Story Reader / 叙事余録 / ER11 遂生再始 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER11-4 既視感のある悪夢

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瞬きした瞬間、ジェタヴィの姿は再び幽霊のように消え去った

白い髪の少女はこちらの存在に気付くと、早足でやってきた

せ、先生――No.17はどうなりましたか?

目の前で立ち止まった彼女は、一礼したあと、探るような口調で問いかけた

…………

シロの表情がサッと暗くなった

……すみません、本当は訊くつもりじゃなかったんです。でも……きっと、先生が彼女のためにできる最善のことだったんですよね……

No.17のネックリング……

少女のこわばった表情に、僅かに喜びの色が浮かんだ。彼女は誰も見ていないか周囲を確認すると、素早くそれを受け取り、胸元へ隠した

でも、先生はどうやって彼女を連れ帰ったんですか?

そうだったんですね……

シロと呼ばれる少女は、話を聞きながらノートを取り出し、素早く何かを書きこんでいた

シロ、それは私たちの礼儀規範に反するわ

もうひとりの無表情な少女が近付いてきた

ごめんなさい、先生。それにさっきのことも……私たちにとって、学院の鐘の音は絶対なんです。決められた時刻に、必ず講堂に到着しなければならないんです

あの……シロのことですが……

彼女は、地面にしゃがみ込んで夢中でペンを走らせるシロにチラリと視線を向け、話を続けた

この子は「面白いこと」に出会うと、日記モードに入ってしまうんです。こうなると、何をしようが動かないんです

はい!今日の日記のテーマは「おだんご大冒険」です!

まるで芸術作品を完成させたかのように、シロは得意げに日記帳を広げて見せた。しかし、そこに描かれていたのは大小さまざまの円だけだった

この灰色の円が先生で、白いのが私、青がアヴィグです。それから、皆の真ん中に挟まれてるのがNo.17です

No.17は昨日損失した。消した方がいいんじゃない?

うん、だから彼女の円は空っぽなの

シロはゆっくりと息を吐いた

No.17はひとりになるのを怖がってた……生まれた時から、私たちとはちょっと違ってて、すごく臆病な「兵器」だったよね

でも前回の「試験」で、No.17はたったひとりで第6戦区に派遣されて……

No.17の人格モジュールは、「恐怖」や「孤独」の信号を発しやすい傾向にあったわ。でも前任の先生は、彼女に小規模な戦区を単独防衛できる能力があると判断した

先生の話によれば、あの子は最後には損失したけれど、確かに第6戦区で長時間持ちこたえた。戦術的に見れば、この判断は正しかったのよ

そうじゃないのよ……アヴィグ……

シロはため息をついた

No.17が完全に停止する2時間前、第6戦区の会社の資産はほとんど破壊されていたんだよ。あの子がそこを守り続ける意味なんてなかった

でもあの子は「私たち」のためにそこに留まることを選んだの。第6戦区は後方に位置していたから、あの子がそこを放棄していたら、本隊は挟撃されていたかもしれない

そうして、あの子はひとりきりで死んでしまった……本当は、私たちの中で一番ひとりが嫌いで、「孤独」を感じやすい子だったのに

シロはそう言いながら、ノートに描かれた円同士の間隔を狭めるように、ぐるぐると輪郭をなぞった

そんなことしたって意味ないよ。あの子はもう損失してしまったんだもの

少なくとも……先生はNo.17のネックリングを持ち帰ってくれた

だからせめて……私の日記の中では、あの子をひとりぼっちにさせたくない……

……でも、シロの処理中枢には「日記モード」としか記録されていません。「日記モード」しか起動できないはずですが……

シロは小首をかしげ、不思議そうにこちらを見つめた

「物語」……!好きです、その言葉。「日記モード」を「物語モード」と呼んでもいいんでしょうか?

先生は、この「おだんご大冒険」の物語をどう思いますか?

うーん……確かに。「物語」だとすると、何か物足りない気がします……

決めました!先生、シロに教えてください!

そもそも先生は物事を教える先生なのよ。定義が重複するわ

戦術だけじゃなくて、「物語」の先生でもあるってこと。先生、この物語をもっとよくするために、何かアドバイスはありますか?

