Story Reader / 叙事余録 / ER06 薄明射す闇塔 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER06-8 二次崩落

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鉱井深部

内部ホール

二次災害は皆が想像したよりも早く起こった。休息を終えた探索隊員たちが出発してまもないうちに、坑道が激しく揺れた

坑道から低い轟音と、落石を伴った崩落の音が鉱山の隅々まで響き渡る

他の者たちとホールに引き返すと、中央で人々に囲まれたブリギットが目に入った。彼女の表情は険しく、顔に擦り傷をつけたアンジェの腕をきつく掴んでいる

坑道が崩落したの。補強を担当していた小隊に犠牲者も出てる。私たちが来た道は完全に塞がれて、外との通信手段も途絶えたわ

もし私の反応があと少し遅かったら、アンジェと助手は助からなかった

ブリギットから伝えられた情報にその場は騒然となり、皆がひそひそとささやき合った

人々の声は次第に小さくなったが、ブリギットは黙り込んだままだった

彼女はまだアンジェをじっと見つめたままで、その手を離そうとしない

ブリギット?

もし、[player name]に忠告されてなければ、あなたたちに注意を払おうなんて思わなかった……

ブリギットは口を開き、もう一度言い直した

アンジェ、あなたと助手はどうして崩落の寸前、あの場を動かなかったの?

とっさに私たちの方へ戻る時間は十分にあったはず

ブリギット

ルシアがブリギットをそっと押さえ、ふたりの間に割って入る。その隙にアンジェはブリギットの腕を振り払った

彼女は俯いて表情を隠したまま、もう一方の手で掴まれていた場所を擦った

すみません。突然のことでパニックになって動けませんでした。こういった経験は今までなかったものですから

あなたが坑道に来た目的は知っています。でもだからといって疑心暗鬼にならないでください

私は……!

……ごめんなさい、彼女たちを救おうとして、うちの隊員が犠牲になったから……

ブリギットは深く息を吸って半歩後ずさると、もう一度言葉を整理した

そう、確かにこの鉱井には私が探し求めているものがある。だけど、任務以外に別の目的もあるからって、ことの軽重を間違えることなんて絶対にない

私の誤解なら謝る。だけどアンジェ……もし、何か隠していることがあるなら……別にどうでもいいけど、これ以上、下手な小細工だけはしないで

当時の事件の調査や今回の空中庭園の任務以上に、全員で無事に帰ることが何より重要、それをわかってほしいの

ブリギットはそう話すことで感情を抑え、隊員を呼んでアンジェとその助手を連れていかせた

いくつかの事項を簡単に説明したあと、ブリギットは隊員を解散させた

取り乱したところを見せちゃったわね、[player name]

わかってる。だけど、彼らがこんな過激なやり方をするとは思いもしなかった

まだ確証はない。まず侵蝕体が現れ、続けざまに崩落が起こった。人為的なものだと考えずにはいられないわ

最悪の事態を想定して備えましょう。今一番の問題は外との連絡が途絶えたことです。ここでキャンプを設営し、しばらく駐留する準備が必要かもしれません

私がしっかりやるわ。救援中、要救助者の心理状態に気を配るのも、私たちの基礎訓練課程のひとつなの

それに、悪いニュースばかりじゃない。シェリルが坑道内部の通信システムを見つけたの。送信機も受信機も使用可能な状態よ

坑道深部の通信を確保して、技術スタッフとノルマン研究員を一緒に通信装置の改造作業にあたらせ、空中庭園との連絡が回復できないか試す予定よ

了解

空中庭園

ドゴッ――

鈍い音とともにハンマーが叩きつけられ、会議室のテーブルが凹んだ。セリカが身震いしたのはその行動への驚愕か、今後の損害請求書への恐怖かはわからない

落ち着けカレニーナ、大事に臨む時こそ冷静になれ

落ち着けだァ……?オレたちの救援プランはすでに第3案まで出してるってのに、まだ落ち着けって?空中庭園は一体いつになったら工兵部隊を介入させる気だ?

ムチャはしねえ。工兵部隊は坑道の状況に応じて、外から慎重に作業する。安全は保証する、信じてくれ!

問題はそこではないんです。焦るのはわかりますが、あと1時間……もうすぐですから、なんとか我慢してください

もう5時間も[player name]からの連絡がないんだぞ。バカ正直に規則通り、消息が途絶えて6時間経過するまで、一切動けねえのかよッ!

気持ちはわかりますが、申請にも準備にも時間がかかるんですよ

この手の事故は時間勝負だろうが、どうして……!

通信障害なのか事故なのか、まだ確定できないからよ。坑道はとても複雑な場所だから、一定の待機は必要だわ

無闇に行動すると、状況を更に複雑にしてしまう恐れもある。単に[player name]が通信エリアを離れただけかもしれないし

ハァ?通信エリアを離れた?じゃなくて、どうしてお前まで……

ドールベアは激怒するカレニーナに構わず手元のキーボードを素早く叩き、最後のキーをポンと押すと、椅子をクルリと回してセリカに向き直った

だけど、工兵部隊の任務にもウォームアップが必要よ。もし大した混乱じゃないのなら、今日は早上がりか代休にしてもいいんじゃない。どう?

