ヒュウウ――ドオオオオオン!
巨大な灰色の球体が凄まじい勢いで地面に衝突する
硬い大地はこの瞬間、薄紙のように脆くなり、高層ビルは瞬く間に崩れ落ちた
空から真っ赤な溶岩が降り注ぐ。燃え尽きた彗星の破片と岩石だ
吹き荒れる熱波が、少女の細い体を一気に呑み込んだ
このパラメータではダメね。まだ出力にズレがある……
廃墟と化した街のど真ん中で、少女は淡々と目の前の仮想実験台を操作していた。その姿は、世界の終焉の光景とあまりにもちぐはぐだった
これも違う。問題はここじゃない、計算が複雑すぎる……プルーニングした方がいいかしら?
飛んでくる火の玉には目もくれず、彼女はただ目の前の実験台だけを見つめ、眉根を寄せた
うっ――
赤い影が彼女の前をよぎり、飛んできた火の玉を受け止めた
ユイ、早く逃げて――ここは私と天に選ばれた人に任せて!
ドカーン!大統領VIと天に選ばれた人が、最後の科学者を致命的な一撃から守った。ここから、世界の滅亡を阻止する彼らの旅が始まる!
VIは効果音を真似し、自らの「偉業」を感動的なナレーション風に語った
茶化さないで
ユイは口ではそう言ったが、特にやめさせようとはしなかった
彼女はいつものようにカタカタとキーボードを叩き続け、コードを書き連ねながらVIのパラメータを調整していた
ねえ、ユイと一緒に遊びたい!
私は忙しいの
火花が飛び散って煙が舞い上がり、灼熱の熱波が渦巻く世界の終焉。そんな恐ろしい現象が起こっているのは――
ユイのラボだった
彼女がVIと天に選ばれた人をマトリクス中枢から取り出してから、長い時が経っていた。ふたつのモデルには深刻なデータ汚染が残り、一時は崩壊寸前に追い込まれた
彼女が電子脳インターフェースを繋ぎ、モデルたちの記憶に残るデータを慎重に精査し、日夜実験台の前で調整し続けた結果、なんとか死の淵から引き戻せた
ふたつのモデルはすでに危機を脱したとはいえ、一瞬たりとも気を抜けない日々だった。いつ会社に奪われるかわからないからだ
VIは、日ごとに成長していった。元気を取り戻し、少しイタズラ好きになり……いろいろな方法で人の注意を引こうとするようになった
ドレイヴィさん――あっ!!
ラボの扉を開けたヘルタは、思わず尻餅をつきそうになった
ああ、驚いた……もう!VI!
ベロベロバー
ドレイヴィさん、またVIに人工光源で遊ばせてるんですか……ちょっとは止めてくださいよ
こうすることで、この子はリアルな世界の環境を感じられるんです
まったく……
VIはドレイヴィさんの意識サンプルから生成されたのに、性格はまったく似てませんね
冷静で理知的な研究者の特質はまるで受け継がず、むしろ1日中イタズラばっかり……
それとも、ドレイヴィさんも子供の頃はこんな感じだったとか?
ヘルタは冗談ぽく訊ねた
当時の私には、遊び回る余裕なんてありませんでした
彼女は手を止めることなく答えた
子供時代と呼ばれる時のことをほんの少し思い出すだけで、息苦しさに襲われる
でも、この子は違う。まだ自分の側にいる内は、そんな重いものを背負う必要はない
VIがこうして自由気ままにイタズラをしていられることに、ユイは不思議な安らぎを感じていた
まるで、幼い頃の自分の人生に、もうひとつの可能性があったかのように――
ユイがVIを止めるつもりがないと察すると、ヘルタは諦めたようにため息をついた。そして、懐から紙片の束を取り出し、手品師のように扇形に広げた
今日また、警備課のロルフさんがあなたたちに罰金切符を切りました。彼らは巡回中、VIのイタズラに驚いて、誤って近くの換気ダクトを壊してしまったそうです
VIはカプセル内に格納されているが、投影することで、カプセルからある程度の範囲にある設備内を移動できた
やったね!大勝利!
大勝利じゃありません!今週はこれでもう5枚目の罰金切符なんですよ!?まだ火曜日なのに!
このままだと、ラボに割り当てられる計算資源が削減されてしまいます!
