り、また雪が降り始めるまで人間は走り続けた

全ての廃墟と朽ち果てた残骸の中を駆け抜け、運命と欠けた記憶をも突き抜けて走った

やがて人間は廃墟の一番高い場所で立ち止まり、目の前の崩れかけた壁に向かって、手にした紙片を掲げた

カサカサ――

紙片は手の中でこすれ今にももろく砕け散りそうだったが、そのカサカサという音が、人間を見たことのないあの瞬間へと連れ戻した

ヴィラ

ハァ……ハァ……

ヴィラ

……ゴホッ……

大量の循環液が口から溢れ出た。彼女は口を押さえたが、循環液は指の隙間を伝って、寒々とした廃墟の上にぽたぽたと滴り落ちた

彼女は手を下ろし、赤く滲んだ手の平を見つめた。もう嘲笑う力すら残っていない

ヴィラ

こんな……結末なのね……

……ゲホッ……まあ……これ以上悪い結末に……ならなかっただけマシね……

彼女は、あの「指揮官ちゃま」がすでに終着点にたどり着き、報酬として輝かしい未来を手にすることを知っていた

彼女はそっと目を閉じ、これから起こることを少しだけ思い描こうとした

ヴィラ

ここで死ぬのは……まあ、普通ね。でも黒野に回収されることになったら……

……最悪だわ

……もう考えるのはやめよう

ひと時の仲間を得るのは、実は残酷なことだ。あの退屈で味気ない日常に戻りたいとは誰も思わない――もっと滑稽なのは、ロープが切れ、あの人は何も覚えていないということ

バカバカしくも英雄的犠牲に満ちた逃避行。最後に残ったのは、思い出を噛み締めている彼女だけだった

ヴィラ

……

いいえ

……このままじゃ終われない

そうよ……認めない……こんな……結末なんて……!

体を包む炎は、もう二度と燃え上がらなかった。彼女は残る僅かな力を手に込めた――何かを書き残したかったが、雪の結晶が紙の上に落ち、紙はすぐに湿ってしまう

ヴィラ

駄目ね……

どうすればいい?

彼女は苛立った。できるだけ早く黒野を離れる方法を考えなければ。できれば「追跡」して空中庭園に行き、自分の全てを取り戻したい。全ての栄光、戦利品、そして……

手に滲む循環液を見つめていた時、彼女の意識海の奥に、ふとある考えが浮かんだ

ヴィラ

……フン

彼女は無理やりニヤリと笑った

ヴィラ

最後に……少しイタズラでもしてやろうかしら……

人間は廃墟の上に立ち、全力疾走をしたせいで大きく喘いでいた

冷たい風で全身を突き刺されるように痛んだが、それでも、興奮で高鳴る鼓動はこの凡庸な肉体に熱い血を送り続けていた

手を開くと紙片は風に煽られ、今にも吹き飛んでいきそうだ――だが、もうそんなことはどうでもよかった

人間の視線の先、崩れた壁に大きく残された「血文字」があった

震える筆跡からは、とんでもなく個性的なイタズラ心と、強烈な「未練」が読み取れる

まるで、鮮やかな赤を纏った誰かが、大胆に「手配書」を残していったかのようだ……切実な願いを隠すために

ゴールはもう目の前よ。命を懸けてでも、あなたは最後まで行かなきゃいけない

私たちなら……もっと素敵な場所で必ずまた出会える

人間は荒れ果てた廃墟の上で笑い出した。混乱した記憶の中から、ある言葉が混沌を掻き分けて浮かび上がる

悲しんでいいのは1秒だけ、次の1秒でまた会える

??

さて、「久しぶりの再会」の第一声は、ちょっとベタなセリフでもいいわよね

目を開く――両目をしっかりと。もう夢などではない、紛れもない現実だ

――久しぶり

赤い構造体が病室のベッドの側の椅子に座り、真っ赤なリンゴを剥いていた

果物、食べる?と言っても、リンゴしかないけど

ヴィラは切ったリンゴのひとかけを差し出した

いいわよ――さて、ここはどこでしょう?天国か地獄か、その二択よ 

アハハハ……正解よ!

