ヴィラの過去<//意識海>の中で、彼女の体は人々に支えられたまま「指揮官ちゃま」の前に差し出され、彼女は自らの血肉を捧げた
彼女はその人物の手を引いて、最後の旅路へと足を踏み出した
しかし「現実」は、意識海の世界が反転して投射されたようなものだった
パラパラと落ちる埃とともに、3人――正確に言えば、ひとりと、ロープで連結された他のふたりは配管から転げ落ち、遺伝子保管施設の廊下へ落下した
構造体を背負った人間はこの転落でかなりの衝撃を受けたが、ほんの数回深呼吸しただけで、すぐに体を起こしてヴィラの状態を確認した
マインドビーコンは機体のデータ同期状態を示していたが、その進行は異常なほど遅い
真っ先に転がるようにして立ち上がったのはハニフだ
異合生物はどこまで追ってきてる!?
……やるじゃないか。そんな大きな構造体を背負ってるのに、そこまで気が回るとはね……ゲホッゲホッ!どこもかしこも埃まみれだ……
まずはさっきの位置特定装置を確認しようぜ。「イヴ」は今どこだ?
位置を示す赤い光点はまだ微弱なままだったが、この辺りにいるのは間違いない
やっぱりこの遺伝子保管施設に逃げ込んでいやがったか。行こうぜ
ハニフは親切にも手を貸して人間を引き起こした――外骨格は確かに少し動きづらそうだ
同時に、彼は人間が探るような視線を向けているのに気付いた
どうした、気になることでもあるのか?
俺は黒野の人間だからな。こんな秘密くらい、知ってて当然だろ……
……出発前に、この遺伝子保管施設について少し調べていたことは認める。でも、あんたたちを傷つけるつもりはまったくなかった
言っただろう、あんたたちに俺を黒野から連れ出してもらう代わりに、「お宝」の場所に案内するって……そうしたら、運悪くとんでもないトラブルに巻き込まれただけだ
どうして急にそんなにあれこれ訊くんだよ。この数日、ともに苦労して、やっと俺の魅力に気付いのか?だから引き抜こうって?
ハニフは質問の内容に興味がないかのように、足早に前へと進みながらサラリと言葉を返した
しかし、人間はもう一度ハニフの襟元に目をやった。彼をあの輸送船に「攫った」時、彼の上着の内側に小さなファウンスの徽章を見つけていたからだ
「ファウンスっぽい」?昨日のあんたみたいに俺を絞め殺しかけたり、ちょっと芝居がかったことをすりゃ、銃を向ける……あんなヒステリックに報復する感じ、ってことか?
……あんたとヴィラは、やっぱ同類だよ
……まあ、隠すことでもない。確かに俺はファウンス士官学校の出身だ。だが、とっくに空中庭園とは何の関係もなくなって、黒野の忠犬になったのさ
ハニフは眉をピクリと動かしたが、「どうとでも考えればいい」という態度だった
普通さ、総合評価は10位以内ってとこだ
俺が「首席」なわけないだろう。首席は……
いや、ああいう輝かしい「英雄」ポジションは、俺には合わないってだけさ
ハニフは深く息を吸い込んだ
言っても信じちゃくれないだろうが――俺は家族を探しに来たんだ
勘違いするなよ、あの狂暴な異合生物どもと親戚になりたいわけじゃないぜ
俺は自分の本当の出自を知りたい――生まれた瞬間から黒野に管理されてたなんて、俺自身ありえないと思ってる。あいつらが俺のどこに目をつけたのかを調べたいんだ
な?信じられるか?しかもあんた、この手の話は好きじゃないだろう――意味深に騒いだわりに、蓋を開けてみればただの家族の揉め事だしな
まただんまりか……ま、それはあんたのいいとこさ。理解できないものに対しては黙っている
でも、これが俺の物語さ。あんたのような、皆が知る英雄譚なんてそうそうあるもんじゃない。俺みたいなやつの話こそ、そこら中に転がってる名もなきモブの物語だ
話せることは全部話したぜ。他に訊きたいことがないなら、しばらくは俺を信じてくれないか。しかもこの状況はだいぶ緊急――
ハニフの言葉を遮り、手にした銃を示してストレートに警告した
……
はいはい、わかったよ
……どうして急に、俺に背中を見せる気になったんだ?