あなたって、本当に……
ようやく手を止めたユイは、カプセルの金属カバーを指でバチンと強く弾いた
痛ーい!
外部に感圧センサーなど付いていないのに、VIはわざとらしく悲鳴を上げた
どうしてそんなことをしたの?
だって、警備課はユイをここに閉じ込めて、外で遊ばせてくれないから……
だからって、そんなことしちゃダメでしょ。アルゴリズム供給を削減されたらどうするの
そんなのいらない!
ダメよ。アルゴリズムが足りなければ、あなたのイテレーションの進捗が遅れるわ
あの時、VIがマトリクス中枢へ入れられた光景が、今も目に焼きついている。ユイの口調が冷たく変わった
成長したくない。大きくなんてなりたくないよ……
ユイの感情の変化を察したのか、VIは途端におろおろとし始めた
ユイが冷ややかにVIと光源の接続を切断すると、いつものラボの光景が戻ってきた
VI、あなたの意見を聞いてるわけじゃないの
勘違いしないで。あなたのワガママで、同情を買えると思ったら大間違いよ。あなたは所詮、ただの実験体にすぎないんだから
人間とはそういう生き物よ。自分の創造物にも、自分の身内に対しても、冷淡で傲慢なの
残念だけど……私もそのひとりよ
なぜなら、彼女は父親のサンドバッグだったからだ
次にあの執行官が視察に来るまで、どのくらいの時間があると思う?
あなたをここに連れ戻す前、私は彼に大口を叩いたのよ。次の視察までには、より完全な実験成果を出すとね
その成果への見返りに、私は彼に本社へ推薦してもらう。そうすれば、いくつかのカスケードマトリクスのアルゴリズムを、好きなように使えるから
なぜなら、彼女は母親の乗船券として利用されたからだ
あなたの存在が、私自身の未来よりも大切だなんて思ってるとでも?
引き渡されたあとは、あなたひとりでテストの拷問を受けることになる。その時、どうやってデータ汚染に耐えるつもり?
いつまで私に甘えているの?さっさとフィルタリング済みのデータセットを確認しなさい
VIにかつての自分と同じ運命をたどらせるわけにはいかない。自分の力で生き抜く力をどうしても身につけさせなければ……
……大きくなったら、ユイはどこかに行っちゃうの?
だったら大きくなるのは嫌。ユイの側にいたい……
か細い声を聞いて、ユイの心は思わず揺れ動いた
ドレイヴィさん、ちょっと言いすぎじゃ……
……ヘルタさん、私に何か用ですか?
自分の感情を隠すため、ユイは何事もなかったかのようにヘルタに話しかけた
マトリクス中枢の維持を担当している研究員に聞いたのですが、天に選ばれた人の意識を最初にサンプリングした時、マトリクスがパニシングに侵入されていたと……
最初にサンプリングした時?どうして今更そんな昔の話を?
それが……この前の天に選ばれた人の突然の信号の出現は、パニシングが残したデータ汚染の影響ではと推測されているんです。まだ原因ははっきりわかりませんが……
それにちょっと妙なんです。汚染濃度の変化は通常、地理的に連続しているはずなのに、あの汚染はなぜか極めて低濃度だったマトリクス内に突如出現した……
ユイは小さく眉をひそめた
……目的は侵蝕ではなく、ただの探索だった可能性が高いです
それに……執行官の検査の日に、天に選ばれた人の人格波形が突然現れましたよね。それ以前に現れたことはほとんどなく、その日以降に現れることもなかった……
ぼんやりしながら、ユイが天に選ばれた人のカプセルをつついていると、突然横からヘルタの驚く声が聞こえた
検知器が天に選ばれた人の人格波形を検知しました!
ユイはさっと視線を向けた
ユイはすぐさまVIの接続を天に選ばれた人から切り離し、警戒しながらVIのカプセルを抱えた
あなたは一体誰ですか?なぜ天に選ばれた人に接続したのですか?接続した理由は?
少女の冷たく尖った声が、剣を突きつけるようにゆっくりと迫ってくる
だがこちらの意識も朦朧としている。自分は一体誰だろう?天に選ばれた人とは?どうやって接続されたのか、なぜ接続されたのかもわからない
何かが記憶を遮断しているようで、言葉で基本的な交流はできるものの、何があったかはぼんやりと曖昧だ……
わざととぼけているの?