そうしたいのはやまやまなんですが……マルタ長官が、私たちの戦闘時以外の外出を禁止しちゃったんですよね……

シロの言葉の違和感に気付き、すかさず問いかけた

……第2回試験が終わったあとからです

あれ以来、長官は私たちに先生と呼ばせなくなり、都市居住区への立ち入りも禁止したんです……

多くの個体が戦いで損失し、長官は試験結果に不満を抱いてました

それ以降、マルタ長官の態度も変わったんです。まるで、それが私たちの責任だと言わんばかりに……

また「試験」だ

…………

…………

私たちには、その類いの記憶がないんです。それに……マルタ長官に、自分の過去を知ることを禁じられています

彼女たちは困惑した表情を浮かべた。兵器として扱われる以上、彼女たちが情報を知る必要性はなかったのだろう

ジェタヴィは私たちの中で最も戦闘能力が高く、最も価値のある個体です。先生たちが言うには、あの子はすでに「卒業」するはずでした

ほら、この黒い丸がジェタヴィです……私たちの円とは離れて独立してるでしょ?

シロは「おだんご大冒険」のページを指差した

ジェタヴィはいつも単独行動なんだけど……私たちと肩を並べて戦ってくれるし、命令を無視してでも守ってくれる、不思議な個体なんですよね……

シロにはわかるんです、あの子がすごく孤独な信号を発してるのが……

彼女は無数の輪廻の中で、唯一変わらない「定点」って感じでしょうか?戦いで仲間たちが次々に損失し、周りの円がどんどん入れ替わる。でもあの子だけは生き残り続ける

少し深刻な雰囲気になったのを察したのか、シロは秘密めかした口調で言った

じゃあ……「おだんご大冒険」がどんな結末を迎えるのか、楽しみにしていてくださいね!

フフン!先生が大絶賛するような物語を書いてみせますから!

ええ~!嘘でもすごく期待してるって言ってくださいよ。これからシロは先生にたくさん教わるんですから!

夕闇が濃くなっていく。 ふたりの生徒と別れたあと、学院の花壇の側を歩き続けた

彼女たちから、新たな情報を得ることができた

兵器である生徒たちは、自分たちがどのように造られたのかを知らない。第2回試験の失敗後、学院の運営方針は一変した

ジェタヴィは特別な個体だが、普段は他の生徒たちとの交流はないようだ。彼女は試験のためではなく、誰かを探すためにここに留まっている

調査が進むにつれ、謎がますます深まっていく……

カン――カン――カン――カン――カン

塔の鐘が鳴り響く。先ほど、会議への集合を知らせた鐘の音とは違い、今回は切迫したように短い間隔で鳴っている

各所にいた生徒たちは、足早に学院の中央へと集合していく

「教師」の自分は、その流れの中で「壁」のように立ち尽くしていた。彼女たちは無言で通りすぎていくが、誰ひとりこちらに目を留める者はいない

生徒たちの足並みはバラバラだったが、門の前で立ち止まった時には、自然と陣形が整っていた。ただの制服姿の生徒だというのに、またしても不気味なほどの統一感を感じさせた

緊急指令です。第7、13、14戦区が、侵蝕体による大規模な急襲を受けました

マルタは学院の門の前の階段の上に立っていた。彼女の声は大きくはなく、むしろ掠れてさえいた。だが自分のいる場所でも、彼女の言葉ははっきりと聞き取れた

番号を呼ばれた個体は、各自の担当戦区へ向かい、支援にあたりなさい

No.7から29、No.32から40……

死神が名簿を読み上げるように、その場は静まり返った

呼ばれた個体の中からも、No.17のように声も上げず戦場で「損失」していく者が出るだろう

幼い顔立ちの少女たちに銃を担がせ、死と隣り合わせの戦場へ向かわせるとは……

出撃

制服を着た「兵器」たちは、統率された動きで一斉に戦場へ駆け出していった

…………

いつの間に現れたのか、少女の影が視界を横切り、すぐ側で足を止めた

センセと一緒に戦うの、なんだか妙にスカッとするのよね。もしかして奇跡だって起こせちゃうかもね

センセ、どうする?今回は一緒に行く?

彼女はまたあの試すような笑顔を浮かべながら、人間を誘った

今回の戦闘において、各人型戦力ユニットは自主的に戦況を判断しています。戦術教官の指揮は不要です

こちらの考えを見透かすように、マルタの視線が遠くから鋭く突き刺さる

「戦術教官は実戦での指揮には参与しない」――これは会議でも特に念を押された「会社命令」だ

もし公然と命令に違反すれば、トラブルを招く可能性が高い……

141号都市に潜入した空中庭園のスパイとして、まだ調べなければならないことが山ほどある

だが、戦闘に参加すれば現場の情報を得ることができ、「兵器」である少女たちの戦闘スタイルもわかる

どうするべきだろうか?