……なんだ、とっくに気付かれてたのか
彼は嘴を掴まれ羽をすぼめた鳥のように、珍しくおとなしくついてきた
人間はヴィラを背負ったまま暗闇の中を急ぎ足で進みながら、マインドビーコンで機体の意識海にリンクし、適合プロセスを加速させていた
全てがごく自然に見えるのは当然だ――英雄というのは、人を安心させるものだからだ
ハニフは、薄暗い廊下の灯りが引き伸ばす英雄の影の中にいた
彼は何度も息を吸い込んでは、何か言いたげに口を開きかけたが、結局は全部呑み込んでしまった
<size=31>彼は言わなかった。自分の宿命が「模倣」であること、過去の長い年月の中で「影」として生きることに慣れ切っていることを</size>
彼のこれまでの行動は全て、そんな宿命への反抗だった
小賢しく立ち回ったり、わざと物事を台無しにしたり……そうすることで、少しでも自由を勝ち取ろうとしてきた
しかし心の奥では、模倣するはずの「英雄」に対する好奇心が芽生えていた
そもそも、彼には「出自」と呼べるものすら存在しない
――ただ、生まれた時から与えられる名前があった
彼は……
君は……
お前は……
「ヘインズ」だ
小さな胚胎から人の形に育ち、世界に対する認識を少しずつ高め、再び「自我意識」が急速に芽生えるまで……彼の記憶の大部分は、ずっとこの名前を中心に回っていた
幼い頃のぼんやりとした記憶の中には、全部で10人の「ヘインズ」がいた。彼はその10号だ
1号から9号までの個体は、大人たちから「遺伝子に欠陥がある」「不適合」等と評価され、すぐに命を落としていった
だが彼には、生まれつき他人よりも強い「損得勘定」の本能が備わっていた――彼は死ぬのが怖かった。だからこそ、「物分かりのよさ」の重要性を理解していた
彼は誰よりも、「影」として生きるのに適していたといえる
君が……「ヘインズ」か?最後に選別をくぐり抜けたという、あの……なるほど、空中庭園に送り込まれていたのか
あのジイさん、また何の悪だくみをしてるんだか
……
この名前を背負って、彼は空中庭園の青少年育成センターに送られ、時折、黒野の親切な支援者の援助を受けながら、人生で最も無知な10数年をごく平穏に過ごした
彼は支援者の言うことは全て聞き、指示された勉強をし、頼まれた雑用を引き受けた
欲望も要求もなかった。全ての行動の動機は、「死にたくない」ということだけ。なにせ、前の9人のヘインズの死があまりに恐ろしかったからだ
しかしいつの頃からか、ある名前が彼の耳に頻繁に聞こえるようになった
その日、彼は空中庭園のあちこちに流れている宣伝映像の前で足を止めた。誰もが映像の中の灰色の影に目を奪われずにはいられなかった
凱旋セレモニー……構造体小隊……グレイレイヴン指揮官と……ケルベロスは……
……昇格者を撃退し、海上からの希望の灯火をもたらし……
……
彼は初めて「希望」を口に出そうとした
しかし彼が口を開く前に、黒野の支援者は彼に新たな任務を説明しにやってきた
君にはファウンス士官学校へ行ってもらう
それは、彼の人生で初めてのいい「偶然」といえる。彼はサッと姿勢を正した
――わかりました、すぐに試験を受けます
……やけにあっさりと返事をしたな?なぜだ?
男は少し怪訝な顔をした
君は大きくなったら研究職に進むとばかり思っていたが、まさかの方向転換だな。本当に……特別なヘインズだったりするかもな
……特別なヘインズ?
「ヘインズ」は……あの9人以外にもいるんですか?
