<color=#808080><i>本機の名前を入力してください____</i></color>
……何度呼びかけても同じだ。彼女は初期化されたばかりのAIのように、設定された会話プログラムに従って、簡単な質問や指示にしか応じなかった
――あのイタズラ好きな少女は、もうどこにもいない
自分の動力甲のバッテリーにはまだエネルギーが残っていた。まずはジェタヴィの尻尾に接続してみる
次は……成功するとは限らない方法を、いくつか試すしかない
【深層リンクリクエスト】
【受信側応答なし】
【受信側リンクリクエスト】
……受信側から?ジェタヴィが自らリンクをリクエストしている?
……【応答信号を確認、構築中】
【深層リンクチャンネル確立】
その通知が脳に届いた瞬間、周囲の音は全て耳元から消え去り、訪れた暗闇とともに一切が静止した
その直後、足下から光線が出現し、全身をスキャンするように光を放った
かつて同じようなことがあった……初めてゲシュタルトに浸入した時とまったく同じだ
こんにちは、[player name]センセ
静寂が広がる空間に冷たい声が響いた。ジェタヴィの声だったが、その声の中に感情はまったく感じられない
よく見ると、中央の菱形の柱が話しているようだ
ここはジェタヴィの人格モジュール内です。私はこのモデルのデータ回収プログラムです
ジェタヴィの人格モジュールは、激しい戦闘によって頻繁にエネルギー不足を起こし、データの散逸が見られます。通常は、私が自動で人格データを回収しています
ですが今回の超負荷状態での戦闘で、ジェタヴィの人格データの90%近くが断片化し、もはや私では自動回収が不可能となりました
断片化されたデータを一刻も早く回収し、統合しなければ、「ジェタヴィ」の人格は完全に解離してしまうでしょう
人間の概念上では、今のジェタヴィが死ぬという意味です。ただし、人格モジュールが再び成長すれば、新たなジェタヴィが誕生するでしょう
人間の概念上では、そうです。ただし、人格モジュールが再び成長すれば、新たなジェタヴィが誕生するでしょう
このような危機に陥ったのは初めてです
ジェタヴィはあなたの助けを必要としています。そのため、私があなたにリンクをリクエストしました
ジェタヴィの深層人格モジュールに浸入し、散逸したデータの断片を回収してください
ただし、お伝えしておきますが、たとえ断片を回収したとしても、ジェタヴィを完全に復元できる確率は高くありません
データの断片を統合するには、あなたにもそのデータに関する記憶が必要です。例えば彼女と一緒にミルクティーを飲んだなら、その記憶を基に該当データを復元できます
何事も絶対ではありません。小さな断片しか復元できなくても、それを元に関連する他の断片を探し出せる可能性はあります
あなたが見つけたデータの断片は一人称視点で「再現」されるかもしれません。しかし、それはあくまで過去の出来事。過去の事実を「変える」ことはできません
言い換えれば、あなたには読み取り権限しかなく、書き込み権限はないということです
目の前は再び闇に包まれた
【深層人格モジュールへアクセス中】
【身分認証を実行中:社員番号035034、戦術教官】
…………
【特殊な意識波形を検出。適合性の検証を実行中】
何かおかしい。なぜ、もう一段階の検証が必要なのだろう?
【検証完了。モデルコード:「天に選ばれた人」】
【適合率:100%】
【神経ネットワークに接続中】
世界が滅びる。彼女が記憶を持って以来、これで何度目だろう?
天井から岩が激しく落下し、足下の地層が一瞬にして崩れ去る
彼女は自らのアルゴリズムを呼び出し、内部からメインシステムを書き換えることができる――だが、それに何の意味がある?
一時的に世界は元通りになるかもしれないが、時の振り子が逆向きに揺れれば、再び世界は滅びへと向かう
今回も、これまでと何も変わらないだろう……
……?
銀白色の陽光が、今日はなぜか暖かく感じられる
崩れ落ちる光の中から、ゆっくりと人の姿が浮かび上がった
誰……?私を殺しに来た怪物?