彼女は人間の答えにとても満足したようで、珍しくリラックスしたように笑いながら、足を組んだ

まだ何か訊きたいことはある?何でも答えるわよ、制限時間は3分

科学理事会に引き渡し済みよ。ヒルダ監察官直々に監督し、全員が即座に対応した。機体の出力は全体的に抑えてあるし、生活に必要な各種モジュールも追加された

ああいう暴走は……もう起こらない

緋耀機体は使い物にならなくてまだ修理中。科学理事会はまた同期過程で問題が起こるのを心配して、しばらくは麗酷機体にも戻せない。あなたの退院後に再考するそうよ

あの昇格者が逃げた形跡があった以外は、死ぬべき連中はきっちり死んだわ。異合生物もヘインズも、全部

ちなみにあなたの後輩は特別病棟に隔離中。「ヘインズとの関わりは死んでも認めない」って――正確には感情的な拒絶ね。「今後も自分はハニフでしかない」って主張してる

あなたは……空中庭園の支援が後少し遅れてたら、パニシングに内臓を食い尽くされていた。足の怪我も深刻だけど回復状況は悪くない。さすがはスターオブライフの医療技術ね

早くしないと3分経っちゃうわよ

……

……あの時とまったく同じ質問ね、しつこいったら

まさか。あれから、どれだけの時間が経ったと思ってるの

ヴィラは残りのリンゴを手に持ったまま、その質問について真剣に考え始めた

うん……

「たとえ自分の物語に幾度となく怒り、涙を流したとしても、決して悲劇だと思うことはない」

「強いて定義するなら、それは私のこれ以上ないほど充実して輝かしい一生よ」

あの時の恩は返した、仇も討った。行くべき道は、まだ途中よ

何より重要なのがその道中、いつも誰かが私の側にいてくれたこと

そう言いながら、彼女はそっと手を伸ばし、人間の額の髪を整えた

焦らなくていいわ。記憶が戻ったら私たち、毎日ゆっくり昔話ができるんだから

あなたの運命の終着点を私はまだ見届けていない。だから、これからもずっと側で見守るわ……時間はたっぷりあるもの

病室のドアがそっと開き、ふたりを見舞う人々が次々と入ってきた

さあ、騒々しいお見舞いタイムの始まりよ。あの面倒なグレイレイヴンの3人、今日は任務があるのね。一番乗りにはなれなかったわ……

ヴィラが答えたのはここまでだった。彼女はリンゴを皿に盛ると、席を立って病室を去ろうとした

彼女はもう自由に動ける。彼女の一生に与えられたあらゆる祝福が、この瞬間にその効果を表したようだ――もう、行きたい場所へ行き、欲しいものを手に入れられる

医療パックだろうと、血清だろうと、リンゴだろうと――そして、彼女が救いたいと願った誰かであろうと

彼女は扉に手をかけたまま、振り返った

何?後ひとつくらいなら無駄話を聞いてあげてもいいけど

……アハ、当然でしょ

始まりが「ヴィラ」だったのなら、終わりもまた「ヴィラ」に帰すべきだ

たとえそれが袋小路のその先であっても、そこにはいつだってガーネットの輝きが広がっている

死にかけたそうだな。グレイレイヴンのお子ちゃまたちが必至の形相でてんやわんやだったと聞いたぞ?

バネッサは花束ひとつ持たずに手ぶらでベッドの側に立つと、皮肉だけを贈った。バンビナータはベッドの傍らで「主人」と指揮官のやや不穏なやりとりに耳を傾けていた

ほう?どういう意味だ?彼らが出ていった直後に、私が来たということか?なるほど、私は歓迎されない客人であるらしい

いくら歓迎したくなかろうが、残念ながらこちらにはどうしても訊いておきたいことがある

来月、ファウンスの卒業式がある。優秀なる卒業生代表として、スピーチに参加する気は?

好きにしろ、私は君の意見をファウンスに伝えるだけだ

話は終わりだ、これで……

バァン!

その瞬間、病室の扉が勢いよく開かれた

やっぱりここにいた――バネッサ~!もう、本ッッッ当に大変なんです!助けてくださいよ~!!

……早く言え

また何を間違えたのか知らないけど、この子が箱に閉じこもって、頑として出てこないんですよ。もう、バネッサの命令じゃないとテコでも動きませんって!