…………

セリカは端末が表示した入金額を見て口をつぐんだ。テーブルを20卓買っても余るほどの金額だが、それより重要なのは、その口座は公にされていないはずという事実だった

セリカは思わずウィリスを見た

参謀総長……

ウィリスは眼鏡を外し、目頭を揉みながら仕方なさそうに言った

行っていい、行動はくれぐれも慎重に

聞こえた?行動は慎重にね。まだ許可証はもらえてないけど、すでにスペースポートで準備させているから

いつものエリアコードよ、工兵部隊専用輸送艦がそろそろ点検を終える頃だわ。なるべく早く戻ってよね

やっぱドルベは頼りになるぜ……

カレニーナの言葉の後半は、ハンマーが床にぶつかる鈍い音に掻き消された。風のように飛び出していった彼女の後ろには、真っぷたつに割れたタイルだけが残されていた

手前味噌ですけど、多めに振り込んだのは先見の明でした。追加で床の弁償費用の必要はないですよね?

ふっ…………

ウィリスは前に出ようとしたセリカを手を振って止め、ゆっくりと腰をかがめて、カレニーナが落としたハンマーと床の破片を拾い上げた

君の先見の明とやらは、これだけじゃないだろう。鉱井で何が起きているのか……わかっていたのか?

私はハッキングの専門家であって政治家じゃないので。たいした陰謀や憶測は持ち合わせません

ドールベアは肩をすくめ、目の前の操作システムを閉じた。画面が閉じる直前に通信リストの中、よく知っているアイコンにチラリと目をやった

ただ私は、ノルマンが関わることには何かしら問題がある、そう思っただけです

鉱井深部

内部ホール

皆がキャンプの設営に忙しくしている中、ブリギットはひとり、トロイを連れて隅の方へやってきていた

呼び出したのは問題が起きたから?それとも私も容疑者リストに載ってるんですか?あら……電解液疑似酒。しかもビール味ですね

トロイはブリギットから電解液の瓶を受け取ると、軽く瓶を揺すってラベルをじっと見たあと、すぐにブリギットに返した

やめておきます。このろくでもない場所にどれだけ滞在するかもわからないし、物資は節約した方がいいでしょ

…………

ブリギットは複雑な表情でそれを受け取った。普段は竹を割ったような性格のブリギットだが、何も様子が変わらないトロイを見て、どう話し始めたものかと迷っていた

ああ……私は以前、あなたと一緒にこれを飲んだことがある?

えっ?どうしてわかるの……

トロイは両手を開いて「さあね」というジェスチャーをすると、そこら辺にあった石に腰を下ろし、自分の頭を軽く叩いた

あなたって見ててわかりやすいから……というか、隠す気もなかったでしょう

私をひとりで呼び出した理由は、恐らく私がノルマンに所属しているからだけじゃなく、私が意識海の損傷で記憶を失ったことも関係している。そうですよね?

ええ、その通りね

その言葉を聞いて、ブリギットもあれこれ考えるのをやめて、トロイの隣に腰を下ろした

あの時も私たち、ここにいたの。鉱場内の別の坑道だけどね

ブリギットの言葉を聞いて、トロイの思考が一瞬ぼんやりし、視覚システムと聴覚システムが僅かにブレを起こした

ブリギット

はい

ジョリーン

はい

トロイ

……

トロイ!

トロイ!

……はい

ブリギットが何度か呼びかけたあと、ようやくトロイは何か考え込みながら、ぽつりと返事をした

何か思い出したの?何度呼んでも返事をしないんだもの

いえ……ただボーッとしていただけです

なぜかはわからないが、トロイは心配そうに自分を見つめるその視線を避けたくなった

会話では探り合っているにもかかわらず、目の前の人物はなおも親切に接してくる

そういえば、なぜこんな仕事を受けたのだろう?自分のモットーは1日でも長くダラダラと暮らすことで、任務など何より嫌っていたはずなのに

……死人も目をつむるほどの眩しさね

えっ、今何て言ったの?

……さっきの飲み物のお礼に、本音で話します

トロイは不意に立ち上がり、パンパンと服の埃を払うと、ブリギットから少し距離を取った

確かに、ノルマンからアンジェに協力せよと任務を与えられました。そして、条件が整えば先に資料を送るように、と

でもそれは強制ではなく形式的にそう指示しただけで、任務を受けるかどうかは私の自由だとはっきり言われました

つまり……

つまりも何も。飲み物の対価としてはこのくらいでしょう、私に言えることは言いました。もっと知りたいなら、アンジェを調べることですね

一応私は彼女の仲間なんで、彼女が逃げたいと言えば、どんな状況になろうとあなたには連行させません

トロイは皆の方へと歩き出し、腕を上げると、振り返ることなく背後にいる存在に手を振った

それじゃあ、太陽さん。アンジェを誰かにしっかり見張らせておくことですね