いや、いないよ。ハハ……
何がおかしいんですか?
ヘインズは突然自分のことを、長年こちらを研究してきた者たちに尻尾をつまんで吊り上げられ、じろじろと見回されている実験用ラットのようだと思った
長年受けてきた監視と支配の全てとともに、この名前への嫌悪感が急激に噴き出した
……これからも「ヘインズ」として生き、あなたたちのためにファウンスで働けということですか?
今日はやけに質問が多いな。いいから聞け
男は数枚の説明書類を呼び出し、画面を彼の方に向けた
説明書類はとても長く、人工太陽が沈む頃になって、ようやく男は全てを話し終えた
……要するに、ファウンスに入ったら、どんな手段を使ってでも「首席」の座を争える実力を保てということだ。それさえできれば、黒野からの支援は続く
逆に、できなかった場合は死ぬと?
そこまで深刻じゃない。君には他の使い道がある
……わかりました。やりましょう。あなたたちは、もうひとり「首席」を作りたい――そういう理解で合っていますか?
理解は間違っていない。君はあらゆる面で優れているし従順だ。この任務に向いていると思う
それに、我々が君を粗末に扱ったことはないだろう?ヘインズのひとつの「駒」として、空中庭園で恵まれた暮らしができているじゃないか
……意味がよくわかりません。どこにサインを?
男は画面の端を指差した
安心しろ、これは悪い任務じゃない。ファウンスを卒業すれば、黒野が進路をちゃんと用意してやる
好きにしてください
――ファウンスに入りさえすれば、物語は変わるはずだ
彼はそう思いながら手を持ち上げ、彼に10数年つきまとってきた名前をサインした
さあ、次の「首席」になってこい
ファウンスの入学初日、真っ先に彼は資料収集を「熱心」に始めた
過去の学生名簿をめくり、歴代の首席たちの名前をひとつひとつ調べていった
<size=50><b>ファウンス士官学校創設当初、第1期生首席、■■■■、失踪</b></size>
<size=50><b>第2期生首席、■■■■、戦死</b></size>
<size=50><b>第3期生首席、■■■■、失踪</b></size>
<size=50><b>第4期生首席、■■■■、構造体改造後、現在は粛清部隊に所属……</b></size>
<size=50><b>第5期生首席、■■■■、戦死</b></size>
……
<size=50><b>第?期生首席、クロム、構造体改造後、現在はストライクホークに所属……</b></size>
<size=50><b>第?期生首席、[player name]、現在はグレイレイヴンに所属……</b></size>
パタン
……
彼は歴代の学生名簿を閉じた。もうこれ以上見る気にはなれなかった
その日、彼は入学式にも参加していた。礼拝堂の照明は少し弱々しく、幸運な数人だけを照らし出していた
彼はいくつかの光の筋を黙って見つめながら、この「任務」の結末を予感していた――きっと光が当たらない場所は、いずれ「失踪」か「戦死」という言葉に変わる
<size=30>なあ、</size>お前はどうしてファウンスに入学しようと思ったんだ?
隣にいた少年がひそひそと話しかけてきた
……
彼は答えなかった。彼に聞こえるのは自分の胸を大きく打つ鼓動だけで、遅れて続く震えだけを感じていた
死ぬのが怖い。それなのに、自分が選んだ道が死に一番近いことに、今更のように気付いた
この震えは、新入生の最初の授業が始まるまでずっと続いていた
第1回の授業は座学も実技もなく、記念広場の記念碑の前で行われた
記念碑はまさに「境界の碑」であり、生と死を隔てる唯一の基準だった
彼は犠牲者の名がびっしりと刻まれた記念碑に向き合った。先ほど名簿で見たあの首席たちの名前すら見つけ出せない
震えが止まらず、脳内にはファウンスの歌が繰り返し響いている。彼は記念碑をそっとなでた
彼は、2度目の「希望」を口にしようとした
いつまでボーッとしてるんだ?
?