僅かに一歩前へ踏み出しただけで、全身武装の兵士たちに一斉に包囲された。側にいたジェタヴィも、幾重もの包囲の壁の向こうへ追いやられた

私の話がまだおわかりになりませんか?先生

冷ややかな声とともに、兵士たちの銃口が一斉にこちらに向いた。 いくつものレーザーサイトがこちらの頭部を捉え、生命の警報が瞬時に鳴り響いた

任務の目的は、可能な限り相手の情報を調査すること。ですが、あなたの身の安全を最優先とします

僕たちとの連絡を維持し、突発的な事態に備えて、最低1時間の余裕を確保してください……

グストリゴに派遣される教師ともなれば、さすがにそこまで愚かではないと思いますが?

会社が派遣する後任教師の審査期間中でなければ、ここであなたと無駄話などしていないのですが

それでもまだ命令に背くというのなら、今ここで銃殺処理にしましょうか?

……これはトラブルを招くどころの話ではない

ただちに下がりなさい。休憩室に戻り、次の指示まで待機してください

兵士たちはゆっくりと包囲を解いたが、銃のレーザーサイトはまだこちらを狙っている

利害を慎重に天秤にかけた結果、命令に従うことにした

まだ明らかにすべきことがたくさんある。調査任務は長期戦だ、今は焦るべきではない

マルタに目で合図すると、向けられていた銃口が徐々に下ろされた。ジェタヴィの姿はすでにない。彼女もまた、戦場へ向かったのだろう

ひとつ忠告しておきます。彼女たちに感情移入してはいけません。あなたにとっても、彼女たちにとってもそれが最善なのです

淡々と言い残し、マルタは冷たく背を向けて去っていった

……?

空中庭園は深夜2時だぞ。こんな時間に連絡してきたということは、それなりの用件があるんだな?

機械体……?確か、お前は潜入任務中じゃなかったか?

黄金時代の大型バイオニック製造会社だ。カッパーフィールドとも技術交流があった……

それはつまり……リーボヴィッツ社の機械体に遭遇したということか?

……リーボヴィッツ社は長らく消息を絶っていたはずだが

もしそこがリーボヴィッツ社の管轄で間違いないのなら、気をつけろ。恐らくゲシュタルトのようなスーパーコンピューティング施設がある

ゲシュタルト物理基準創設者――ウィリアム·リーボヴィッツが所属していた会社だぞ

ゲシュタルトの研究開発計画は、当時ほぼ完全に機密扱いだったが、情報が流出した可能性は否定できない。華胥がその典型例だ

リーボヴィッツ社もゲシュタルトに関する技術を手に入れているかもしれない。ならばゲシュタルト並みのスーパーコンピューティング施設を備えるのも時間の問題だろう

それで、その機械体のどこが奇妙なんだ?

彼女たちが「試験」と称して侵蝕体と戦わせられていること、そして、ジェタヴィという名の少女のこと……

ここで起きていることを伝えると、アシモフは少し考え込んだあと、簡潔に答えた

その機械体たちは、リーボヴィッツ社製とみて間違いないだろう。彼らのバイオニック技術は、黄金時代の時点ですでに驚異的なレベルに達していたからな

考えられる可能性はふたつある。リーボヴィッツ社も構造体研究を行っているか、あるいはバイオニックに人間の「意識」の代替として、何らかのAIを組み込んでいるかだ

彼女たちは「学院」で「教育」を受ける必要がある……お前の話を聞く限り、どうも後者の可能性が高いように思える

わかりやすくいえば、黄金時代に行われていた、データセットを用いたAIモデルの訓練のようなものだ

彼女たちの詳細なデータがないからな。伝えられる情報はこんなところだ

ついでに、もし類似のスーパーコンピューティング施設を見つけたら、可能な限り資料を持ち出してくれ

再び簡単に情報を再確認し、アシモフは通信を切った

マルタは無人の講堂の中央に立ち、上層部からの通信接続を待っていた

第5回試験の成績は惨憺たる結果だったな、マルタ

グストリゴに派遣された戦術教官は、いずれも精鋭だ。戦場での判断において卓越した能力を持っている

これほど酷いありさまなのに、緊急任務の際の戦術教官の現場指揮権を剥奪したのはなぜだ?

前任の戦術教官たちが指揮した作戦は、ほぼ全て失敗に終わりました。試験の結果も、決して理想的とはいえません

……それが君の真意だとは思えないのだが?

確かに、過去の試験結果は芳しくなかったが、歴代の教官たちの存在は、間違いなく戦局に好影響を与えていた――もちろん、それ相応の代償を支払ってはいたがな

多くの戦術教官は戦功を挙げるために、会社にとって価値の高い財産の保護を優先する……

その結果、人型兵器の異常な損失を引き起こした――それこそが、君が戦術教官の指揮権を剥奪した本当の理由じゃないのか?