レイアはそう言って、もうひとりのホワイトスワンの構造体を病室に引きずり込んだ

……

超次元の漆黒の穴の中に、びくびくと怯えるような視線がうっすらと見えた

……

バネッサの表情が険しくなり、バンビナータは何かを察してスッと身を引いた

私に引きずり出されるまでそうしてるつもりか?お嬢さん

バネッサ自ら誰かを「お嬢さん」と呼ぶのを聞いたのは、初めてのことかもしれない。その衝撃はしばらく消えなかった

黒い穴の中の「びくびく」は、数秒沈黙したあと、激しく震え始めた

ごめんなさい、ご主人様、ごめんなさい、ご主人様、ごめんなさい……

……出てこい!

あああもう無理ー!ちょっとお水くれない?――こんちは、グレイレイヴン指揮官。見ての通りバタバタで、挨拶が遅くなっちゃったけど

レイアはベッドの枕元の水差しに駆け寄った。全身のエンジンがゴウゴウと音を立てている。チームメイトをここまで運ぶのに相当な労力を費やしたようだ

構造体に水なんているか。お前も、いい加減出てこい――

バネッサは怒りながら、片方の手では巨大な「びくびく」を隊員の体から引き剥がそうとし、もう片方の手ではグレイレイヴン指揮官に水をねだるレイアをひっ捕まえた

ぷはーっ

おかしいな、上流階級の人の水ってもっと美味しいはずじゃないの?味がしないんだけど?

レイア、お前が責任持ってこいつを引きずり出せ。できなければ、明日にはホワイトスワンから出ていかせる

どうして私なの!?私、絶対に出ていかないから!バネッサ――

もうちょっとデレてくれたっていいでしょ、バネッサさまぁ~~~

ピピピ……

枕元にある端末が突然鳴り出した。手に取って確認すると、見知らぬ相手からの通信だった

通信の相手は病室の騒がしさを聞いて、眉をひそめている

何だそのうるささ……毎日大勢、見舞いに来てるって?鬱陶しくないのか?

……

彼は人間の疑うような鋭い視線に気付き、一瞬沈黙したあと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた

ああ、やつらの言う通り、俺は生粋の悪党だからな。拘束されるなんて御免だから、すたこら逃げ出したのさ

はいはいはい、仰せの通りだよ。逃げてない……ほら、ちゃんと病室にいるだろ?

彼は端末を持ち上げて自分がいる場所を背景として映して見せ、真剣な表情になった

もう逃げたりしない。俺と……ヘインズに関わる調査や処罰には、全て協力するつもりでいる

だた、少し退屈なんだよな。最近はずっとここに閉じ込められて、ベッドから動けないし……それで、ちょいと他人の端末を拝借した

あんたのところは毎日えらく賑やかだって聞いたから、俺もちょっと参加したくなっただけだ。それくらい、問題ないだろ?

さあな。どの道、黒野にはいたくない……だが、どこへ行けるかは俺が決められることでもない

……話が飛びすぎじゃないか?

俺なんて……

……ま、考えとくよ。この後、チャンスがあるとも限らないしな……

ホワイトスワンの大騒ぎの中、通信の向こうのハニフは黙り込んだ。彼は空っぽの袖をもう片方の手で押さえ、心なしか落ち込んでいる様子だった

ヘインズに関する調査はまだ続いてる。俺にもいつ終わるかはわからない

彼の反応を見ている内に、ふと新しい考えが浮かんだ

……悪い知らせから聞くよ。でもこれ以上悪くなるようなことがあるか?

……いい知らせを頼む

…………

聞くんじゃなかったぜ……

ピッ――通信は切れた

見知らぬ端末からの通信が終わった時、タコのようにバネッサに絡みついていたレイアが、突然額をポンと叩いた

あ!いっけない!本題を忘れるところだった!

彼女はゴソゴソとリュックの中を探り、マニキュア、ヘアピン、イヤリング、ネックレス……を取り出し、最後にようやく小さな紙の小箱を差し出した

はい、あなた宛ての荷物。ナースステーションに届いたんだって。ついでに持っていってって頼まれたの

人間は不思議そうに包みを持ち上げた。中で何かが揺れて、カチャカチャと音を立てた

箱を開けると、中にはたくさんの金属製の認識票が入っており、病室の灯りを反射して輝いた

手に取ってじっくりと確認してみると……

手の中にあるひと握りの認識票……そこに刻まれていた名前は、全て同じだった――

「ロイド」