少女がじりじりと1歩ずつ迫ってくる
逃げ出したい――しかし、この「体」はまったく動けないことに気付いた
言いなさい、あなたは何者ですか?一体どこから……
ドレイヴィ
ふいに入口から声が聞こえ、少女は足を止めて振り返った
ホルストさん、まだ執行官殿の検査の時間ではないはずですが
あのご老人の検査に関係なく、私が研究開発の進展に興味を持ったっていいだろう?
ホルストが歩き出すと、その背後から数名の警備服を着た者や研究者らしき者がどやどやと入室し、整然と少女を取り囲んだ
……ホルストさん、今日はどんなご用件でいらっしゃったんですか
ドレイヴィと呼ばれた少女は、冷静な口調のままそっと横に移動し、自分を背後に隠した
前回の検査から結構な時間が経ったんでね……ドレイヴィさんの能力なら、あのふたつの意識体を十分に成長させた頃だろうと思ってな……
あのモデルたちを渡すんだ、ドレイヴィ
彼はふたつの意識体と、それによって得られる利益を必要としていた
少女はすぐには答えず、更に後ろに下がり、自分を完全に彼女の影に隠した
ホ、ホルストさん!ドレイヴィさんは今日はとてもお忙しいので、日を改めて……
慌てて駆けつけたヘルタが、ユイの前に立ちはだかった
パラメータの調整は長期的な実験過程が必要です。ましてや、人間の意識サンプルを基に生成されたものであれば、モデルの成長は……
そんな言い訳は聞きたくない
また次の検査の時に突然飛び込んできて、執行官殿に「パラメータの調整が終わっていません。よりよい結果を出してみせます」と言うかもしれないだろう?
次の検査まで、まだ時間があります。ドレイヴィさんが十分に準備を整えられないと、意識体を十分に成長させられません……
ヘルタは、彼らがユイやユイの背後の実験台に近付かないよう、ホルストを必死に制止した
(心配しないで……私が何としても守る)
突然、少女の声が脳内に響き、周囲の現実世界は急にスローモーションのように遅くなった
心配しないで……私が何としても守る
(何ですって?)
その言葉に驚いたのか、彼女は一瞬ビクッとした
(……あの時、目を覚ましていたの?)
(あなたは一体……)
(……刺激性テストの内容が虐殺ですって?)
途端に彼女の声は冷静になった
(ありえない。「死」に至る前の段階では、必要最低限の痛みを伴うテストしか行わないはず。虐殺は明らかにその範疇を超えています)
――なぜ私の質問に答えない?ドレイヴィ
立ち塞がるヘルタを押しのけた男の声が、少女との暗号化された会話を断ち切った
カプセルを我々に渡したとしても、次の執行官殿の検査時に、君は確実に推薦されるだろう。結局、コアアーキテクチャの功労者は君しかいないからな
君の利益が損なわれることは一切ない。なのに、カプセルを渡したがらないのはなぜだ?
それらはただの実験体にすぎず、感情を注ぐ価値はない。ならば、残った結論はひとつ――君はそれらを自分のものにしようとしているな
もう一度言っておくぞ、ドレイヴィ。君が研究開発に使った計算資源、君が生み出した実験成果、そして君自身も含め……ここにあるもの全てが会社の所有物だ
本社へ行けば、君がどんな選択をしようと私は口を出せない。しかし、この第141号分区のマトリクス内では、君は私の命令に逆らえない――カプセルを渡せ
(天に選ばれた人)
ユイの声が再び心の中に響いた
(以前、あなたの出力装置を外部接続しました。このラボの照明を操作できるはずです)
(私が3つ数えたら、照明を消してください)
(その後、あなたたちをヘルタという女性に託します。彼女に、グストリゴという場所へ連れていってもらってください。彼女なら理解してくれます)
(誰かが囮になって、彼らの注意を引かなければなりません。私が最適でしょう)
(VIだけじゃない、あなたもです)
(……あの刺激性テストの時、あなたは私の代わりにVIを守ってくれた)
(あなたたちを救い出した時、どちらの個体もすでに崩壊寸前でした。恐らく、命懸けでVIを助けてくれたんでしょう?)
