Story Reader / 叙事余録 / ER06 薄明射す闇塔 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER06-4 コンスタンティン

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空中庭園

支援部隊

では、支援部隊の規則の復唱を

戦場における要請を正しく把握し――

正確な連携、正確な保護、必要な支援を行い――

如何なる希望も放棄せず――

疲れ切った支援部隊の隊員たちがビシッと姿勢を正し、部隊規則を復唱している

……早々にまた新しい任務につくなんて、疲れて死にそうだ

コンスタンティン鉱場で大きな騒ぎがあったとか。そうじゃなきゃ、こんなに大勢の隊員を動員しないでしょう

ただの鉱場トラブルだろ……それなら執行部隊の仕事じゃないか?

それが、タンタルの鉱場なの。任務情報では、内部で突如パニシングが発生したらしいわ。地下に複数あるノルマングループのタンタルラボが、大きな損害を受けたんですって

でもパニシングの爆発はずっと前のことなのに、どうして今になって急に報告されたのかしら。地下内部がどうなってるのか、誰にもわからないし……

救援保護と開拓の両方に関係する任務だし、その上執行部隊のほとんどは地上の侵蝕体の掃討で手一杯。それで私たちに任務が回ってきたのよ

ほら、あの新入りの茶髪の子……普通は訓練キャンプを修了したばかりなら、任務には参加できないはずでしょう?

今回は緊急任務だし、彼女の家族が昔、コンスタンティン鉱場崩落事故の救援に参加したらしくて、隊長は彼女の任務参加申請を特別に許可したって……

人混みの中で、ブリギットはキョロキョロと辺りを見渡した

ブリギット……こっちよ!

ジョリーン!どうしてここに?執行部隊に転属申請したんじゃなかったの?

特別な状況でもない限り、部門間の配置換えは申請許可まで多少時間がかかるの

ブリギットが今回の地上任務に参加申請したって聞いて……私の戦闘力はあなたほどないけど、支援部隊の仕事なら少しは詳しいから……

じゃあ、また一緒に戦えるのね!

ええ!それに、トロイ教官も一緒よ!

トロイ教官?教官もこの任務に?

さっきあっちで見かけたのよ……ほら、あそこ

指さされた青い髪の構造体は、支給された武器をいじっていた

ブリギット

トロイ教官!

……この目立ちすぎる髪の色、その内変えなきゃ

手短に準備を整えると、全ての物資が輸送機に積み込まれた

任務指示に従って支援部隊は数チームに分かれ、コンスタンティン鉱場の内部に入ることとなった

当然、トロイ、ブリギット、ジョリーンの3人は同じチームに配属された

……つまり、あなたが空中庭園に来るまで、コンスタンティン鉱場からは納得できるような説明はなかったってこと?

……ええ。救助員の就業規則によれば、救助員が事故に遭った場合、現場責任者は事故報告書を提出する必要があるの

だけど私が空中庭園に入って、支援部隊の構造体として質問書を送るまで、彼らは何も答えなかった

考えるまでもないでしょう、彼らは何か大きな秘密を隠してる。それが明るみに出ると、「構造体に調査される」以上の損失をこうむることになるからよ

フン、腹黒い連中だこと

私は今回のコンスタンティン鉱場の「事故」は、以前の「崩落」と同じ原因じゃないかって疑ってる。ただし、今回は事態を抑え込めなかったようね

絶対に両親の手がかりを見つけてやるわ。このまま何もなかったかのように、あの事件を暗闇に埋もれさせる訳にはいかない

うん!ブリギットは優秀だもの、きっとできるわ!

ジョリーンは両手をギュッと握り、ブリギットを励ました。トロイの顔は輸送機の影に隠れ、その表情はわからなかった

コンスタンティン鉱場は、ノルマングループが初期に投資した鉱場のひとつだ

構造体技術が発展して以降、彼らは次第にこの場所を重要視するようになり、地下に巨大な塔を建設した

一番の古株の鉱員でさえ、坑道内の全ての分岐点を熟知していると言い切る自信はないだろう

コンスタンティンの住民全員が避難させられたため、支援部隊は最も古典的な方法を使って、手探りで救援と調査を行うしかなかった

崩落と事故のせいで坑道内の電力はほとんど断たれ、支援部隊隊員たちは、前方を照らす手持ちのサーチライトだけが頼りだった

隊員たちは1列になり、はぐれないように救援用のロープでそれぞれの体を繋いでいる

地下深くへ進むにつれ、地底の空間はどんどん広くなった。数体の侵蝕体を始末したあと、彼らはコンスタンティン鉱場から渡されたルートマップに沿ってゆっくりと進んだ

ブリギット

はい

ジョリーン

はい

トロイ

トロイ

……

トロイ!

