Story Reader / 叙事余録 / ER07 雲郷に潜む影 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER07-12 平均台

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セリカの携帯端末には、次々とポップアップされる通知が目まぐるしく表示されていた

しかし、今の彼女にひとつひとつ通知の内容を確かめる余裕はない

会議室外の廊下にひしめく人々の間をすり抜け、セリカは自動ドアの前で立ち止まった

スライドドアが静かに左右へ開くと、彼女は深く息を吸い込んでから、一歩踏み出した

通信アレイはどうなっている?グレイレイヴンとの連絡は?

セリカは短く敬礼し、端末上のメッセージのひとつを開いた。それを総括したファイルのデータと照らし合わせ、あまり楽観的ではない答えを口にした

高エネルギー信号源を捉えました。また、観測衛星が天航都市の具体的な座標を確定しました

しかし……リアクターによるエネルギー供給中のためか、都市及びその周辺地区の電磁干渉は依然として非常に深刻です

[player name]のビーコンの正確な特定が難しく、まだ通信が確立できません。ですが、彼らからの任務報告書を1件受信しました。暗号化して皆さんの端末に送信済みです

天航都市……機械体……反乱軍……

簡潔な任務報告は血なまぐさい言葉によって、遠く離れた基地の雪が舞う都市を描き出す

付近の執行小隊との距離はどのくらいだ?

新ソフィアの情報によると、天航都市近郊には地雷原が存在し、都市内の防衛設備は少なくとも3分の1は今も稼働しているようです

……

会議室は一瞬、静寂に包まれた

1時間前

天航都市の不明信号探査任務、任務時間<b>45:10:58</b>

画面の左端では、60進法のサイクルで数値が増え続けている

グレイレイヴンの最後の任務報告を受信してから、すでに40時間が経過していた

地上作戦コントロールセンターは、守林人に連絡して確認を取った。あのふたりは天航都市外周の森林で別れ、任務へと向かった

ロゼッタが言うには、大体……このエリアらしい

彼は九龍人と共有している古地図に、人差し指でコースターほどの大きさの円を描き、その中心をトントンと指で叩いた

向こうから報告じゃ、地雷原や少数の異合生物の活動を除けば、大きな脅威はないようだ

つまり……執行小隊を派遣して捜索が可能ということですか?

それはリスクが高すぎるな。近くには天航都市の防衛設備があるし、それに……周辺の勢力をいたずらに刺激する可能性がある

以前、空中庭園を照射した異常な高出力電波について、何か情報は解析できたか?

今のところは何も。暗号化された何らかのメッセージとしか……

瓏がもうひとつのレポートを開こうとした瞬間、任務のタイマーを表示していたスクリーンが突然真紅に染まった

電子地図上にあったグレイレイヴンの位置を示す白い点が消えていた。そして少し離れた等高線の間で、暗い赤色の渦が不吉な波紋を広げ始めた

電子警告音

警告!地上で高エネルギー反応を検出。警告!地上で高エネルギー反応を検出……

……!?

この強さ……まさかリアクターの事故か!?

天航都市は核エネルギーを礎に建設された都市だ。任務エリア内でこれほどの規模の異変を起こせるのは、あのリアクター以外にない

アシモフの指先が素早く画面を滑り、地図上で反応源を特定した

こんな形で謎に包まれていた天航都市の座標が明らかになるとは、誰も予想していなかった

ですが遠隔感知衛星は爆発の兆候を検出していないし、エリア内の放射線指数も上昇していません……

その九龍人はすぐに具体的なデータ指標をチェックし、直感的な判断を否定した

なら異合生物の爆発か?だが、侵蝕活動でこれほど大きなエネルギーが瞬間的に生じるなどありえない

電離反応の激化……遮断型干渉……

あの森は、全てを飲み込む底なし穴のようだ

まさか……

彼はこれ以上ないほど複雑な表情を浮かべながらアシモフを見て、ひと言ひと言、ゆっくりと問いかけた

アシモフ、黄金時代に天航都市で九龍が行った極秘研究について聞いたことがありますか?

そのプロジェクトのコードネームは……

「天国への架け橋」

議会ホール

1時間30分後

ドーム型の天井から淡く青い光が落ち、人類の運命を幾度となく左右してきたこの議会ホールは、まるで闘技場のような雰囲気で――その構造さえもよく似ている

任務報告は、会議資料と一緒に事前に送っている。もう目は通しているだろう

ツィオルコフスキー天航都市……ここにいる皆さんもよくご存知の場所のはずだ

現在知り得る全ての情報によると、天航都市はすでに機械体によって占領されている。そして……

97分前、俺たちはコラ半島の新ムルマンスク港の南で、リアクターの軌道用エネルギー蓄力に伴う高エネルギー反応を観測した

この高エネルギー反応は、パニシング発生後に放棄されたはずの極秘宇宙プロジェクト――「天国の橋」の磁力加速軌道によるものだ

議会ホールが一時、巻き起こる議論の声で騒がしくなったが、それはすぐに鎮静化した

はっきり言う。「天国の橋」はエネルギーを蓄え、起動準備を始めている

「天国の橋」が?そんなことがありえるのだろうか……

その原理は、電磁加速の駆動ロケット砲とあまり変わらないのでは?