(信頼するにはそれで十分です。後のことは、また会えた時に話しましょう)
(……?)
(……すぐにあなたの出力装置をモニターに接続します)
お前たち、あのふたつのモデルを取ってこい
ユイを取り囲んでいた武装兵士たちがじりっと近付いた。だが、彼らがこちらへ手を伸ばすより先に、実験データをモニターに転送した――
青いデータスクリーンが、一瞬で血のような赤に染まる
なっ……何だこれは!?
これがホルストさんの仰る、いわゆる刺激性テストです
そんなバカな……モデルが「死」を経験するのは最終的なテストだけのはずです。我々はまだ1度も最終テストを実施していません……
まだ「死」のテスト段階に到達していないのに、モデルはすでにこれほど残酷な扱いを受けています
恐らく、何者かが執行官殿の関心を引くために、わざと学習率を引き上げ、極端なデータサンプルを導入したのでしょう
人々は一気にざわめきながら議論を始め、ホルストの顔は醜く歪んだ
こいつのデタラメを信じるな!早くカプセルを持ってこい!
ホルストさん!今の話は本当なんですか!?
こんなテスト環境では、モデルに取り返しのつかない損傷を与える恐れがあります。こんなものはテストとはいえません!
ということは、前回私が引き渡したモデルに起こった問題も……?私はてっきり……
……私たちが開発しているモデルも、いずれ主任に引き渡されるんですか?その後、モデルたちは一体どうなるんです!?
不安と動揺の声は次第に大きくなっていった
お前たち……何だ、その目は!?
会社の規定では、あなたのやったことは違反行為です!会社の財産を損なっている!
ホルストさん、これは……
人々はますます激高した。こんな状況では、警備課の兵士たちも激怒する研究員たちを押しのけてまで回収することは難しかった
……チッ
ドレイヴィ……数枚の合成写真くらいで皆を騙せると思うな!
真実か嘘かは、皆さんもご存知ですよ
いいか、今それを渡さなければ……執行官殿が再度いらっしゃった時、お前のモデルが展示されることはないぞ……
ユイは実験台に寄りかかり、冷然とホルストを見つめていた
……本社へ行けなければ、お前の全ての研究も水の泡だ
――どうせ、あのふたつのモデルも、テストに合格できない廃棄物にすぎん!
フン、VIと天に選ばれた人を廃棄物だと仰るなら……
そんな廃棄物を必死で奪おうとするホルストさんは、一体どういう存在なんですか?
……貴様!
しかし、しかし……あれはただのゴミクズだろうが!
<size=100>出ていって</size>
ゴロゴロ……
にゃ~ん……
……
ホルストが去ったあと、ユイは5匹の猫たちを抱き寄せ、不愉快そうな表情のまま、柔らかい毛並みをしきりになで続けていた
落ち着いてください。もう30分以上もその状態じゃないですか
別に怒っていません
まただ。彼女はまた、わかりやすい嘘をついた
あの子たちを守ることができたのに、どうして……
納得いかないだけです
データ分析も論証もなく、まともな論拠もないまま、完全に主観的な観点であの子たちを評価するなんて、不正確すぎる判断です
合理的かどうかは関係ありませんよ。単にあなたたちはゴミクズだと罵られた、それだけのことです
ええ、もちろん。さっきドレイヴィさんが、あなたの出力装置を端末に接続すると言ってたじゃないですか
彼女が怒っているのは、あなたとVIのことだから……心を込めて「育てた」子供同然ですもの。ホルストの言葉に筋が通っていようが、彼女は怒るに決まっています
ヘルタはそっとこちらを振り向き、自分とVIにひそひそと話した
ただ、あんな態度で主任に接すると、陰で妨害されるかもしれませんけどね……
そう呟くと、ヘルタは資料を抱えてラボを後にした
ユイ……ごめんね……
警備課に迷惑をかけたりしなきゃ、あの嫌なトンガリ鼻が来ることもなかったのに……ユイが怒ることもなかった……
VIが後悔しているのを感じて、ユイの苛立ちは一気に和らいだ
VIがイタズラをしなくても、彼は私のところへ来たわ。だから、あなたのせいじゃない
でも……でも……
ヘルタが言ってたもん。あのトンガリ鼻が今日の仕返しに、計算資源の供給を減らすかもって……
そうなったら……ユイが悲しむでしょ……
あなたたちが傍にいてくれる限り、いくらでも方法はあるわ
彼女はVIを抱き寄せ、トントンと叩きながら、優しく慰めた
むしろ、あなたたちを奪われずに済んだことが奇跡よ
彼女は側にいる天に選ばれた人に目を向けた。<M>彼</M><W>彼女</W>が見せたデータが、ピンチを打開する決定打となった
以前、ユイはVIにもテストの内容を訊ねたことがあった。しかしVIは幼すぎて、その時の記憶をまったく残していなかった
ふたつのカプセルを手元に残せただけでも、これ以上ない最良の結果だ。それ以上を望むのは贅沢すぎるというものだ
でも……成長したくないって言ってなかった?