……はい

何度か名前を呼ばれて、ようやくトロイの気怠そうな返事が聞こえた

地下では通信が途切れがちになるため、最も原始的な点呼で全員がいるかを確認するしかない

……血の臭いがする。ほらここ

サーチライトで照らされた範囲に生存者の姿は見えず、ただ凄惨な血痕だけがここで起こったであろう惨劇を示していた

この痕跡、侵蝕体によるものではないみたい……

ジョリーンはしゃがみ込み、地面に残ったまだ乾ききらない血痕を注意深く観察した

揉み合ったような血痕に銃痕、それからこっちは……明らかに引きずった痕がある

誰かが死体を移動させたんだわ

……やっぱり、この場所には何かある

移動した方向がわかるか?血痕がまだ新しいのなら、生存者がいるかもしれない

向こうです

彼らはジョリーンが示す方向へ急いで向かった

計測器がピピピと鳴り、30分が経過したことを告げた。支援部隊の隊員は歩を緩め、再度点呼を行った

トロイ……

構造体の声が、坑道の中で不気味に響いた

……トロイ、返事しないなら勤務評価を減点するぞ

トロイ!

発声モジュールから尖り切った声で呼びかけても、返事はなかった

ト……トロイが……トロイがいない!

……ロープは?まさかはぐれたのか?

ロープ、ロープ……

バタバタと焦ったように隊員は救援ロープを手繰り寄せた。表情にサッと緊張が浮かぶ

ロープが……切られている!

サーチライトを点けろ!

隊員は節約のために明るさを最低限にしていたサーチライトを最大限に明るくし、地面を照らした

循環液の痕跡……ま、まさか……トロイは……!

違います!落ち着いて。実戦能力の高いトロイ教官を、音も立てずに殺せる者なんているはずがない

何か変だわ……トロイ教官の捜索を申請します

却下する。君はまだ新人だ、危険すぎる。もし部隊を離れたら、どうなるかわからないんだぞ

道すがら坑道の脇に蛍光マークを残していますし、地図の助けもあります

20分!20分だけください。その間にトロイ教官を見つけられなかったら、すぐに部隊に合流します

冗談じゃない

わ、私もブリギットと一緒に行きます

……君が?

私は強くありませんが、ここまで通ってきた道を見分けることや……ブリギットを連れて皆さんに合流することくらいはできます……

……わかった

20分、20分だけだぞ。もし20分でトロイを見つけられなかったら、すぐに合流するんだ

はい!

一方トロイは、部隊から支給された小さなサーチライトも点けず、まるで平地を歩くように暗く険しい坑道内を進んでいた

どれだけ仕事が嫌でも「出勤」しなければならない。支援部隊に疑われないよう、秘密裏に脱出できることを願うばかりだ

最終的に戻った時の理由は……ラボの実験体に連れ去られて、命からがら包囲を突破してきたとでも言えばいい……彼女たちなら信じるだろう

万が一、ブリギットが探しに来たら?いや、探しに来たとしても、ラボには入れないはずだ。ラボには認証システムがある……

……乱暴ね。どうしてこの近道を爆破するのよ

彼女は崩れた坑道を避けて別の道へと進み、側面の操作パネルの埃を払って非常電源のボタンを押した

システム

――認証成功

よかった、役立たずのバカどもが作った予備電源も少しは役に立つようね

岩の背後に隠れていた大きな扉がゆっくり開くと、彼女の前に暗い廊下が現れた

あーあ、同僚たちとの友情を無視する冷血漢とか言わないでよね……

だって黒野はお金を払ってくれるから

もう一度ため息をつくと、彼女は生命反応のない複数の死体を避けて進み続けた

ここはもう綺麗に片付けたはずなのに、どうしてまた私が片付けに来なきゃならないのよ……ん?

ラボの片隅から、微かに物音が聞こえた

見落としたものがまだある?

――やめろ!【規制音】!私だ!

チッ

トロイは不満の声を上げつつ、ハイドに向けた銃口は下ろさなかった

なぜ――まだここに?

