リーボヴィッツは一体何を企んでいるのだろう……?
カードを裏返すと、また別の文字が現われた――「グストリゴ学院」
リーボヴィッツの管理下にあり、このカードの持ち主が本来赴任するはずだった場所だ
学院……?空中庭園のデータベース中のリーボヴィッツに関連するデータに、この学院の名前は存在しない
つまり、この「学院」はリーボヴィッツ社の隠蔽後に設立された可能性がある……
同じ服装をした少女の一群が、侵蝕体と戦っていたんです……
もし自分が赴任する場所が学院なら、その部隊が統一された服を着ていた理由も説明がつく――恐らく彼女たちは学院の「生徒」なのだ
侵蝕体と戦えるということは……その「生徒」たちは構造体だろう。だが……
なぜ構造体に制服を着せている?それに「生徒」なのに、なぜ彼女たちは戦場へ送り出されているのだろう?
車体の揺れが思考を現実へと引き戻した
輸送車は今、広大な荒野を疾走していた
待ってください――隊長、誰か倒れているようです
ぐずぐずしている時間はないんだ。ここいらは侵蝕体だらけだ、人が死んでいたっておかしくない
彼らの視線を追った先にあったのは、瓦礫の山だった。だが目を凝らすと、廃墟の中で火花が飛び散っているのが見える
少女――それがまだ「少女」と呼べるのなら、彼女は他の鉄骨や瓦礫と同じように、まったく生気のない姿で横たわっていた
体の一部が欠損し、機械四肢の断面が剥き出しになっている。ショートし、火花を散らす配線――それだけが、他の死骸と彼女を区別させていた
……死体なら、救助ではなく「回収」と呼ぶべきですね
先頭の兵士は反論せず、代わりに説得するように言葉を返した
まったく、専任者殿は無理難題を押しつけるのがお上手だ
嫌味と皮肉をたっぷり込めた言葉だったが、即座にこちらの主張を突っぱねる雰囲気でもない
通るついでに見るとするか
そう言った瞬間、運転していた傭兵が突然急ハンドルを切り、車体が大きく横滑りした
敵襲!!
何事だ!?
何者かがこちらへ発砲しています!
方向転換だ!一旦撤退!
ダダダダダッ――!
迫りくる銃声が耳元で鳴り響いた
フン……
輸送車は銃弾の雨をなんとか回避しようと、右に左にと激しく揺れながら蛇行していた
まさかこんな状況で、まだお人好しぶるつもりですか!?
……クソッ、さっきの廃墟に向かえ!
古ぼけた低い建物でも、弾避けくらいにはなる。あそこに突っ込めば、一時的にでも身を隠せる……
輸送車は激しく揺れながら、廃棄された町に向かって走り出した
ダダダダダダダダダダッ――!
だが奇妙なことに、銃声はやむどころかますます激しさを増していく
ええ~?なんで進んじゃうわけ?中は危ないのに……
クソッ!どうしてこっちに向かうんだ!銃撃が激しくなってるじゃないか!
彼は運転手の隊員に向かって、怒鳴りながら悪態をついた
急げ!クソッタレ!こんなところで死んでたまるか!
隊長!しっかり掴まってください!
銃声はまだ鳴り響いている。だが、不思議なことに輸送車の急所を狙うような弾はほとんどない――
輸送車を攻撃するためではなく、「無暗に近付くな」という警告として撃っているらしい
周囲で砂塵が舞い上がり始めた
輸送車が廃棄された町へ進入するにつれ、視界は黄色い砂嵐に覆われていった
そして、輸送車が砂塵の中へ消えていくと、鳴りやむことのなかった銃声が次第に静まり始めた
ふ、振り切ったか?
周囲は不気味な静寂に包まれた
ギィ!!!
黄砂に覆われた廃墟の中から、突如現れた侵蝕体が車のフロントガラスに激突した。その途端、土煙の中に無数の深紅の瞳が光り始める
なんてこった……侵蝕体の巣に突っ込んじまった!?