お前、まだそんな格好してるのか?マズイぞ、その耳にチャラチャラついてるの。明日には教官に外される。講堂にいた時から、お前の身なりをちらちら見てたからな
……何か文句が?他の人は知らないけど、自分が何をしたっていいだろ?
えっ?
人懐っこく話しかけてきた少年は一瞬驚いた。これからクラスメイトになる相手に、こんな反応をされるとは思いもよらなかったからだ
ご、ごめん。気を悪くしたか?お前と話したかっただけなんだ。向こうにいるやつらが言ってたんだけど、入学試験で総合トップだったんだって?
ひょっとして、未来の首席になるんじゃないか?ハハ
首席にはならないよ
黒野の計画は心に刻まれている。だがそれ以上に、心の底に深く根差した反抗心があった
そうりゃそうさ。俺だって張り合うつもりだしな、ハハ……
変なやつだな
自己紹介がまだだったな、俺はビーバー。お前は?
ビーバーはヘインズに手を差し出し、周りのクラスメイトたちもこちらを見ていた
……
俺は――
長年自分に貼りつけられている名前が口の端まで出かかったが、彼はふと口をつぐんだ
さまざまな思いが急き立ててくるようで、彼の視線は焦るようにさまよい――最後に記念碑に刻まれた、ごく普通の名前に留まった
…………
我に返った彼は、ビーバーが差し出した手を握り返した
生まれながら「影」として生きてきた彼はその手を固く握りしめ、この短い1日の中で3度目の、「希望」を口にしたいという願いを感じていた
俺は……
今回、彼はもう迷わなかった。その場で自らの願望を叶えた――自分自身に、本当の名前を与えたのだ
――ハニフ、俺の名前はハニフだ
学籍番号1364、ハニフです
学籍番号1364……ハニフ……問題ありませんね。卒業資格の審査は通りました。卒業試験への参加を許可します
ハニフの端末にすぐに教務課からの試験通知が届き、彼はそれをざっと確認しながら人混みの中へと歩いていった
<size=33>時はあっという間にすぎ去り、校歌が耳に残っていたのもほんの短い間だけ。気付けば、彼らは卒業の時を迎えていた</size>
自分に名前を与えたことは、ひとつの転機だった。彼は貪欲に、そしてずる賢くなり、要求も増えていった
そして数年の間に小さな「反抗」をだんだんと積み重ねていた
例えば小さな装飾品を身に着けたり、あえて黒野が要求する合格ラインギリギリで止めたり……
だが、それでも足りなかった
実戦演習は中止になった……前の戦いで指揮官と構造体に大きな犠牲が出て……協力してくれる人員が足りないんだ……
もしかして俺たちってあまり期待されてないのか……?俺が地上に降りたら絶対、グレイレイヴン指揮官みたいに満点を取ってやるのに!
(またグレイレイヴン指揮官かよ)
彼は議論に沸く人だかりを掻き分けて、歩いていった
まだ真っ昼間だぞ、寝言は夜まで待てって
くらえ!
ビーバーは振り向きざまに背後の人物へ綺麗な肘打ちを入れる。だが相手は手慣れた様子でそれを軽々と受け止めた
ガキかよ
おい、ハニフ、相変わらず口が悪いぞ
<size=32>まもなくファウンスを離れる学生たちは、ひとしきり笑いさざめくと、それぞれのシミュレーションドックへと散っていった</size>
試験の序盤は思ったよりもずっと簡単で、最初の拠点は彼らによってあっという間に攻略された
自身の順位を確認したあと、ハニフはシミュレーションドックから出ていった
四角い箱のように狭い部屋はまるで監獄だ
扉の横にある呼び鈴を鳴らすと短い電子音の後、スピーカーから感情のこもらない声が流れ出す
順位は?
10位だ。あんたたちの要求はクリアしてるはずだろ?
スピーカーの声がやんだ。どうやら、ハニフの言葉の真偽を確かめているようだ
しばしの沈黙の後、声が再び響いた
順位を確認した。食堂での飲食を許可する
暗く深い通路がハニフの前に現れた。通路の両側にはそっくりの扉がいくつも配置されている
まさか、本当に「首席」を作り出すつもりか?