【規制音】、黒野のやつら、入ってきた途端に一斉掃射を始めやがって。私はすぐに隠れたから助かったが

は、早くここから連れ出してくれ。異形コポリマーの研究資料は全て手に入れた。約束する、私がいる限り君も安全……くっ!

「パン!」という音とともにトロイの銃口から硝煙が立ち昇り、ハイドは驚愕の表情を浮かべて肩の傷を押さえた

そんなもので命乞いを?それに……どうして私があなたを信じるのよ

ふーん……もしかしたらこれ、神さまがくれたチャンスかもね

この任務を引き受けた時には、こんな幸運があるとは思いもしなかったけど

【規制音】!トロイ!忘れるな!もし私がいなければ、お前みたいな【規制音】はとっくにあの死体の山に埋もれていたんだ!

そう?それなら、その方がよかったかもしれない

銃をリロードし、彼女は再びハイドに狙いをつけた

お、お前は私を殺せないはずだ!君……君の機体を改造したのは私だ!私が死んだらそっちも無事では済まないぞ!

ねえ……あなた、まだわかってないのね

生きるも死ぬも、私にとって何も違いなんかないのよ?

生きていたって……こんな無意味で酷い仕事を押しつけられる。そして何度も機体を解体、改造、実験されるだけ……死ぬ方がよっぽどマシな選択かもね

だから……一緒に死んで

彼女はほとんど微笑んでいた

や、や……やめろ――!

????

トロイ教官!何をしてるんです!

銃声が響くより先に、重い足音が廊下の外から聞こえてきた……

……【規制音】、あの役立たず連中、どうしてあっちにも穴を開けたのよ……

ラボに眩しい光が差し込んだ

このラボの入り口は本来1カ所のみだ。ブリギットが認証システムを回避して入れた理由はひとつ――黒野の兵士が誤って爆破し、新しい通路を作ってしまったからだ

ブリギット

銃を下ろしてください――その男性は誰です?なぜ彼に銃を向けているんですか?

トロイ

ムカつくからよ

それより、あなたこそ本気で私に銃を向けるつもり?私、教官なんだけど

そう言いながらも、トロイは思わずハイドに向けていた銃を下ろしていた

彼女としても、今はまだ空中庭園に本当の身分を知られる訳にはいかない

空中庭園の救援か!た、助かった……!わ、私はここでタンタルの研究をしていたノルマンの研究員だ

ハイドは救世主を見つけたように声を上げた

静かに

あなたは本当にここの研究員ですか?

そう言われて、地面にへたり込んでいる男性の視線が左右に泳ぎ、明らかに何かを隠している様子だった

も、もちろん!こ、これが身分証だ……

彼は慌てて権限カードと身分証を取り出した

ふん、「ただの研究員」には見えないけど

「ただの研究員」って言うなら、外のあの死体の山をどう説明するのよ?

あ、あれは……

パニシングで暴走した構造体のせいだ!わ、私は関係ない……

へえ?本当に無関係なの?コソコソしているものだから、てっきり……

あなたが全ての元凶だと思ったんだけど……違う?

トロイは悪意を含んだ笑みを浮かべ、わざと「元凶」という言葉を強調した

そ、そんなはずないだろう?だが……この状況じゃ、君が誤解して私に銃を向けるのは……それも……理解はできる……

……

彼女の目には、この場で二人羽織のようなちぐはぐな芝居が繰り広げられているように見える。彼らは……本当に偶然出会ったのだろうか?

……いずれにせよ、この男性に問題があるとしても、支援部隊に処刑する権限はありません……トロイ教官、この行動は支援部隊の規則に違反しています

ブリギットは慎重にトロイの反応をうかがった

彼女は今の状況を正しく把握することができず、双方の言葉だけでどちらに問題があるのかも判断できなかった

最善の解決方法は彼らを空中庭園に連れ帰り、専門の担当者に判断を任せることだ

トロイ教官、銃をジョリーンにお渡しください

……どうぞ

彼女は自分の銃を無造作に投げ捨てた

今の状況がどれほど悪くても、これ以上悪くなることはない。任務は失敗してハイドは生き残り、更にブリギットに見つかってしまった

だが、解決策がない訳ではない。例えばラボの下にある爆弾を起動し、ここにいる全員をまとめて爆破してしまえば万事解決だ

だが……彼女たちには何も非がない

心の中で自分の優柔不断を呪いながら、トロイは一歩下がってため息をついた