空中庭園
支援部隊
ここが支援部隊か……あっ!ごめんなさい!大丈夫?
目の前の訓練場をよく見るためにゆっくり後退していた彼女は、背後にいた資料の山を抱える女性構造体にうっかりぶつかってしまった
い――いえいえっ――謝るのは私の方です、ごめんなさい!
ぶつかった女性構造体はずれた眼鏡もそのままに、お下げ髪が靴に触れそうなほど深く頭を下げた
私がぶつかっちゃったのよ!
いえ!私が前を見ていなかったから――
ブリギットはずっと頭を下げている女性構造体を支え起こし、床に散らばった資料を手早く拾い集めた
さあ、これでお互い知り合えたわね、よろしくね!私は支援部隊に配属されたばかりの……構造体、ブリギットよ!
わ、私はジョリーンです……
おずおずと眼鏡をかけ直したジョリーンは資料を受け取り、ためらいがちに話し始めた
私は……支援部隊の構造体です。ぜ、前回の任務中にミスしてしまって、今は再訓練中で……
話すうちに、彼女の目に大粒の涙が浮かんだ
もう少しで試験をパスして、執行部隊に配属されるはずだったのに……
ちょ、ちょっと、いきなり泣かないで!
目の前の構造体の涙にどう対処していいかわからず、ブリギットは慌てた
あっ、ご、ごめんなさい、突然こんな話……
ジョリーンはズズッと鼻をすすり、なんとか落ち着こうとした
誰だって自分は絶対ミスをしないなんて保証できないわよ――私だって、車両の燃料タンクを何個も爆発させたし!
少なくとも、今はそれを改善するチャンスがあるじゃない!
彼女はドンドンと力強くジョリーンの肩を叩いた
……ええ、そ、そうですね!
ただの慰めの言葉にすぎないとわかっていても、そんなふうに彼女に話しかける人は長い間いなかった
――足手まとい
彼らは彼女をただそう呼んだ
構造体に改造される前の、長年の不治の病が彼女の運動神経の一部を蝕んだのかもしれない。攻撃型構造体に改造されても、任務の際の彼女はいつも半歩遅れてしまうのだ
ただひとりだけ、彼女を固く信じ、肩を並べて戦える日が来ると信じてくれた人がいた
ジョリーン、自分を信じるんだ。いつか執行部隊に入って、僕と一緒に……
ジョリーン……ジョリーン?
茶髪の構造体の声が、彼女を回想から引き戻した
ご、ごめんなさい……
彼女は反射的に謝った
もう、なんでもかんでもすぐ謝らない。それ、いい習慣とはいえないわよ
訓練キャンプから集合の連絡が来たから、先に行くわね!
わ、私も一緒に行きます!たくさん訓練に参加して、試験に合格しないと……
それならちょうどよかったわ!一緒に行きましょう!
こうして、彼女は支援部隊に入って最初の友人を得た
ほら、これが届いたばかりの資料。全部あなたに渡しておくわ。この新人の訓練データはどれもなかなかのものよ……ん?この子のパワーデータ、どうしてこんなに高いのかしら?
配属部隊は本当にここでいいの……?トロイ、ちょっと見てくれる?
彼女は隣にいる新しい同僚をとんとんとつついた
この構造体は数日前に支援部隊へやってきたばかりだ。この突然の配属には不満を抱く者もいたが、彼女の実力は誰も疑いようがなかった
そうはいっても隊長は慎重に、余計な問題が起こらないよう彼女には新兵教育の仕事だけを任せていた
はい?
トロイはしぶしぶテーブルの側へと移動した。隊長の指先を追うと、「ブリギット」の5文字が目に飛び込んできた
彼女自ら支援部隊に志願してきたって……ここに書いてあるじゃないですか
あら、本当だわ……なるほど、悪くないわね。確かに支援部隊にはそういう人材が必要よ。もし全員がジョリーンみたいな子ばかりだったら……
彼女は仕方ないというようにため息をついた
じゃあ、今回の新人たちもよろしくね
……できる限りやってみます
青い髪の構造体もまた、ため息をついた
あの地獄のような場所からやっとのことで生きて逃げ出し、ひと息つけるかと思いきや、また別の地獄へと送り込まれるなんて……
しかもこの地獄、逃げ出すのが前の地獄より遥かに難しい。何しろ、彼女の機体は大気と真空両用の宇宙船ほど高性能ではないのだから
はぁ~……
彼女はもう一度長いため息をつき、ぶつぶつと呟いた
これは追加料金が必要ね……
……え?何て言ったの?
いえ……いい素質がありそうな新人だな、と言っただけです
彼女は営業用の作り笑いを浮かべた
支援部隊の訓練プログラムの構成は完璧で、支援部隊の規則に詳しくないトロイでも、プログラムに従って訓練を進めるのはそれほど難しくなかった
……またあなたなの?
地面に力なくへたり込むジョリーンの傍らで、トロイはため息をついた
このままじゃダメだわ……目立ちすぎる……
トロイは眉をひそめながらジョリーンの訓練データをめくり、この極端に運動能力の低い「攻撃型構造体」をどう訓練すべきかしばらく頭を悩ませていた
一応「プロのスパイ」に合格したとみなされている以上、教官として自分の名前がジョリーンとともにブラックリストに載ることは避けたかった
ジョリーン!大丈夫?
ごめんなさい!み、皆の足を引っ張るつもりはなくて、ただ、その……
……ごめんなさい!
うーん……なんだかバランスシステムの制御に問題があるっぽいわね。このままじゃダメね……
教官、私をジョリーンとペアにしてくれません?私がリーダーになります!
……え?
トロイは立ち上がってブリギットをまじまじと見つめた
もちろん彼女は支援部隊の新人担当教官になった初日にはすでに、この茶髪の少女を認識していた
私の意見としては、まずは自分のことだけをしっかりやった方がいいと思うけど。このままじゃ、あなたの平均点まで下がるわよ
それはあまり関係ありません、教官
私にはジョリーンを助ける余裕があります。それに、彼女は支援部隊で最初にできた友人なんです
ね?ジョリーン!
茶髪の少女のあまりに眩しい笑顔に、ジョリーンはようやく泣きやむと、コクンと頷いた
ありがとう、でもブリギットに迷惑はかけたくないし……
いいから!友達の好意を簡単に突っぱねないの!
ブリギットは手を伸ばし、地面に座り込んだままのジョリーンを引っ張り起こすと、彼女の服についた埃をパンパンと払った
教官、さっきジョリーンが行っていた救援任務、私にデモンストレーションさせてください!
……
救援シミュレーションシステムに使用するのは、システム付属の支援部隊のテスト用固定機体よ。あなたの機体は型番が違う。一度で適応できればいいけど……
彼女は、もう一度支援部隊のリアルタイム救援シミュレーションシステムを起動させた