コンスタンティン鉱場は、地表の建築部分に変わったところはないが、地下の建築部分を抜き出して見ると、まるで逆さまの巨大な塔だった
広大な荒野の下には四方八方に伸びた坑道が張り巡らされ、坑道の分岐点にはさまざまな小規模ラボが点在している
原料が容易く手に入るため、研究員たちは地下から一歩も出ることなく、一心不乱に研究に没頭していた
誰が言ったわけでもなく、底に近いラボほど研究の進捗と内容が進んでいる、というのが皆の暗黙の了解だった
曲がりくねった坑道を進むにつれ、循環液と血が混ざりあった跡がますます多くなっていった
シリアがまだ彼らを追っている……彼は救援を呼びに戻るべきだったのに
この循環液の流出具合から見ても、恐らく長くは持たない……
地面の循環液の痕跡が突然消えた。しかし、血痕はなおも点々と続いている
明らかに何かを引きずった跡が坑道の脇へと続き、地面に倒れている人影がぼんやりと見えた
シリア!
ルシアに合図を送ると、ルシアは頷いて非常信号灯を取り出し、慎重に人影の方へ投げた
冷たい光が、すでに生命反応を失った構造体を照らす
痛みがブリギットの意識海を貫いた。彼女はなんとか冷静を保とうと強く拳を握りしめ、シリアの遺体を調べに近寄った
……銃傷だわ。コア付近に命中して循環液が流出したのよ
きっと坑道に潜んでいるやつらの仕業だわ
敵の勢力はひとつじゃないかもしれません
地面の埃を払い除けてみると、そこには明らかに普通の人間のものではない足跡が現れた
……よく頑張ったわね、シリア
ブリギットはシリアの見開いたままの両目を静かに閉じた
後は私に任せて
シリアがいた坑道にマークをつけ、ブリギットは目を伏せた
進みましょう。地面にはまだ血痕がある。彼らが何か行動を起こす前に追いつけるはず
こういう可能性は?あなたのこの部下が、うーん、例えばアンジェたちから何かを受け取り、何らかの理由で交渉が決裂、それで争いになったとか
それは絶対にないわね
言い切れるんですか?
ブリギットはトロイを一瞥した
私は前に一度経験したことがあるの……それを裏切りと呼ぶべきかはわからないけど
だから、支援部隊隊長に就任したあと、私は全隊員の背景を厳しく調べて、入隊する新兵の経歴も入念にチェックしてる
ええ……
なんとなく、トロイは当てこすられたような気がして、少し気まずそうに鼻をこすった
それに第三者の協力なしに、アンジェと助手がシリアを相手にできるとは思えない
私は、アンジェも第三者に脅されて連れ去られた可能性が高いと思う
血痕は……こっちまで続いてる
見たところ、坑道内で使用される生活排水の建築設備のようで、湿っぽくぬかるんでいる
……こんなところに本当に彼らのラボが?
ふん、彼らを侮らない方がいいですよ
こんな場所くらい平気です。彼らは岩層に穿った穴に隠れたくて仕方ないんですから。生まれながらにして、人目に触れさせるべきではないものがあるんですよ
慣れてそうに見えます?私にもわかりません
詳しそうに見えます?私にもわかりません
恐らく同じ劣等な生物として、似たような考え方をしているから、でしょうね
……
トロイは本当に何も覚えていないのだろうか?ブリギットは前を歩くトロイを用心深く観察した
なぜ彼女はこの場所を熟知しているかのように振る舞うのだろう?彼女の本当の目的は……一体?
鉱井に入ってからというもの、ブリギットはずっと気持ちが落ち着かなかった。全てを慎重に計画したにもかかわらず、仲間に犠牲が出てしまっている
ブリギットの自責の念は、このデコボコの道から溢れんばかりだ
ええ、大丈夫。ただ……これからどうすべきかを考えているだけ
シェリルがもうすぐ通信機の修理を終えるだろうから、少なくとも内部通信はスムーズにできるようになるはず。それから……
……あまり気を張りすぎると自滅しますよ
……ふぅ
ブリギットは大きく息を吐き出した
彼女自身、最近の自分の行動の異変に気付いていない訳ではない
不安……疑念……シリアの遺体を見た瞬間、これまで太陽の輝きにその影をひそめていた悪夢が再び目覚め、全ての暗い感情が爆発した
黒い火山が彼女の意識海の中で黒煙を噴き上げる
大丈夫、冷静になるわ
さあ、進みましょう