Story Reader / 叙事余録 / ER08 追憶のピリオド / Story

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ER08-26 EX-此行

シュトロールは、自分の運がこれほど悪いとは思っておらず、シヴァの縁起でもない予言が当たるとは思いもしなかった

任務の目標地点で運悪く、離反者と昇格者に遭遇してしまった。次に目を覚ました時にはまったく見知らぬ場所にいて、四肢は取り外され、意識海に微かな痛みを感じていた

チッ、これは監禁されたってことか?

周囲や部屋、外にある物を仔細に観察し、結論を出した――恐らくここは廃棄された研究所だ

(昇格者が廃棄された研究所で一体何を……)

やはりここでしたか

ひとりの男性構造体が入り口に現れ、四肢をもがれたシュトロールを見て、手に持っていたものを床に置いた

……

ここに現れる構造体は全て離反者であると知っていたため、シュトロールは無駄な会話をする気になれなかった

しかし、相手は彼を知っているようだ

あなたがスカラベ小隊の隊長ですね?

シュトロールが黙ったままなのを見て、彼は名を名乗った

私はサワダ。ずっと昔、あなたと私たちの隊で任務を行ったことがあります

サワダは、ある小隊の名前を口にした。その名前をシュトロールは犠牲者リストで見たことがあった

……お前たちの小隊は全員「犠牲」になったはず

私だけが生き残りました……まあ、いずれにせよ私は「離反」した身です。もう空中庭園に戻ることはありません

ですが、昔話をしに来たんじゃないんです

サワダは周囲を見回し、箱の中から数本の「四肢」を引っ張り出した

……?

使えるものがあるか見てください

シュトロールはサワダの行動を怪訝に思いつつ、迷わず使える部品を伝えた

しばらくして、再び完全な姿となったシュトロールは扉を開けた

以前、私たちの小隊を助けてくれてありがとうございました。ですが、私ができるのはここまでです

外に出られないのか?「厳重警備」なのか?

いえ、脱出できた者もいるとは聞きましたが、出る前に強制的に休眠状態にされます。ここがバレれば我々も拠点を移動することになる。後はご自分で頼みます

お前も脱出しようとは思わないのか

正直ここにはうんざりだ。しかし他に行ける場所もないんです。空中庭園に見つかれば、必ず粛清部隊に処刑されるでしょうし

……

ここは一体何なんだ?

旧研究所です。この建物には何層もの階層があり、昇格者がいるのは最下層です。最近はずっと構造体の意識海の安定度をテストしていて、基準を満たすと連れていかれます

連れていかれた者は誰も戻ってきません。彼らが何をしているのか私にもわからない

話していると、サワダの体にある装置が光り始めた

人が来る、早く逃げてください。私が足止めします

来たのは若い女性の構造体だった。シュトロールは素早く影に隠れ、サワダと彼女の会話を聞いていた

やっぱりここだったのね、さっきはいなかったけど

今来たところだ、シュトロールの様子を見に来た

何を見るっていうの?前の場所で大騒ぎしたせいで、皆の存在がバレるところだったのよ。結局、手足を外してようやくおとなしくなったんだから

あいつら、一体どうしちゃったの?あのシュトロールを巻き込むなんて……逆にやられそうじゃない?

シュトロールの意識海の安定性テストがうまくいったらしい。あの昇格者に狙われたら、いくらシュトロールといえども逃げられないさ

えっ?もうあいつの意識海をテストしたの?

……

シュトロールはサワダの言葉に含まれた警告を理解し、自分の装備を確認してすぐに立ち去ろうとした

事態はどうやらシュトロールの想像を遥かに超えているようだ

彼は広大な建物内をぐるぐると歩き回り、巡回している離反者の構造体に何度か遭遇して、かろうじて隠れたり直接片付けたりして進んだ

倒した敵の数があまりに多すぎる。この離反者たちの命を誰も気にしていないかと疑問に思うほどだ――これだけ長く行動しているのに、自分の脱出や襲撃が気付かれない

どれほどこのフロアを回り続けたのかわからない。見えるのはどれも似たようなパイプや廊下だけで、他に抜け道はまったく見つからなかった

ついにシュトロールはここが異様な場所であることを認め、脱出とは逆の方向に進んでみることにした

彼は地下1階へ向かった

……何だよ、これ

地下1階に足を踏み入れた瞬間、シュトロールは思わず声を出してしまった

地下1階は上の階よりも更に異様で、研究所というより孤児院のような雰囲気だった

彼は廊下の両側に並ぶドアを全て開けていった。疑念はますます強まった。なぜなら、扉の向こうにあるのは空っぽの部屋と数本のクレヨン、数体の人形だけだったからだ

廊下に貼られた「記録表」は更に異様だった。時の経過で紙は黄ばんで脆くなっていたが、書かれた文字はまだはっきりと読めた。そこにはたくさんの名前が書かれている

名前の後ろには「○」や「×」が続いており、消された名前の後には、必ず「×××」と3つのバツ印が付いていることにシュトロールは気付いた

このマルとかバツの記号は何なんだ?3回間違えたら後はないのか?

