Story Reader / 叙事余録 / ER08 追憶のピリオド / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER08-22 ミントキャンディ

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シュトロールは誰かの叫び声を聞いたような気がした

今日は曇りだ。激戦の後、彼は地面に座って周囲を見回したが、漂う硝煙と遺体、廃墟以外は何も見当たらない。隣ではバンジが彼のヒビの入った腕を修復している

幻聴か……?お前、何か聞こえたか?

バンジは答えず、別の話をし始めた

腕の損傷が少し深刻だ

ちょっと油断しただけだ、大したことはない

スカラベ小隊には医療ロボットが配備されてるはず。戻ったら使ってみて

ゴホン……医療ロボットは確かに役立つんだが、最近修理に出しててな。じゃなきゃ、お前をわざわざ呼ばないさ

え……医療ロボットが壊れた?

シュトロールは気まずそうにまた軽く咳払いをした

ゴホン……スカラベのことはもういいだろ

バンジはそれ以上シュトロールと言い合うつもりはなく、整備キットをしまい、シュトロールの腕を戻した

簡単にしか処置してない。空中庭園に戻ったら、忘れずに構造体整備部門で見てもらって

助かった

他に何もないなら、僕は少し寝る……

まあ、特にはないが……

何かやり残しているような気がする、変だな

意識海の状態をチェックする?

いや、そこまでじゃない。戻って少し休めば大丈夫だ

シュトロールは、眠気覚ましのミントキャンディを取り出そうとポケットを探ったが、何も見つからなかった

ポケットの中は空だ

ん?全部食べちまったか

何を探してるの?

出発する前にヴァレリアからキャンディをもらったんだ……一気に食べ切るような物じゃなし、どっかで落としたか?

キャンディ……

これは?

シュトロールがバンジの手の中を見ると、ひと粒のアルコール入りミントキャンディがあった

――そう、これだ

シュトロールは受け取り、キャンディの包みを開いた

――そう、これだ

バンジ

食べたら目が覚めるよ

シュトロールは包装紙に包まれた緑色の「キャンディ」を見て、ふと動きを止めた

彼は数多くのことを思い出した。青少年育成センターで会ったふたりの小さな侵入者、重篤汚染区域で消えた若い隊員、パニシングの戦場で亡くなった多くの戦友たち……

彼はこのキャンディを皆と分け合い、お互いの「命」を繋ぎ合っていた

シュトロール

……そうだったのか

バンジは何かを確認するかのようにシュトロールの目を見つめた

シュトロール

俺はどのくらい中にいた?

バンジ

……すごく長い間。軍ではすでに「戦死」扱いになってる

シュトロール

そりゃ本当に長いな

ヴァレリアのやつ、あの映像をお前に見せてないだろうな?俺が酔っ払って医療ロボットに抱きついてる映像……

目を覚ましたシュトロールが最初に気にしたのは、バンジが聞いたこともない、聞くからにおかしな映像のことだった

バンジ

……

シュトロール

見てないか。ならいい

シュトロールはキャンディを手の上で転がした

俺に起こったことを話そうか?まあ、大体知ってるだろうが

昇格者――あの紫髪のチビがここを拠点にして、意識海が安定している構造体を集めて融合させてやがる。俺たちは試作品のごく一部だ。あいつらはまだ続けるつもりだろう

全部終わったんだよ

バンジの表情を見て、シュトロールは何が起きたのかを大体理解した

マジかよ……そんなに長い間だったのか

誰がいた?

大勢の人だよ、グレイレイヴン指揮官やあなた……あなたの複製体も含まれてるって聞いた

あなたの認識票なら戻ってきた。今はヴァレリアが保管してるよ

ヴァレリアが?あいつら、余計なことをしてないだろうな?

さあ……

お前は?お前はたまに、あの無茶苦茶な連中よりもしつこいからな

……

いや、この話は終わりだ。俺はもう十分混乱してるし、これ以上厄介な話は聞きたかねえ

シュトロールは、自分の頭を指差した

大量の意識海が積み重なって、出鱈目な多さの過去の記憶が見えた。ここのことも含めてな

この研究所じゃ、子供を実験体として使っていた。後ろの「ゴミ捨て場」は満杯に近い状態だったんだ

子供たちを連れて逃げようとしたが、走り回っても出口が見つからず、俺も侵入者として集中攻撃を食らった

それもどうやら、全部自分で作り上げた幻覚だったようだがな

わかってるよ、シュトロール。あなたがしたことは、全部僕にも見えていた

……そうなのか?

シュトロールはニヤッと笑った

俺の手がかりをたどって来たんだろ?「俺」をどう始末するかまで考えてきたようだし、昔の任務は忘れてないと見えるな

……あんなに厄介な過去、誰だって忘れられないよ

シュトロールはバンジの肩をポンポンと叩いた

バンジはうつむいたままだった。少年時代に肩を叩いてくれた人が、またひとりいなくなってしまう

時間がない。行け、バンジ

保全エリアがもうすぐ赤潮に呑まれる

お前たちが求めるもの、救いたい人を連れていくんだ――グレイレイヴン指揮官も見つけてるはずだ。すぐに撤退しろ

シュトロール……

おいおい、やめておけ

過激なことを考えるな

……それに、中でもがき苦しんでいるのは俺だけじゃない

皆、解放されたいんだ

シュトロールはミントキャンディをひょいとつまんだ

そして、迷うことなく口に放り込んだ

バンッ――

バンジ

……

バンジの指が引き金を引いた。サソリの怪物の「顔」についていた仮面が破片となって飛び散り、鋭い音を立ててバンジの耳元を通りすぎた

今、シュトロールの旅は終わりを告げた

彼はバンジによって、琥珀の中に完全な姿のまま、永遠に秘蔵された