Story Reader / 叙事余録 / ER09 昏曙の学影 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER09-2 真夏に堕ちる

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スカラベ小隊の輸送機は空中庭園を離れ、自動運転モードに入った

ヴァレリアは操縦席から立ち上がり、ゆっくりと機体後部へと向かった

任務内容を簡単にブリーフィングするわ

赤潮がある人工島に集まっている。その島で、ふたつの小隊が行方不明になった

敵は異合生物だけではないかもしれないし、失踪した小隊の可能性もある

地上任務に、赤潮ですか……こんな任務は、まともな執行小隊に任せればいいのに……例えばグレイレイヴンとか

グレイレイヴンは全員ルシアの機体交換の支援中よ。それに……

この任務がスカラベに任された理由は、任務地点に詳しいメンバーがいるからに他ならない

ヴァレリアはほとんど質問をしないタイプだ。言い換えれば、自分の意図を可能な限り端的に言葉の中に詰め込む

そして今、彼女が言わんとしていることは……

八咫は自分に視線が向けられているのを感じた

アジサイ人工島ね、私はここの高校に通ってた

地元だし道案内ならできる。まあ、道が残ってればの話だけど

……

パニシング爆発後、人工島は放棄された。私は数少ない生存者のひとり……

……詳細は司令から送られた資料の方でヨロシク

自分の感情に気付いたように八咫はふたこと、みこと付け加えると、疲れた様子で目を閉じた

……そうね

じゃあ、話を続ける

気象衛星が、夜間に連続的な移動の痕跡を捕捉し……

話を少し中断したあと、ヴァレリアは任務詳細の説明を再開した

シュエットは説明を聞きながら端末で指示を確認し、シヴァは目を閉じて座席に背を預けている

八咫は頬杖をつき、右手の人差し指でクルクルと髪をいじりながら、視線を窓の外に向けていた

いつの間にか、地球の輪郭が視界いっぱいに広がり始め、雲の層が近付いた……

近付いてくる青い惑星が、八咫の心に言葉にできないさざ波を立てる

わざと封じ込めていた記憶が、彼女の頭の中に蘇ろうとしている……

終わることのない盛夏。蜘蛛の巣のように天を覆う青い空

誰もそこから逃れることはできない

すごい青さだな、雲ひとつない

入学式の日にこれほど晴天に恵まれるなんてな。この機会に、お前もしっかり目に焼きつけておけよ

こんな古臭い校舎、見たことないよ。マジでサイアク

ハハハ、声が大きいぞ、八咫

新入生の手引きには、デカデカとこう書いてあるぞ……

御園学院高等学校は、厳格な校風で知られる私立高校であり――

知識と高潔な人格を備えたエリートの育成を目指している

校訓は「広大な天地を探求し、完璧な人となろう」だとさ

こりゃまた……

時代遅れの美意識というか、格式が高いんだって姿勢を外部に誇示したいんだな

格式が高い?

そりゃあ……エリート階級の傲慢さってやつだ

まあ何にせよ、ここは島で一番いい高校なんだ

俺が何人もの旧友たちに頼んで推薦状を書いてもらって、ようやくお前を入学させたんだからな

……そんなの関係ない。島に来る前に私の意見なんて訊かなかったくせに

すまん、すまん、俺が悪かった。ハハハ

あの時、あの晴れやかな日に、私は親父に連れられてこの学校へやってきた

自分の人生に何のきっかけも見出せず、流されるままに青春を過ごしていた

高価な石材造りの低い校門や、金箔が押された校章を眺めても……

親父が言った「エリート階級の傲慢さ」は感じられなかった

むしろ、ある種の慎重な恐れを感じていた

地面には腐った花びらが散らばり、焼けつくような日差しが真っ直ぐ降り注いでいた

そうする内に制服の内側が汗で湿り、私はボタンをひとつ外した。それでもまだ暑い

新入生と親たちを掻き分け、日差しを避けられる場所を探していると――

校門の側の木陰に、透き通るように白い肌の少女が立っているのが目に入った

ふと目が合うと少女は眉をひそめた。それ以外は人形のように微動だにしなかった

何か困っているように見えて、私は彼女の方へ向かっていった

初めまして。ここで誰か待ってんの?

初めまして……うん、そうなの。えっと……あなたは?

あ、私は八咫。1年の新入生だよ

八咫さん……

名前、何ての?

私は……

輸送機の轟音が、八咫の意識を窮屈な空間へと引き戻した

う……

どうしたの?

何でもない……ちゃんと聞いてるよ

赤潮の動向の調査と失踪した小隊の捜索以外にもうひとつ、目標を生け捕りにするという任務がある

目標というのは何です?

黄金時代の科学者よ。資料は各自の端末に送ってある

もうすぐ輸送機が規定高度まで降下するわ、皆準備して

何か嫌な予感がする……

ずっと後になっても、八咫はあの時の自分を悔やんでいた

回想にふけり、シヴァの口をすぐにふさがなかった自分を

ビーッビーッ――

突然、機内のあちこちで赤い光が眩しく点灯し始めた

続いて、警報音と人工音声が響き渡る

【警告!高速の熱源反応あり!】

RWRが何か検知した?

シヴァはすぐさま操縦席に駆け寄った

何よ、故障でもしたの?