……S0143、S0145……?

彼は眉をひそめ、いくつかの消された番号を読み上げたが、この表が何を意味しているのか理解できなかった

彼が疑問を感じつつも「記録表」から目を離したその時、背後から小さく「シーッ」という声が聞こえてきた

シーッ……あの人、すごく変だよ。早く行こう

……子供?

廊下の突き当たりの扉の前に大勢の子供たちがいた。いつからそこにいたのかはわからない。見たところ、皆10歳にも満たないように見えるが、その目は警戒心に満ちていた

どうしてこんなところにいるんだ?誰がお前らをここに連れてきた?

シュトロールはここが研究所であることを知っていたため、驚きと怒りを覚えながら子供たちに問いかけた

子供たちは皆、扉の方へと後ずさった。一番前に立っていた少女は彼を非常に恐れているようだ

ごめんなさい……まだ就寝時間じゃないから、外で遊べると思って……わ、私たち今すぐ戻るから!言うことを聞くから!

怖がらなくていい、お前たちを傷付けたりしない。こっちに来い

ごめんなさい、ごめんなさい……

こんなところにいちゃ駄目なんだよ!

シュトロールは子供たちの恐怖の表情を見て、何かが起こったのだと悟った。だからこそ、彼らはこんなに怯えているのだ

深く考える暇もなく、彼は先頭に立っていた少女の手を引き、彼らを連れて出ようとした

しかしその細い手首を握った瞬間、シュトロールはこの場所で何が起きていたのかを全て理解した――

少女のバイオニックスキンの下には、彼と同じ硬い金属が隠されており、ゆったりとした白い服の下に覆われているのは、構造体特有の関節構造だった

……

こんな小さな子供にまで!?

シュトロールは思わず子供たちの前で怒鳴りそうになったが、深く息を吸い、怒りの爆発をなんとか抑えた

ふぅ……よく聞くんだ、全員俺についてこい

おじさん、おじさん!私たち、おじさんの言うことを聞けないの……研究員のおじさんやおばさんたちが、知らない人の言うことを聞いちゃいけないって……

研究員……ここには本当に頭のイカれた研究員がいるらしい、ハハ……

よく見ろ、俺のことは信じていい。俺はお前たちと同じだ、わかるな?

シュトロールはわざと腕を上げ、まだ装着したばかりで適合していない体の構造を子供たちに見せた

おじさんも……授業を受けるの?

……

シュトロールはようやく、あの「記録表」が何を意味していたのかを理解した

彼は二の句が継げなかった。意識海の中に残ったのはひとつの目的だけ――この無垢な「実験体」たちを連れてここを脱出する

しかしすぐに廊下に警報が鳴り響き、前方からバタバタと足音が聞こえてきた

急げ!さっきあいつが前方にいるのを探知した!何があってもあいつと遭遇するんじゃないぞ!

あの「怪物」に殺されるくらいなら、空中庭園に捕まった方がマシよ!

研究員のおじさんたちが来た

……チッ!

シュトロールは足音を聞いて相手の人数を判断し、戦いは避けられないことを悟った

先へ進んだら見つかってしまう。他に出られる道を知っているか?

わ、わからないよ。後ろは育成エリアで……もう寝る時間だ。おじさん、私たち戻らなきゃ

足音と叫び声が近付くにつれ、シュトロールの額から冷却液が滲み出した

もう見つかってしまう……

彼は子供たちを隣の部屋に押し込み、上の階で手に入れた武器を手にして廊下の中央に立った

どうせこんなことをやりやがる連中だ。研究倫理の越えてはいけないラインを越えているやつら……死んだところで償いきれないがな!

次の瞬間、逃げ惑う研究員や警備員らしき者たちがシュトロールの目の前に現れた

彼はためらうことなく、すぐさま発砲した

どれほどの時間が経っただろう

ハァ……ハァ……

彼は折れた短刀を捨て、研究員や警備員の遺体から新しい武器を探した

おかしい……ここにいる研究員たちはやたらと強い……

いつになったら終わるんだ……

建物の中に長くいすぎたせいか、彼の意識海は徐々に混沌へと向かっていた

彼は何かを忘れていっているようだ――例えばこの研究所の上の階に何があるのか、もう思い出せない。彼は意識海の偏移症状が出ているのではないかと疑い始めていた

もしヴァレリアがいたら……バンジでもいい……誰かが来てくれれば、少しは楽になるんだが……ハァ……

どれだけ敵がいるのか、数え切れなくなっていた。いくら倒しても白衣を着た研究員が次々と押し寄せる。補給も指揮官とのリンクもない彼の循環システムは崩壊寸前だった

彼は子供たちを廊下の突き当たりの扉の奥へ退避させた。子供たちによると、そこは研究員たちが彼らを「育てて」いた育成エリアであり、一時的には安全だという

しばらくは新たな敵が現れる気配はなく、シュトロールも休息を取る必要があった

気になるのは、多くの研究員が「怪物」と呼んで恐れている存在だ。その怪物は、ある奇妙な「卵」から孵化した失敗作の実験体らしい

彼は道すがら、自分も知らない遺体をいくつも発見していた。それらの遺体にはどれも酷く大きな傷があり、まるで何か大型の生物に引き裂かれたかのようだった

どうやらこの場所の研究プロジェクトはずいぶん雑なんだな……フン、自分たちが作り出した「怪物」に反撃されたのか?