暗闇の中、彼の低い嘲笑が響き渡った
3日目から、拠点攻略に問題が発生した。正面突破を主張する学生たちは戦略拠点へ真っ直ぐに向かおうとしたが、途中で伏兵から深刻な妨害を受けた
全員が大きな被害を受け、実際の戦場を模した負傷状況は、目を覆いたくなるものだった
うぐっ!!
侵蝕体がフリーマンの腹を裂き、中の臓器を引きずり出す
フリーマン!今行く――
行くな!助けられない!そっちは侵蝕体が多すぎる!
侵蝕体が次の一撃を振り下ろす前に、ハニフはビーバーを強く引っ張り、すぐ側の掩体に押し込んだ
次の攻撃を仕掛けたら、全部うまくいくんじゃなかったのかよ!他に方法は……一体どうすればいい……!?
今は支援も補給もまったくない。誰かが来るのを待たないとダメだ、これ以上無謀には動けない
……わかった、わかったよ!きっとまだ別の手があるはず……もう一度だ!ハニフ、一旦離脱して、他の皆を待とう。次のチャンスを待つんだ!
ビーバーは歯を食いしばりながら傷を縛り、顔に不屈の闘志を滲ませた
……
……やっぱり、シミュレーションテストじゃないと無理だな
ハニフはテストから一時離脱した
NO.1364、まだ時間は残ってる。どうして試験をやめた?
この後のポイントは明らかにひとりでは達成できない、他の生徒を待つ必要がある
今のファウンスの卒業試験は以前と異なり、小隊での作戦よりも全体の戦略に重きを置いている
もしかして、軍はもうそっちが欲しがっていた「首席」育成の必要がないのかもしれねえな?
推測も勘ぐりも必要ない、お前は自分の仕事だけを全うしろ
「推測も勘ぐりも必要ない、お前は自分の仕事だけを全うしろ」……か。面白いことを言う
彼は貴重な「30分の自由行動時間」を使って記念広場に向かい、いつものように累々たる英霊の名の下に白い花束を手向けた
その後彼は寮に戻り、データセンターでここ数年の間に何度も耳にしたあの名前を入力した
シミュレーションテストの出題が、全て実際の出来事に基づいているなら……グレイレイヴン指揮官の作戦記録を調べてみよう
限定的に公開されている資料が画面に映し出され、狭い寮の一角を照らした
<size=31>一人称視点の戦闘記録がハニフの網膜に映る。視点の主は非常に粘り強く、這いずってでも、仲間をひとりたりとも見捨てない</size>
そして最後は凄惨な状態で終点にたどり着いていた
だが、それでも救出された人々は生き延びることはできなかった
<size=32>戦闘記録を記録するカメラに感情などないが、その記録映像に滲む悲しみは、見た者全ての心に染み込んでいくようだった</size>
……もういい、時間の無駄だった
グレイレイヴン指揮官もこんなことを……ビーバーに真似されたら困る。愚の骨頂だ――全員を助けようとすれば、結局誰も救えない。長く生きられない「影」は見捨てるべきだ
彼は戦闘記録を閉じ、再び静まり返った闇の中で考え込んだ
そうだ……影だ……俺みたいな存在に、一体どんな意味があるっていうんだ?
ハハッ……自分に名前をつけたところで、結局意味なんてなかったな
NO.1364、本日の行動を報告せよ
16時にここを離れ、16時12分にアーケードへ到着、人口肉の串焼きを購入し……16時42分にドミニク記念広場に到着、少し休憩して、17時に帰宅
この1週間、自由時間の度にドミニク記念広場に向かっていた理由は?
記念碑で、自分の名を刻むのにふさわしい場所を事前に選んでただけさ
真面目に答えろ
大真面目なんだけどな……
ハニフは監視カメラに向けて降参のポーズをとった
この仕事は死亡リスクが著しく高いって、契約書にも書いてあっただろ?