レーダー警報よ

3時方向に高速対空ミサイルを確認

シヴァは素早く操作パネルを叩き、シュエットもすぐに操縦席へ駆け寄った

間に合いますか?電磁妨害を展開しますか?

ECM展開、回避ルートを演算中……

待って、攻撃元にIFFシステムのロックマークが……

……味方の識別信号ね

向かってくるミサイルは……空中庭園の地対空システムからです

IFFシステムのプロトコルを確認して

あちらが一方的に識別システムを無効化してる!

あと2秒!

フレアと電磁誘導!

間に合わない!全員、近くのフックにしっかり掴まって!

機体左翼に眩しい白い光が走ると同時に、八咫はシュエットの頭を押さえつけて伏せさせた

さほど大きくない機内に、強烈な振動とともに巨大な衝撃音が横から伝わった

爆発後、黒煙と焦げた臭いが機内に広がる

機内の反対側へ吹き飛ばされたヴァレリアを、八咫の機械アームが掴んだ

耳をつんざく警報音が鳴り響く。危難はまだ去っていない……

【エンジンの推力が低下】

【燃料タンクに漏出あり】

【機体炎上中】

【レーダー故障】

シヴァ、状況を報告して

片方のエンジンが停止、もう片方も影響を受けています

それに左翼はもう駄目です。自動運転も使い物になりません

一番致命的なのは燃料漏れです。すでにセーフティラインを下回ってる……

シヴァ、私の権限でIFFプロトコルをオフにして、攻撃元に空対地ミサイルを数発撃ちこんで

IFFプロトコル解除、対レーダーミサイルで攻撃元をロックオン

駄目です、武器ハッチが開かない

八咫、緊急モジュールを起動して。装備を空中投棄して軽量化の準備

わかった。位置信号はもう端末に接続してある

ビーッビーッ――

【警告!高速の熱源反応あり!】

冗談キツいよ、また?

3時下方向より、高速対空ミサイル!

AIモジュールが故障、回避ルート探知不能!

シヴァ、操縦して

ハイリスク回避も許可する

【自動運転解除】

急降下します、皆掴まって!

シヴァは操縦桿を限界まで押し込み、機首を下へ向けた

その瞬間、八咫の目に遠くの雲間に光る何かが映った

くっ、シヴァ、もっと左っ!

シヴァは力いっぱい輸送機を左へ傾けた

機体の性能を上回る回避動作をしたため、翼の何かの部品が外れて飛んでいった

フレアが残した炎とともに、すぐ近くで再び大きな爆発音が響く

機内は僅かに揺れたが、今回は誰も席から飛び出さなかった

避けた?

完全には避けられませんでした

胴体下部のどこかに当たったようです

武器庫じゃなかったのは不幸中の幸いですが

燃料はあとどのくらい?

計器が駄目になったのでわからないんです

帰還計画を抹消、アジサイ島に緊急着陸する

【速度超過】

地図検索機能はまだ使える?

今なら最適高度だわ、急いで

アジサイ島の輪郭を視認、ですがデータベース欠損で地形を捕捉できません

目視誘導での着陸に変更。現段階の判断では、着陸可能なのは3カ所です

成功率を考えると、中部の中央がまだ着陸しやすいですね

湾岸エリアは赤潮に浸かっているかもしれない、中部への着地を

衝撃に備えて

了解です

植物だらけ……建築群の間から大きな木が生えてる

参ったな、これじゃ地面がどこかまったく見えない

【警告!地表が異常接近】

輸送機に残ったエンジンは地表を掠めながら斜め前方へジェットを噴射し、減速した

大量の木をなぎ倒しながら、輸送機の後部が地面に接触する

鈍い轟音とともに、森の近くの開けた場所で火の手が上がった

大量の煙がもうもうと立ち上り、アジサイ島に再び静寂が戻った

その頃、全壊した輸送機の中では……

シヴァはドローンを飛ばして。八咫は積んでる武器がまだ使えるかどうか確認を

まだ使えるドローンが2機あります。すぐに起動します

ほら、アンタのパルスライフル

ヴァレリアは八咫から武器を受け取り、エネルギーパーツをチェックした

どちらのドローンも信号が消えました

気をつけて、近くに敵がいる

八咫が、着陸の衝撃で酷く変形したハッチを開けようとした瞬間……

どこからか強烈な電磁パルスが発生し、八咫は防ぎようもなく膝から崩れ落ちた

くっ!

クソッ、ふざけやがって……

ヴァレリアはすぐに意識リンクをして、八咫とシュエットの意識海を安定させた

意識海に対する悪質な干渉……?おかしい

島に他に指揮官がいるのか、それとも……

レーダーに侵蝕機械体の反応あり。9時の方向です

1体だけ?もっといる?

1体のはず……いえ、待ってください

3時、6時、8時の方向に正体不明の信号が出現

ぐずぐず輸送機の中にい続けるのはマズいわ、突破しなきゃ

シヴァ、ドローンが送ってきた地図情報を端末に同期して

輸送機を中心とした環境情報の収集率は、たった12%です

シヴァ

ただ……左翼付近の木の後ろ、敵の影が見えています

それで十分よ

八咫、ハッチを破壊

おっけ!