シュトロールは皮肉めいた表情で再び立ち上がり、残っている装備を確認した

一時的な静けさが、彼の警戒心をしばし緩めさせた――彼は、背後から近付いてくる敵に気付かなかったのだ

シュトロール!?

!!!

意識海の偏移があっても、シュトロールの反応速度は鈍らない。彼は振り向きざま武器を敵の胸に突き刺し、肋骨に刺さった武器を引き抜くと、喉の大動脈を切り裂いた

ぐぅ……うぅ……

その男性研究員の傷口から大量の循環液が噴き出した

またひとり片付けた……こんなに大量の循環液が……循環液……循環液?

循環液が白衣を染め、奇妙な色に変わっていった。まるで空中庭園の構造体の塗装のように

……

シュトロールは意識海を安定させようとギュッと目を閉じ、視覚モジュールを調整した

再び目を開けた時、彼は見慣れた構造体が「足下」に倒れているのを見た

……構造体?サワダ……?

………………

「シュトロール」

……

彼は足下一面に転がる構造体の遺体を見つめていた。その中には、離反者リストに載っていた見覚えのある顔もいくつかあった

「シュトロール」

昇格者……拠点……離反者……

「発声装置」から、声とは思えない奇妙な唸り声が響いた。目の前の光景全てが歪み、回転し、混ざり合っていく。それはまるで万華鏡や、水面に浮かぶ汚い油膜のようだ

「彼」は何かに気付いてしまった

「彼」は這いずり、長い間放置された廊下を進み、上の階へと戻った。そこで見たものは壊れた培養タンク、多くの離反構造体の残骸だ。その体の傷は全て「彼」がつけたものだ

「シュトロール」

……

「彼」の「意識海」に異合生物の咆哮のようなざわめきが響いた。「彼」がその音を必死に聞き分けようとすると、すぐに体の主導権を奪われてしまう

さ、最初の「卵」がサソリに孵化したって……やつらはふたつめの卵も準備してる!それに――

隙を見て逃げろ。粛清部隊に捕まる方がよっぽどマシだ

昇格者がその怪物を外に連れ出したの!もう皆終わりよ!

だがすぐに、慌てた離反者は「彼」によって体を真っぷたつにされた。腰につけていた端末も切り裂かれ、その内部の通信パーツが露わになった

「彼」はシュトロールではなかった。「彼」は無数に砕けた意識海の一部であり、このサソリ型の造物の殻の中で、もがき、引き裂かれていた

「俺の仲間は皆死んだ……俺の目の前で……足を吹き飛ばされて……」

「俺は逃げる……パニシングの戦場から遠く……遠ければ遠いほどいい!」

「生き延びさえすれば!!!」

「生き延びるんだ!!!!!!!」

安定していると判断された意識海は、全て昇格者の巨大な「るつぼ」に投げ込まれた。紫髪の昇格者曰く、これは母親が合格する子供を誕生させるための準備だという

彼らの鋭い叫び声は全て押し潰され、自ら、あるいは強制的にこの別の形で「生きる」ことを選ばされた

ここに存在するパニシングも加わり、その中に残された情報が全て「るつぼ」に流れ込んだ。彼は何年も前に終わった物語を見た。あの――「実験構造体」の子供たちの幻影だ

「シュトロール」

そうだったのか……俺も幻影だったのか……

「彼」は先ほど破壊された端末に目を向けた。空中庭園のものだ

ほんの僅かな間、体の主導権を得た「彼」は急いで決断した

彼は特殊な信号を残し、遺体を1カ所に集め、あちこちに危険を示す痕跡を残した。その間、自分と同様の奇妙な侵蝕体ともすれ違った

「彼」はなんとか無傷の端末で自分の声を聞いた。驚いたことに、その声は現れるかわからない後続者に警告していた。その警告の中で最も警戒すべきは「彼」自身なのに

「彼」は次第に疲弊し、再び混乱の中に陥る直前、緑色の包装紙に包まれたひと粒のキャンディを見つけた

「シュトロール」

……

…………

最後、彼は育成エリアの裏の扉――終局へと続く道の上にそっと「キャンディ」を置いた

よし、これでいい

「彼」の幻想の中では、少し体力を回復したシュトロールが育成エリアへと戻ってきた。そこには、彼が守り続けようとする子供たちがいる

子供たちは信頼できる構造体の姿を見て、自然と彼の周りに寄り添い、誰ひとり声を出さず、存在しない未来を静かに待っていた

シュトロールは子供たちに向かって両腕を広げた

万華鏡のような世界が、再びゆっくりと彼の目の前で広がっていった