リアルタイム救援シミュレーションシステムが終了すると、訓練場には息を切らしているブリギットが立っていた
――ブリギット、さっきのはどういうつもり?
救援任務を遂行しました!教官!
……そんなことは訊いてない
複数救援の基準に則った行動ではなかったわよ
支援部隊の複数救援規定では、生存率の高い人々の安全を優先的に確保し、状況に応じて取捨選択をする。あのようなやり方ではない……
自分には余力があったので、もう一方の難民も救助できると判断しました
判断?あなたの頭がそのプロセスを判断したとは思えないし、そんなことを考える時間もなかったはず
……ハハ、お見通しでした?
茶髪の少女は気まずそうに頭を掻いた
もしこれが実戦で一連の行動にひとつでもミスがあれば、死ぬのは生存率の低い難民だけじゃ済まない
絶対に認めたくはなかったが、ブリギットが身を挺して危険を冒すのを目にして、トロイは珍しく緊張を覚えていた
お言葉ですが、私は全員を無事に救出することができました
母が言ってたんです。危機に直面した時にすべきことは、選択ではなく、まずは危機的状況を解決することだと
それであなた自身が命を落とすことになっても?
自分が命を落とすことになってもです
……と、かっこいいセリフを言いたいところなんですが、実際にはそんなことを考えてる暇なんてなくて、勝手に体が動いちゃうんですよね
……
トロイはまたため息をついた
支援部隊に来てからの数日で彼女がついたため息の数は、過去1年分に相当するほどだった
誰だって「取捨選択」される側にはなりたくないでしょう?だから私は自分がまだ動ける限りは、困っている人たち全員を救う方法を考えます
それが、私自身が決めた「救助員の規則」なんです
目の前の少女は、まったくひるむことなくトロイをまっすぐに見つめていた
……好きにすれば
ブリギットの考え方を変えることはできないが、それでも構わない。いつかこの世界が自身のやり方で、このあまりにも眩しい少女に教訓を知らしめるだろう
少し陰鬱な気持ちでそう考えながら、トロイはぞんざいにノートに点数を記入した
支援部隊新兵キャンプの中で、唯一の満点だった
え……ええっ!?すごい!
これが……普通の構造体が歩く感覚なの!?
気分はどう?
つまり……もともと私の実力が足りないせいじゃなかったんだ……
ブリギットの助けを借りて、ジョリーンはようやく勇気を振り絞り、機体調整を担当するスタッフに自分の過去について説明した
そうでしたか……ええ、確かに、不治の病を患ったあとに適応できる人は多くありません。そういった部分について我々の微調整が不十分でした……
スタッフはテストの後、ジョリーンの一部の機体パーツとバランスパラメータを再調整した。訓練キャンプに戻ってからのジョリーンの訓練成績は、飛躍的に向上した
……私の潜伏任務に役立つとは思えないけど……まあいいわ
彼女は暗がりにじっと立ちながら端末を適当に数回スワイプし、訓練場で互いに助け合うふたりの少女を見つめていた
ちょっと、その動きはそうじゃないでしょ……
我慢できず、彼女は思わず声を出して注意した
うーん……こうですか?
そうじゃなくて……もういい、私が手本を見せる
トロイは仕方なさそうに端末を置くと、面倒くさそうに光の中へと歩いていった