…………

しかし、兵器自身に戦場での判断を委ねたところで、本当に戦局を立て直せるとは限らない

中心区域さえ守り抜けば、最終試験を突破できます。そのためにも、最終試験までは戦力の温存が重要です

…………

だが、兵器の保護を重視しすぎれば、外部戦区の陥落を招き、都市部が脅かされることになる

無闇に犠牲を出してまで、普段ほとんど使われないインフラ施設を守るより、戦力を温存する方がずっと合理的です

まるで「生徒」の命を気にかけているようだが……まさか今も、彼女たちに人間らしい教育をしているわけではないだろうな?

第2回試験の最中、大量の離反兵器が第9法令によって処分されたことを忘れたのか?

自我を芽生えさせれば、いずれまた同じ結末を迎える。あんな事態が再び起こることを、我々は望んでいない

第2回試験以降、学院は長らく軍事管理を徹底してきました

君は、彼女たちの立場をよく理解しておくべきだ。制服を着ているからといって、人間と同じだと勘違いするな。 あれらは戦争兵器にすぎない

しかし、彼女たちは会社の財産でもあります。生き残れば、貴重な戦力となります

……君もわかっているはずだ。今の会社内では、依然として反対派が優勢だ

大半の上層部は、「彼女たちに戦闘任務は果たせない」あるいは、「社会的道徳常識を持ち合わせた状況下での戦闘など不可能」と考えている

反対派は機会を狙っているんだ。もし141号都市の中心部が陥落すれば、彼女たちの管理権は別派閥に移るだろう

グストリゴの管理権は君にあるが、私も忠告せざるを得ない――最終試験を通過するためには、大きな犠牲を払うことを受け入れろ

でなければ、あの兵器の管理権は全て他人の手に渡ることになる

……………………

話は以上、後は君次第だ

相手は通信を切った

冷たい月明かりが差し込んでいる。マルタはその影の中で立ちつくしていた

意識は光なき深淵へ沈んでいく

…………これは悪夢なのか?

視界の全てが狂暴な赤に吞み込まれ、絶望の淵へと落ちていく

■■■は突然後ろに倒れ、その小さな体を自分の胸元に寄せてきた。 いつの間にか彼女の真っ白な顔に赤いヒビが走って、破片のようにバラバラになっていた

■■■私ももうすぐね、世界の終わりと一緒に泡となって消えていくの

儚くてキレイな旅だったけど、私たちは確かに同じ時を過ごした

今度こそ私たちはきっと、もっと早く走って、この手を遠くまで伸ばせるはず

次の■■■に会えたら、そんなに優しく接しない方がいいわよ

■■■は握っていた自分の手を離して、ゆっくりと胸に当てた。 無数の赤い光がリボンのように、彼女の胸元のひび割れから流れ出した

獰猛なる世界を包み込むかのように、■■■が両手を広げると、その体は軽やかに空中へと浮かび上がった

■■■

■■■、今度こそ……

■■■

今度こそ、もっと早く走らないと!

■■■の小さな手を繋ぐと、彼女は幸せそうに微笑んできた。 世界を席巻する暴風が、中心にいる者たちに徐々に押し寄せた――だがその者たちは何も言わずに、ただ終焉の景色を静かに眺めている

■■■

さよなら、世界

さよなら、■■■

だったらいっそ、私に「生」を与えるこの奇跡は捨てる。この世界を、「死」に追いやる力に変えてやるわ

別世界の■■■、ここよりもっといい場所で……

また会いましょう

美しく強い光が闇の世界全体を切り裂いた。夜の闇を払う灯台のように、曙の空を切り裂く夜明けのように

■■■.Beta

受け取るがいいわ、■■■

聞いていてね、■■■。これが最後の音――

彼女は死んだ。自分の目の前で。幾度となく見守り、幾度となく失ってきた

魂の奥底で何かが引き裂かれたように、強烈な痛みが脳を襲った

誰だ……一体誰なんだ……

…………

さよなら……■■■

少女の面影が不意に目の前に浮かんだ。 彼女は愛惜と悲哀を抱えながら、優しくこちらを見つめていた

両手が彼女に触れた瞬間、その姿は泡のように儚く砕け、消え去っていく……

■■■……

少女の返事は、触れた途端に弾けて消える泡のように、夢の境界の向こうへ遠ざかっていく……

……彼女はそのまま静かに消えていった

激しい足掻きの中で意識が急速に浮上していく

悪夢を見ていたらしい。息を荒げ、何度も大きく喘いだ

ゴーン――ゴーン――ゴーン――ゴーン――塔の鐘が鳴っている

戦闘が終わり、生徒たちが戻ってきた