今まで負傷なら数え切れないほどしてきたが、今回のような無力感は初めてだった
頭はまだしっかりしているが、負傷した左肩から痺れが広がり、左半身からゆっくりと力が抜けていく
もし本当にノクティスの言う通りなら、「毒」はやがて内臓にまで回り、心臓の動きを止めるだろう
死が一歩、また一歩とこちらに向かってくる感覚は……どんなものよりも恐ろしい
今倒れたら、町長とこの町が……更には空中庭園も……危険に陥るかもしれない
大きく息を吸い込み、全身の力を振り絞ってなんとか立ち上がったあと、端末でマックスに警告メッセージを送信した
それだけをするのにどれほど時間がかかったのだろう。だが壁の時計が刻むカチカチという秒針の音が聞こえるということは、まだ意識がある
ノクティスと別れる時、彼に無理をするなと忠告したのに、油断したせいでまさか自分がこんなことになるとは……
もはや立ち続ける気力もなく、バーカウンターにもたれかかりながら、ずるずるとくずおれた
ノクティスに正々堂々とケルベロスに戻れなんて大口を叩いていた自分が……また彼に仲間が死ぬ悲しみを与えてしまう……
っコラ!てめえ、何もう諦めてんだよ!!!
力を失った体が突然持ち上げられた。激しく動いたせいで熱くなった彼の体温が左半身に伝わってくる
畜生が……!アンタをひとりにするんじゃなかった……
ノクティスは片手でカウンターの上にある物をなぎ払い、臨時の病床を作った
傷口は深くない……血も止まってる……じゃあ……
ノクティスの瞳孔が急激に縮み、命を脅かしているのが傷ではないことに気付いた
「毒」……あいつの「毒」だな?
ああ、クソッ……!やつの毒は解毒できねえんだよ!!
ノクティスは焦って歯噛みしている。彼は応急手当の方法すら知らないはずだ。ヴィラからその知識を学ばなかったことを今猛烈に後悔しているのだろう
違う違う……なんとか空中庭園に戻らねえと!そうだ、空中庭園だ!!俺を捕まえるにしたって、みすみす指揮官を死なせる訳がない……
目の前にいる誰かを助けようと、こんなに慌てている彼を見るのは初めてだった
ああ、何でも言え!
バカか!アンタを放っておけるかよ……
こんな状態で、なんでそんなことを考えてるんだよ!
マックスへメッセージを送った端末をノクティスに渡した。この端末なら彼らと連絡がつくはずだ
今は指揮官という身分ではないが、ただのバーテンダーだって、身を挺する時があるはずだ
クソッ……わかった!
約束しろよな。俺が戻るまで死ぬのは待て!じゃねえな……俺が戻ってきても死ぬなよ!絶対に助けるから!
ノクティスはそっと手を離し、最後にこちらをちらっと振り返ると、最も自分が必要とされている場所へと向かった