1体、2体、3体……砂煙の中から、群れを成した侵蝕体が輸送車めがけて襲いかかってきた――
武器を持て!戦闘準備ッ!
侵蝕体が次々と輸送車に群がり、車はほとんど動けなくなった――
クソッ……一旦、車を放棄する!
ガアッッ!
彼が車から降りかけた瞬間、大型の侵蝕体が飛びかかった
グウッ――
侵蝕体はバランスを崩し、糸の切れた凧のように地面に転がり落ちた
ほう――さすがは専任者殿、見事な腕前ですね!
何かおかしい
先ほどの弾は確かに命中した
たとえ空中庭園で改造強化された銃であっても、あれほど巨大な侵蝕体をたった1発で倒せるのは違和感がある
ガアアッッ!
侵蝕体が叫びながら再び襲いかかってきた
グウッ――
侵蝕体は突進してくる途中で被弾し、慣性に従って吹き飛ばされた
どういうことだろう?確かに自分は1発しか撃たなかった。だが、砂塵の中で銃声が2度響いたのだ
まったく、とんだお出迎えね
砂塵が立ち込める視界の中に、黒衣の少女のシルエットが見え隠れしている
私?侵蝕体で~す……キミを食べに来たんだ。撃ってみたら?
突然押し寄せた侵蝕体の群れの中で、彼女の存在はあまりにも不自然だ。そう直感し、本能的に銃口を持ち上げた
ふぅん?
風砂の中で少女の笑い声が響いた
しかし瞬きした次の瞬間、その黒い影は幽霊のように消え去った
風砂が次第に晴れ、また侵蝕体の群れが四方から押し寄せてくる
やはり2発の銃声が響き、銃口を向けた侵蝕体は銃声とともに地面に倒れ込んだ
ふと、ある面白い推測が頭に浮かんだ
思った通りだ――自分の弾は当たっていないのに、侵蝕体は銃声とともに倒れた
誰かが陰でこちらを援護している。だが……一体誰が?
遠くに見える輸送車は、警告の銃撃を無視し、侵蝕体で溢れる廃棄された町へと突っ込んでいった
もう……あっちには侵蝕体がたくさんいるのに、忠告をムシって……何かあっても知らないからね
少女はつまらなそうに欠伸をすると、持っていた黒い銃を背後の尻尾に預けた
彼女は高い木造の屋根の上に腰かけ、悠長にぶらぶらと両足を揺らしていた
なぜあの輸送車は、銃声の警告を受けても執拗に前進を続けるのだろう。彼女にはどうしても理解できなかった
視線は更に遠くへと向けられた。仲間の残骸があの廃墟の中に沈んでいることを、彼女は知っている
打ち捨てられた、あの遺体を回収すること――それが、彼女がここへ来た最大の目的だ
立ち上がって仲間のところへ向かおうとした瞬間、彼女の足が止まった
なぜか輸送車は、真っ直ぐに仲間のいる廃墟へと向かっていく
嘘でしょ……
これは偶然だろうか……?
ハァ……やれやれ
仕方なく尾に巻きつけていた銃を手に取り、侵蝕体に狙いを定め、再び射撃しようと構えた
えっ?
同調した
自分の信号が、まるで別の誰かと同調したような奇妙な感覚があった
相手は……弾を装填し、体を傾けて銃を構え素早く狙いを定めると、引き金を引く――相手の一連の動作が、彼女にははっきりと感じ取れた
誰が?どこに?視覚モジュールは絶え間なく動き回り、その存在を探し続けた――
――見つけた
外骨格の戦闘服をまとった姿は、空を覆う砂塵の下で、やや追い詰められているように見えた
ほんと……とんだお出迎えだわ
彼女は思わず興味を抱いた
装填、照準、発砲――彼女にとってそれらの動作はスローモーションのように完全に分解できた
彼女もその動作をなぞるように、ゆっくりと銃口を持ち上げた
bang!