Story Reader / 叙事余録 / ER07 雲郷に潜む影 / Story

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ER07-4 墓隧

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そうだ、これを渡しておきます、九龍のお姉さん

彼女は座席の下をごそごそと探り、さまざまなパーツを繋ぎ合わせて作られた、かろうじて使えそうなライフルを取り出した

さっきの様子じゃ、たぶん使えますよね?これからの道中まだ襲撃があるかもしれませんから、これ、どうぞ

……ありがとうございます

踊り子風の衣装の女性は軽く頷いてライフルを受け取ると、排莢口を開いてチャンバー内を確認した

兵士たちから見れば、何とも奇妙な光景だった。好奇に満ちた雰囲気が重厚な装甲の輸送車内に広がっていく

輸送車に潜んでここまで来たってことは、あなたも天航都市に何とかたどり着きたいんですよね?

どうして天航都市へ?家族か友達でもいるんですか?

……警戒を緩めるな。私語は禁止だ

興奮した少女は老兵の注意を無視し、戦術ベストのポケットから手の平大のものを取り出した

彼女は少しためらいながら皺くちゃのアルミ箔の包装を平らにしようと、親指で何度か軽くならした

年若い兵士は、その作業で見栄えが幾分マシになったと思ったらしく、それを含英に差し出した

あなたには、さっきの戦闘でとても助けてもらったから

こ……これ、郊外の埋立地で一週間夜勤をした報酬で手に入れたものなんです

見た目は皺くちゃですけど未開封なのは保証します。新品のダークチョコレートですよ!

老兵はやれやれと小さく首を振ったが、不満の意を示した訳ではないらしい

そんな、そこまでは……

いいんです!貴重だけど、そこまで珍しい品でもないから。まだありますから、これはどうぞ!

きっと体力をかなり消耗したでしょうし……遠慮しないでください

では……ありがとうございます

含英はチョコレートを受け取り、包装に書かれた内容を見た。カカオに砂糖、どちらも機械体にエネルギーを与えないが、人間の善意を示してくれる物質だ

先ほど仰っていた「報酬」というのは……?天航都市では今も、何かを手に入れるためには物々交換が必要なんですか?

含英の質問を聞いて、老兵は銃を支えにして身を起こした

……本当に知らないのか?

含英の顔に浮かんだ当惑が本物だと見た老兵は、深くため息をついた

あの機械体たちの仲間かと思ったが……どうやら本当に状況を知らないみたいだな

若い兵士の友好的な態度につられ、老兵の警戒心も多少和らいだようだ

お前さんのその格好……九龍から派遣されたんだろう?

……確かに、所属は九龍です

彼女は、なぜ彼らが「機械体」に対してこれほど排他的なのか不思議だったが、冷静に考えたすえ、今は自分が機械体であることを明かさない方がいいと判断した

……九龍はやっと救援を派遣する気になったのか?

あれだけ戦えるなら、戦いの心得もあるのだろう。しかし、派遣されたのは……お前さんひとりなのか?

……救援部隊というより、偵察というべきかもしれません

彼女ははかりごとの類いは不得手だった。なるべく老兵の言葉に合わせて話を進めるしかできない

偵察?何のために?ここに残った者たちが死んだかどうかを見に来たのか?

……すみません

そのこと自体は彼女のせいではない。だが彼女は老兵の口調に滲む疲れに気がついていた

彼らはおそらく、その「すみません」という言葉をずっと待っていたのかもしれない

……ふっ、まあいい。お嬢さんを責めたってしょうがない

含英は目の前にいる人物の判断に素直に従った。そのことで、張りつめた雰囲気がぐっと和らいだ

それで、現在の都市の状況は……

さっきあいつが言ってただろう。交換だよ、働いて飯をもらうのさ

ここじゃあ、規則は人間が決めるものじゃない

人間では……ない?

……もうずっと前のことだけど

少女が言葉を選びながら話し出すと、隣の老兵は再びため息をついた

あのツノ頭の機械体がどこからともなく現れてから、街は私たちのものじゃなくなりました

彼女は中央制御システムを乗っ取り、機械体たちを煽動して反乱を起こしたんです

先輩たちが言うには、街の中で何度も武力による反撃をしたそうですが、人間が鉄の塊に敵うはずもなく……

若者は自分が経験していない歴史を語ることに確信が持てないのか、少し俯いた

……昔、ここがまだ科学研究の聖地だった頃、兵士ってのは一番暇な仕事だったんだ

地理的にも最高機密の場所だったし、誰が悪巧みなんかしようと思う?

だが、あの爆発の後……ツノ頭の指揮で機械体たちは前任の科学研究主任を「処刑」した。ツノ頭は裏切り者を城主に任命し、乗っ取ったんだ

つまり……

そういった環境は、かつての含英にはよく知るものだった

つまり?つまりあの機械体たちは、24時間稼働する自分たちに合わせるよう要求して人間を苦しめ、労働時間の対価として生活必需品と交換させているんだ

老人や子供だろうが容赦しない。労働時間を満たせない者は飢え死にするしかないんだ

最後に相手にしなきゃならんのが、自分たちの街の機械体だなんて、誰が想像できる……

含英はその歪んだ秩序に驚き、茫然とした……

無意識に左手で軽く首に触れたが、そこにはもう電流が流れる痛みは感じられなかった

苦い記憶というものは、体の表面の古い痕跡のように力任せで簡単に消せたりしない

彼女とあの少女のふたりだけの約束は、永遠に果てのない道のりに長い間、囚われていた

最終的に、彼女たちは時間の塵に別れを告げ、新たな道を進み始めた

セージ、教会、そして街の点心屋や喧騒、全てが前方へと伸びていく

しかし結局、時間は奇妙なループを遂げ、再び彼女を同じ惨状へと引き戻す――

(ツノ頭の機械体……話を聞く限り、よそ者のようね)

(ヴェロニカなのかしら?)

……まあ、街での暮らしは苦しいとはいえ、飯にもありつけない外よりはマシだ

年長の兵士が再びため息をつき、含英の意識は狭い車内へと引き戻された

九龍は……何か計画を立ててるのか?

兵をもっと派遣して、天航都市を取り戻すとか?かつてはとても重要な宇宙基地だった訳だし……

九龍ってどんなところなんだろう、私、まだ見たことがなくて。天航都市と似たような感じですか?

九龍は……

ドォン――!!

彼女が答えようとした時、突然の衝撃が車内の賑やかさを掻き消した

衝撃とともに轟音が響き、ぶ厚い装甲内壁でもその振動を抑えることはできなかった

突然の危機に、会話する余裕などない

敵襲だ、防衛を怠るな!機関銃手、準備につけ!

先ほどまで気怠げだった年長の兵士は瞬時に仕事モードに切り替わり、彼の指揮の下、車内の兵士たちは次々と戦闘準備を整えた

軍服姿の若い少女は天真爛漫な雰囲気から一転、慣れたように回転式の銃塔に登って天窓から身を乗り出した

機械体には元から射撃時の防音機能が備わっている。含英は周りの人間たちのようにノイズキャンセリング装置を装備する必要はなかった

うっ……

しかし、車内に響いたのは短く鈍い音だった。それは鋭利な刃が空気を切り裂き、柔らかい物体に当たったような音だ

突然、活発なあの体の両足がダラリと垂れ下がり、温かな液体が下へと飛び散った

ふと含英は、まだ彼女の名前も訊いていなかったことに気がついた