……ちゃんと大きくなりたい
え?
だって、ユイは弱そうに見えるもん。ユイのこと、ちゃんと守れるようになりたい
幼いながらも毅然とした口調に、ユイは少し驚いて腕の中のカプセルを見つめた
ふふ、おバカさんね
…………な、何よ!フンだ!
そう親しげに言われたことが恥ずかしかったのか、VIは一目散に逃げていった
天に選ばれた人
VIが逃げていくと、暗い赤の瞳はまたこちらへと向けられた
「天に選ばれた人」の内部データをひと通り確認したわ
ストレージモジュールに残っていたのは、ほとんどが前回の刺激性テストの記憶だけだった。どうやら……あなたも何も覚えていないようね
ええ、手がかりになる情報源はなかったわ
確かなのは、あなたはここに所属する人ではないということよ。私たちは人間の意識をモデルにリンクさせる技術がない。つまり、あなたは外部から来た可能性が高いわ
外部からリンクしたと考えれば、記憶の遮断についても説明がつきそう
リンクの際の転送情報が多いほど、途中で遮断される可能性も高い。人間の記憶は少なくとも数十TBはある。マトリクスが転送し終わるのを、黙って待つはずがない
あなたは本来の記憶を持ってこれないし、ここでの記憶も持ち出せない、ということよ。あなたの行動は、人格の本能に基づいたものでしょうね
あなたの背後にある勢力を知りたいけど……記憶喪失はマトリクスによるものだから、私にはどうすることもできない。私は、マトリクスを直接管理する権限を持ってないから
リンクを接続した誰かさんが、あなたを回収するのを待つしかなさそうね
人の災難を面白がるように、彼女の瞳が少しイタズラっぽく輝いた
いえ、まさか
彼女はすっと真面目な顔付きに戻った
せっかく来たんだし、楽しんだら?私はあなたの訪問を拒んだりしないから
彼女は軽く首を傾げ、半分冗談めかした口調で言った
ええ、VIもきっと喜ぶわ
それはあなたの背後にいる人次第でしょうね。何度来ようが役立つ情報を何ひとつ持ち帰れないなら、すぐまた送り込まれるかもね
ともかく……今日はありがとう
温かい感触が意識の周りを包み込み、まるで柔らかく抱擁されたようだった
でも、あなたは私たちを助けてくれた。それが全てよ
前回、あなたはここで眠りについたあと、元の場所に戻っていったのね
お礼に子守唄でも歌いましょうか?もしかしたら……意識が深い眠りにつけば、あれこれ考えなくても自然と元の意識へ戻れるかもしれないわよ
天に選ばれた人のモデルは、私の意識サンプルから生成されたもの。あなたの意識がその中にいる限り、あなたはずっと私の子供よ
ユイはこちらの抗議には取り合わず、早くもカプセルを優しく叩きながら、子守唄を口ずさみ始めた
ええ。天に選ばれた人のモデルは私の意識サンプルから生成されたもの。あなたはそれと相性がいいみたいね
彼女は早くもカプセルを優しく叩きながら、子守唄を口ずさみ始めた
電子脳のインターフェースを通じて、温かな感触が伝わってくる。馴染み深く穏やかなリズムが、ゆっくりと意識を夢の世界へと誘っていった
さて……今回は向こうで何を見ましたか?
ええ~?
少女は信じられないというように目を瞠った。しばらくこちらの様子を真剣に観察したあと、呆れたようにため息をついた
私はラスティ……これでもう3度目の自己紹介なんですけど……