ただそれを再確認しに行ってただけさ。ところで、卒業したら俺をどこに配属するつもりなんだ?執行部隊?粛清部隊?それとも、あんたたちの私兵部隊か?
この件にお前の意志は介入しない、詮索は無用だ
もし可能なら、俺は執行部隊に行きたい
ハニフは相手の言葉が聞こえなかったかのように、ひとりで呟いた
それなら……最後は誰かの記憶になる。名を残せるかもしれないだろ
黒野の監視が一時的に離れると、ハニフはビーバーに連絡した
お前も戦闘記録を見ているのか?あまり役に立たなさそうだ。俺も記録を参考に作戦を組んでみたけど、結局全滅したからな
お前みたいなザコと一緒にするなよ。あんな記録、もう全部捨てたさ
じゃあ、何か新しいアイデアでもあるのか?
別に優れたアイデアってわけじゃないが、このシミュレートされた実戦試験には、きっと使えるはずだ
次の戦闘からお前は周囲の全戦力を動員し、全チームをまとめて、一斉に動かすようにしてくれ
人海戦術ってやつか?
成功だけが目的なら、最初から「首席」になれないやつらを犠牲にしたって構わない。ただ「英雄」と「影」を区別したにすぎないさ。小説の中ですら、はっきりしてるもんな
それに、俺たちには何度でも挑戦する機会がある。これが戦闘記録との最大の違いだ。俺たちはきっと成功できる――
ビーバーは、突然話を遮って問いかけた
待てよ、じゃあお前自身はどういう立ち位置なんだ?英雄か?それとも影か?
前にも言っただろ、俺は首席争いをする気はない。ずっと10位あたりをキープするって……
はいはい、前にも聞いたって。皆がグレイレイヴン指揮官みたいな指揮官を夢見る中で、お前は犠牲者の記念碑に名を刻むことを夢見てるんだよな?
まあ、確かに……
何が「確かに」だよ。そんな肯定いらないって――お前、本当にそれで後悔しないのか?
ハニフの言葉と心が、長年ずっと食い違っているのを見抜いたかのように、ビーバーは直球で問いかけた
本当にお前は、自ら願って犠牲になる「影」なんかになりたいのか?
……
ハニフは認めざるを得なかった。自分のかわりにその問いが出てくるのは、彼がこうやって思ったことをすぐ口にする者だからなのだ
……
……!
ハニフが顔を上げると、安心感のあるあの背中が前方で振り返り、自分に向かって念を押すように何かを言っていた
……話してくれ
……
そう言い聞かせると、人間はまた大きく前へ歩き出した
重いヴィラを背負って進む背中が、前方でふらついている。本当に過去の学校時代の記憶に浸っているような口調だった
違うね、その決断は間違ってる。ここで一番優れた戦力は、あんたとヴィラだ。もし本当に何か起こった時、最初に見捨てられるべきは俺だ
それとも、この戦場で「誰ひとり見捨てない」なんてご立派なことを言うつもりか?
彼は鼻で笑った。かつて見た、あの失笑ものの戦闘記録を思い出さずにいられない――あの記録の出処は、まさに目の前のこの人物だ
……もういいって。俺に気を遣う必要も、淡々とたとえ話で説明する必要もない。俺は全部わかってる
俺はただの後輩だが、ガキじゃない。それに、俺はあんたより上手くやれる。あんたとは違う
ハニフは突然足早に前へ進み、前を歩く人間を追い越すと、先頭を歩き続けた
俺の怪我なんてかすり傷だ。負傷者扱いして後方に下げなくていい。やっぱり俺が道を探る
そういう質問はやめてくれ。フラグは立てたくないんでね
ハニフは一切の感情を心の底に押し込め、これから交わされそうな会話を全て遮断した――彼は再び、新たな「希望」を抱き始めていた
<size=30>シッ、静かに。「イヴ」の位置が近い</size>
<size=30>聞こえるか?……誰かいる</size>