ため息のような彼女の声には、虚無と悲哀が入り混じっていた
驚くことも警戒することも、体をこちらへ向けることすらせず、彼女はただ僅かに、ぼんやりとした視線だけをこちらへ向けた
これは、あなたが<b>初めて</b>銀灰色のツインテールの少女と出会った時です
ここで彼女と出会った時、あなたの過去の記憶は全て曖昧だった。ただ、「天に選ばれた人」という名前だけは覚えていました……
……天に選ばれた人?
少女はその言葉を噛みしめるように繰り返した。冷淡な彼女の瞳に、微かな波紋が広がる
少女の唇がまるでおまじないを唱えるように、微かに、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した
……ジェタヴィ?
うん、ジェタヴィ……その名前、気に入ったわ!
よろしくね!天に選ばれた人
仲間ができたことが嬉しかったのか、無表情だった少女の顔は微かに色付いた
ドォン!――突然、巨大な石が崩れ落ちた。空間は崩壊し、世界そのものが崩壊していく
ジェタヴィは、もう何度も試したの。どんな方法を使っても逃げられない……この世界が崩壊して、また次のループへと進むだけよ
えっ?
少女は一瞬驚いた
少しためらったあと、彼女も力強く手を握り返した
うん。一緒に逃げよう、天に選ばれた人!
【データ統合:20%】
カウントダウンがゼロになれば、世界は終わりを迎える
怪物は跡形もなく消えたが、周りの赤潮が引く様子はない
ジェタヴィは自身の全てのアルゴリズムを用い、内部からメインシステムを書き換えた。そうして、崩壊した世界は再びリセットされた
今度こそ私たちはきっと、もっと早く走って、この手を遠くまで伸ばせるはず
【データ統合:30%】
よろしくね!天に選ばれた人
鍵を手に入れるまで、あなたの記憶は次のループへ引き継がれない――そのため、あなたはまだ気付いていません。あなたたちの旅が、すでに幾度も繰り返されていることに……
私は……ジェタヴィ、わけあってキミとここで出会ったの
初めて出会った時と同じように、少女の顔にはどこか憂いと困惑の色が浮かんでいた
天に選ばれた人……私たち、これからどこへ逃げればいいの?
……私はジェタヴィ、わけあってキミとここで出会ったの
次第にあなたの存在を受け入れ始めたのか、少女の表情はまだ少しよそよそしいものの、以前より自然で穏やかな顔付きに変わっていきました
天に選ばれた人、時間がないよ。早く進もう
私はジェタヴィ!わけあってキミとここで出会ったの
彼女はあなたとの交流に慣れてきましたが、あなたが何度も忘れてしまうのが、少し癪に障るようでした
まったくもう!ほら、手を伸ばして。一緒に逃げるよ!
私はジェタヴィ、わけあってキミとここで出会ったの
そっか、また忘れちゃったんだね……
まぁ、私たちは必然的に出会う運命だったんだけどね
何度も何度も自己紹介を繰り返す内に、少女は苛立つこともなくなりました。むしろ、困惑するあなたの表情を面白がっていました
ぽかんとしちゃって……なんか、栄養足りてなさそうね
よろしくね!天に選ばれた人
ジェタヴィはそのまま両手を後ろに回すと、不意に背後から瓶の牛乳を取り出した
彼女の表情がなんだか怖くなってきた
ジェタヴィはゆっくりと自分へ近付き、有無を言わさずに瓶を口に入れると牛乳を流し込んできた
じっとしてて!キミは弱ってるから、いっぱい牛乳を飲んで元気をつけないと
そうそう!ほら、言われた通りにたくさん飲んで。残したらもったいないでしょ
【データ統合:40%】
それから?
ふたりはついにアクセスキーを見つけました。それでも崩壊の運命から逃れられませんでしたが、それを使い、ふたりの記憶は次のループへ引き継がれるようになりました
ジェタヴィがこちらの頬を優しくなでる。ふたりの目の前で世界が散ってゆく
天に選ばれた人、今度こそ……
今度こそ、もっと早く走らないと!
