Story Reader / 叙事余録 / ER12 ラストフレア / Story

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ER12-7 飛散

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廃墟のような街角で、女性は全身をわなわなと震わせながら拳銃を構え、遠くから猛スピードで迫ってくる侵蝕体に狙いをつけた

来ないでよ!落ち着くのよ……よく狙って……

彼女は手にした武器で侵蝕体を威嚇しているつもりだったが、それがすぐに愚かしいほど無意味な行為だと悟った

そして彼女が半歩後ずさった時――ふくらはぎが、震えている少女に当たった

お母さん……あいつが来る……あのお兄さんも、私たちに連絡をくれなかったし……

女性はもうそれ以上、下がりはしなかった

逃げなさい……早く!お母さんもすぐに追いかけるから!

怖いよ、無理だよ!

何が怖いの!早く行きなさい!

ギイィ――!

侵蝕体はあっという間に母娘の目の前に迫った――真っ黒な影が彼女の瞳孔に大写しになる

!!!

女性は悲鳴をこらえながら銃を高く構え、引き金を引こうとした

伏せて!!

赤い影が飛びかかり、ふたりをひとまとめに地面に押し倒した

次の瞬間、目の前で爆発音が鳴り響いた

煙塵が薄れ、女性は咳き込みながらようやく何が起きたのかを理解した

赤髪の女性の構造体が地面から立ち上がり、パンパンと服の埃を払うと、女性の手からサッと銃を取り上げた

銃は没収。もっと向いている人が持つべきね

ダメ!返してください!

その女性は反射的に銃を取り返そうとした。混乱し、危機的なこの状況で、銃は彼女たちにとって最後の護身用の道具だった

フン、だからこういう「後始末」ばかりの面倒事なんてやるもんじゃない……説明するのも疲れるから、あの人から聞いて

指揮官ちゃま!

構造体は少し苛立った様子で、隣にいた人間に顎をしゃくった

人間はまだ患者衣を着ており、どこかの医療施設から逃げてきたようで、腹部と顔に痛々しく包帯が巻かれていた

ちゃんと聞こえた?敵か味方か見分けくらいつくでしょ?わかったら黙ってついてきて。私の善意は1日1回限定なの

空中庭園……あなたたちも空中庭園の人なの?

私たち以外に、他にも空中庭園の人を見たの?

女性の口から「空中庭園」という言葉が出た瞬間、ヴィラは警戒するような目つきになった

……それなら………

お願い、あのふたりのことも助けてください!

女性は突然ヴィラにしがみつくようにして、彼女の腕を強く掴んだ

知らない男の人が、私と子供を連れて逃げてくれたんです……でも彼には大事な任務があったようで、一緒にいた研究員も巻き込まれて……彼らが取り残されてるんです!

いえ、説明するより行く方が早いわ。彼はあの建物の裏にいるはずです。私が案内します!

彼も空中庭園から来たと言っていました!ファウンスの人だとか

空中庭園とはまるで違う空虚な地上での行動中に、突然その聞き慣れた言葉を耳にして、まるで故郷に帰ったかのような懐かしさを感じた

だが、ヴィラは明らかにそうは思っていなかった

余計なことには関わらない。私が動くのはあくまであなたのためだけよ、指揮官ちゃま

もしその男が生きているなら、とっくにこの母娘と一緒に現れていたはずよ。自分の銃を預けたりなんてせずにね

ヴィラは女性から取り上げた銃を人間に投げ渡した――――形や刻まれたロゴからして、明らかにファウンスの制式銃だ

手を放して。機体に触らないでくれる?

ヴィラは腕にしがみついていた女性の両手を振り払った

しかし人間はヴィラの目をじっと見つめたまま、その判断に返答しようとしなかった。むしろ彼女の瞳の中から、もっと納得できる理由を探そうとしているようだ

なぜなら、人間は端末に書き記した「記憶日記」のことを思い出したからだ。そこには臨時医療拠点でのある夜、彼女がベッドの側で眠っていた時の出来事が綴られていた

言いたいことがあるなら言いなさい。「臨時指揮官」だって一応は指揮官なんだから。決断する時よ

へえ、ずいぶん偉そうじゃない。だったら正しい決断をしなさいよ。使わないなら、口を縫いつけてあげる

あなた――――

腹に大穴があいているくせに、よくもそんなことが言えるわね。痛み止めがまだ効いてるのかしら

それだけの理由じゃ私を説得できないわ――鏡で見てごらんなさいよ、正義感に酔ったその顔。どうせただのヒーローイズムよ。あの母娘を助けたのだってそう

それだけの理由じゃ私を説得できないわ――鏡で見てごらんなさいよ、正義感に酔ったその顔。どうせただのヒーローイズムよ。あの母娘を助けたのだってそう

ヴィラは明らかに不満げだった

(訳もわからず飛び出して、私を助けた時と同じようにね)

「生まれつき」使命感や正義感に満ちた連中を何人か見てきたけど、あなたも少し似てるわ。興味あるのよね、それって育った環境のせい?

教えてよ、あなたがそういう選択をする理由って何?

……ハッ、バカすぎて反吐が出るほどご立派な発言ね

悪いけど、私はまるで正反対――状況が完全に手に負えない時は、いつだって他人を最大限に悪く見積もる主義なの

ヴィラは、突然武器の刃を女性の首元に突きつけた。動脈を狙っている

指揮官ちゃま、よく聞いて。英雄になりたいなら、それ相応の責任をひとりで背負いなさい。私はあなたを支えるつもりはないわ――少なくとも今はね

別行動にしましょう。通信は繋いでおいたままにして。度胸があるなら、その母娘についていけばいい。そのファウンスの人間を本当に助けられればいいわね

大サービスで侵蝕体を食い止めておいてあげてもいいわ、でもせいぜい30分よ。30分経って「いい知らせ」がなかったら、全員を見捨てる

ああ、それから……

ヴィラは剣呑な眼差しでその母娘を見つめ、自分の耳を指差した

この数年、羊の皮を被った「難民」を山ほど見てきた。小賢しい真似はしないで頂戴ね。もし私の言うことを聞かなかったとわかれば、どこへ逃げようが必ず追い詰めて始末する

…………

全員、おわかりかしら?

ヴィラは切っ先で女性の首を軽く叩き、反対側の刃は自分の臨時指揮官に向けていた

その時、1機の爆撃機が頭上をかすめて通過し、ヴィラの鋭敏な聴覚モジュールがその危険な音を捉えた

……チッ、ホント運が悪いわね。侵蝕体がこんなに早く追いついてくるなんて

何をぐずぐずしてるの、急ぎなさい!