議員たちは出身こそエデン社会の非軍事分野かもしれないが、これまで空中庭園が経験した戦闘のお陰か、潜在的な脅威には非常に敏感になっているようだ

ご覧の通り、未知の地上勢力が地球軌道に侵入しようと企んでいる

「天国の橋」……これをうまく利用すれば、加速軌道を使って直接空中庭園を攻撃することも不可能ではない

任務報告には……グレイレイヴンが付近で偵察任務を行っているとありますが?

今のところ、グレイレイヴンとの安定した通信が確立できていない。こちらが得られたのはこの任務報告書だけだ

空中庭園から天航都市への直接攻撃を試みては……

加速軌道を破壊すれば、目の前の危機は解決できるだろう。だが、諸君は本当に災禍が起こる前に、最先端の実験型低温リアクターを火の海に葬りたいと思うだろうか?

……

今の我々の能力なら、こういったリアクターの再現は可能だろう。だがその建設に必要な人材や物資は一体どこから集めればいい?

都市内との通信を試してみては?

……待ってくれ

通信機から特殊な通知音が鳴り、アシモフは発言を中断するよう合図した。彼は端末を開き、観測モジュールからの情報を確認した

電磁波の一時中断を確認した。おそらく「天国の橋」の供給が中断周期に入り、リアクターが冷却を始めたんだろう

今なら、短時間の通信が可能かも……

彼は端末をホログラフィックプロジェクタに接続し、通信チャンネルを開いた

議員たちの議論はすぐに静まり、全員の意識がホール中央の映像に向いた

休息の合間に、再び空中庭園との通信を試みた

端末は依然として断続的な会話は傍受できるが、それは全て都市内にいる反乱軍残党間の通信や、機械体による無機質な二進法の放送だった

軌道上の植民艦は電磁干渉のバリアによって完全に遮断され、圏外になってしまっている

……指揮官!中断されていた信号が回復したようです!

???

……こちら……科……事会……

……庭園より発信、応答せよ

マイクから聞こえる最後の数語が突然クリアになり、その声はよく知る青年のものだった

やっと繋がったか。まさに今、議会が緊急会議中だ。天航都市の状況を報告してくれ

こちらは空中庭園議会、現在緊急会議中だ。天航都市の状況を報告してくれ

天国の橋がエネルギーの供給を始めたことで、空中庭園も深刻な状況を察知したようだ。機密チャンネルの安定接続を確立後、地上に着陸してからの出来事を簡単に報告した

アシモフはすぐに返事をしなかった。議場で白熱する声がチャンネルにあふれ返っていたが、具体的な言葉は聞き取れない

確かに彼らには情報を消化する時間が必要かもしれないが、こちらも早急に支援が必要なのだ

短い議論の後、再びアシモフの声が聞こえた

軍から執行小隊を派遣して迎えに行かせる。現在、周辺の勢力との最終調整を確認中だ

他に何か確認しておくことは?

含英?グレイレイヴンが万世銘古都の一件で出会ったという、九龍の機械体か?

その名には聞き覚えが……万世銘の戦闘の後、お前が提出した報告書にあったな

気をつけろ。警戒を怠るな――

通信は再び電磁干渉で切れてしまった

執行小隊が私たちの通ってきたルートを通るとしても、機械体の案内がなければ、地雷原を確認しながら通るにはかなりの時間がかかります

全てが手遅れになる前に、混乱の中にあってもできる限り犠牲を最小限に抑えられるよう、均衡を保たなければ

ディミトリが言うように、この蹂躙された小さな都市は、再び全面戦争を耐え抜くことなど不可能なのだから

科学理事会

天国の橋……名前だけは聞いたことがあります

黄金時代の人類の知恵は本当に侮れませんね

あのようなロマンと創造力に富んだ設計は、あの時代だからこそ、青写真から実際の壮大な建造物へと昇華することができたのだろう

でも、そう考えると、あれもまた人類最後の希望だったんでしょうね

……

アシモフは黙ったまま窓の外の地球を見つめた

覚醒機械は次々と天航都市へ入り込んでいる……それは天国の橋を軽率に起動させることよりも、警戒すべき兆候なのかもしれない

地上で一体どんな異変が起こっているのだろう……

全ての出来事がある時点を境に、制御不能な底なし沼へと向かっていくようだった