天国の橋
橋は高々と天にそびえ立ち、冷たい風が地面の雪を巻き上げた。橋の向こうからは夕日が眩しく差し込んでいる
……ヴェロニカ!
しつこいな
凛とした姿の機械体女性は冷たく振り返ったが、その姿は眩しい光の中に包まれていた
教会の内乱は私は関係ないと言ったはずだ。傍観者としてなら歓迎するが、もし手を出すというのなら同胞であろうと容赦はしない、とも
アレクセイは教会の裏切り者に操られているかもしれないんです。それが、あなたには関係ないことなのですか?
……同じ機械体だからといって、私が手を出さないと思うな!
風雪を巻き起こしながらランスが回転し、含英に狙いを定めた
嘘ではありません、ヴェロニカ
さっき、アレクセイからの通信がありました。人間たちを助け、あなたを……あなたにこれ以上罪を重ねさせないでくれと、彼に頼まれました
彼は自分を制御できず、意識を完全に失ったと言っていました。そして……どうか天国の橋を起動しないでほしい、と
お前……たちも?また人間に惑わされた機械体が出たか……
ヴェロニカは本能的に声を押し殺し、漠然とした不安を気取られないよう、冷たい口調のまま話した
だから何だ?人間は死ぬべきではないと?
アレクセイに起こったことは別としても、人間がやってきたことは、この結末と釣り合わないとでも言うのか?
あなたに見えているものが真実の全てではありません!
馬鹿馬鹿しい
お前も同じ機械体なのに、人間が機械の同胞に与えた苦しみが見えなかったと?
あなたが見ていない場所で、大勢の人間が機械の同胞を助けています、ずっと多くの数の同胞たちを……
私が信じられるのは、私の目が見たこの全てだけ
ヴィロニカはランスで遠くを指した。彼女の視覚モジュールには天航都市の惨劇がずっとこびりついているようだ
彼らはSDC-39を狂った怪物と呼び、彼がパニシングを持ち込み、全ての人間を殺そうとしていると言ったのだ
もともと、私は彼らを連れてここを離れるつもりだった
それ……本当にいいのか?私はただの人間だが、君の言う「機械教会」に入ることができるのか?
もちろんだ。機械教会は全ての彷徨う生命を受け入れる。この都市はもうお前たちが暮らすのには適さない。一緒にここを離れよう
今日と同じ、雪が舞う夕暮れ。その日も厳しい寒さだった。しかしなぜかヴェロニカの記憶の中では、その日の夕陽はいつもより輝いていたように感じられた
「吊ルサレタ男」……検索開始……
タロットカード、大アルカナ、12番目ノカード。「吊ルサレタ男」ハ「命運」ヲ表シ、ソレハ「正義」ノ延長デモアル……
私ハマダ「命運」トイウモノガ何ナノカ理解デキナイガ、コノ「席」ハ気ニ入ッタ
コレハ、SDC-39ノタメノ席?
そう、お前のための席だ
では私は?私にも席があるのか?
お前は人間だ。機械教会にお前のための席はない
ああ……そうか、それは残念だな
でも大丈夫、私は天航都市で一番の機械技師だ。君たちのためにできることがたくさんある……
デモ、私ハマダ行ケナイ
天国ノ橋ハマダ完成シテナイ。アノ橋ガ完成シテ初メテ、人類……ソシテ機械体ハ、トモニ星空ヘ旅立テル
SDC-39、人間はもうお前の存在に気付き始めている
大丈夫、人間ハ友好的ダ……
「人間は友好的だ」
それが、前の「吊るされた男」SDC-39が最後に私に言った言葉だ
その翌日……人間によって彼は無惨に解体されてしまった
その人間たちは騙されたんです!その人間たちが見たデータ報告を「彼ら」がすり替えたから!
見え隠れする一本の透明な糸が、全てを繋いでいる
皇帝です……恐らく、皇帝の仕業です!
皇帝は教会を裏切りました。私たちが九龍に接続した時、彼は九龍へ侵入しようとしたのです。そして今……彼は天航都市を奪おうとしている!
やはり、お前はわかっていない。含英
誰が何の目的でやったのかは、今となってはもう重要じゃない。導火線は燃え尽きた。戦争が……始まろうとしている
ヴェロニカは天国の橋の頂上に立ち、ランスを街に向けた
目を開けてこの世界をしっかりと見ろ、含英!
天航都市内は戦火に包まれていた。機械体は最後まで戦い抜けと命令され、たとえ腕一本しか残ってなくとも、懸命に敵を攻撃し続けている
全て――この全ては、人間が始めたことだ!
どこかの防衛線が人間に突破され、鋭い警報音が空に響き渡った
人間は自分たちに理解できない答えを恐れ、覚醒した機械に支配権を奪われることを恐れている!
彼らはSDC-39を殺し、セージの壁画に目覚めた同胞たちをも殺した。そして私の力を見て今度は私を恐れ、あの主任とやらを犠牲にした!
愚かで馬鹿げている。やつらには混沌とした破壊欲しかない!それがお前たちが守る人間、お前たちが信頼している人間という存在だ!
……でも、大勢の機械体の同胞たちも……この終わりのない殺戮の連鎖の中で命を無駄に落としたはずです
彼女は静かに口を開いた
……
ヴェロニカは一瞬言葉に詰まった
彼らの記憶ユニットは全て保存してある。戦いが終わり、機械体が世界の頂点に君臨した時に、彼らをよりいい体に移行するつもりだ
そのための犠牲なら価値がある。私自身も、この戦場で死んでも構わない――機械体のための世界を創造できるなら、この全てに価値がある
天国の橋を起動し、天国の橋から先鋒となる旗艦を発射し、制空権を得る。空は人間だけのものじゃない
空中庭園に進入さえできれば……
それは、機械体とあの破壊欲に満ちた人間とどう違うの?
含英は怒りに満ちたヴェロニカを悲しそうに見つめた
ヴェロニカの怒りは理解できる。機械体の同胞に対する酷い扱いに、彼女も憤りを感じた。しかし、一部の人間の過ちを「人類」全体に結びつけてしまうことは……
「機械体」全てを「パニシング」としてレッテルを貼った人類と、何が違うのだろう?
ましてや、当時SDC-39を処刑したあの科学者たちは、皇帝によって騙されていた可能性が高い……
やめてください、ヴェロニカ。天国の橋は……こんな形で起動してはいけません
それは希望を乗せて星々へと向かい、北の極地にそびえ立つ象徴となるべきもの……新たな戦場の種火となるべきではない
……もう話すことはない
まさか、自分の同胞にこの槍を向けることになるとは思わなかった。だが……
もしお前が私を止めるというのなら、私の体を踏み越えていけ、含英