【データ統合:50%】
ふとしたきっかけから、あなたは別の<phonetic=データセット>世界線</phonetic>のジェタヴィを観測できました
そのジェタヴィは天に選ばれた人を失い、アドミニストレーターとの果てしない戦いを続けていました
数え切れないくらい……何度でも過去に戻って……
【0:00:01】
そして、もう一度キミの手を……
【0:00:15】
次は、絶対に離さない
あなたが見守る中、少女はひとりで旅へと踏み出しました
【データ統合:60%】
少女はアドミニストレーターに勝つことはできなかった
別世界の天に選ばれた人、ここよりもっといい場所で……
また会いましょう
それは以前とはまったく異なるエネルギーだった。それは、ジェタヴィを構成するアルゴリズムからくる光……
美しく強い光が闇の世界全体を切り裂いた。夜の闇を払う灯台のように、曙の空を切り裂く夜明けのように
受け取るがいいわ、アドミニストレーター
聞いていてね、天に選ばれた人。これが最後の音――
彼女は全力を尽くしてふたつの世界の境界を打ち破りました。そして、残された全てのアルゴリズムを銃に変え、あなたとジェタヴィに託しました
【データ統合:70%】
アドミニストレーターとの戦いで、あなたはジェタヴィを生かすために自らを犠牲にしました。自分のアルゴリズムをジェタヴィに譲り渡したのです
私はやっぱり……天に選ばれた人を置き去りになんてできない
やっぱり、ひとりで離れるのはイヤだもん。天に選ばれた人、私はどこにも行かないよ
たとえ最後にここを脱出できたとしても、天に選ばれた人を失った未来にどんな意味があるっていうの?
あなたを犠牲に得る力なんて、いらない
しかし、ジェタヴィはその力を拒み、あなたとともにいられる世界を選びました
【データ統合:80%】
再びアドミニストレーターとの戦いが始まり、あなたの死を目にしたジェタヴィは激高してアドミニストレーターを打ち破り、中枢権限を手に入れました
循環する運命を変えられないのなら、せめてここを真に優しい故郷にしたいの
優しい故郷……
「ジェタヴィ」の初期化人格を天に選ばれた人の傍に置いておく。でも、天に選ばれた人の記憶だけは残しておきたい
あなたの要求した設定のプリインストールが完了しました。プログラムはいつでも再起動が可能です
今度は……
キミたちが、よりよい場所で出会えるように
でも、彼女はあなたを忘れられず、己の力を使い、敵意のない世界を創り出しました。その世界で、彼女は幼いジェタヴィと天に選ばれた人が幸せに暮らすのを見守りました
【データ統合:90%】
ついに幾度もの旅路の苦難を乗り越えたジェタヴィは、アドミニストレーターを打ち破り、マトリクスと全ての天に選ばれた人たちのアルゴリズムを手に、現実世界へ向かいました
来た時はツインテールだったの。だから、離れる時もツインテールでお別れ
戦闘ばっかりで、自分のもともとの姿を忘れるところだった……
なんだか……懐かしいな
ツインテールを結び直した少女は、螺旋状の扉の前へとやってきて、小さくつぶやいた……
行かなきゃ
ここでの記憶を糧に、新たな出発よ。次の目的地は「現実」
【データ統合:100%】
【人格モジュール復元中……】
天に選ばれた人としての記憶の断片が、一気に脳内へと流れ込み、言葉で表現できない感情が溢れ出した
悲しみ、懐かしさ、喜び……失っては取り戻し、取り戻してはまた失う。強烈で複雑な感情が脳を揺さぶり続ける
それは自分だけの感情ではない。深層リンクを通じて、ジェタヴィの人格モジュールから伝わってきたものだ
【人格モジュール復元完了】
キミが……キミが、そうだったんだ……
とうとう見つけた……天に選ばれた人を
白い鳩が舞い、少女はとめどなく涙を溢れさせた
よかった……キミをちゃんと守れたんだ……本当によかった……そのために、ジェタヴィは頑張って生きてきたから……
ジェタヴィはもう、キミを失ったりしない。そうだよね?