なんで、どうしてだよ……来るな!!!!!
薄暗い街角でデモンは体ごと持ち上げられ、壁に叩きつけられた
もう逃げねえの?お前、逃げるの得意ワザだろ……
デモンは必死にもがいているが、今回ばかりはもう逃げられない
このクソが……離せ!!!
悪ぃ悪ぃ、俺様は一度噛みついたら絶対に離さないんでね
は、ははは、私を捕まえたってお前は粛清部隊には戻れない……!彼らはお前よりも私を信じるはずだからな!
まるで狂犬がぐわっと牙をむくように、ノクティスはニンマリと笑った
粛清部隊に戻ろうなんて誰が言った。それに俺はもう粛清部隊隊員じゃないぜ……町のチンピラだ。俺がお前みたいなやつをどうすると思う……
ノクティスは更に力を込めてデモンを壁に押しつけた。あまりの力に胸元で変な音が響いたかと思うと、デモンの人工筋肉から意識海へ激痛が走った
ぐっああああ……
お前の手足をひとつずつゆっくりもいで、バラしてやるかな……空中庭園正規軍の構造体パーツは貴重品だしな……
ああもちろん、お前の痛覚モジュールはそのままでな。もし意識海が偏移したら大変だろぉ?
最後は構造体の生命維持装置に人工脊髄、脳ミソの3点セットを電解液疑似酒に漬けこんで、豪華デモン酒を造ってやるよ
デモンはこの町の全てを熟知している訳ではないが、ノクティスが何倍にも誇張して話した処刑のやり方を聞いて腰を抜かした
ヒィ、たたた、助けて……
ノクティスは力を緩め、デモンはやっとひと息つけた――文字通り、ひと呼吸だけだったが
どうしてだ?相棒?
無駄だな。粛清部隊のやつら、口だけはバカみてえに固い。殺してからこいつのメモリーを調べる方がよっぽど楽だ
ノクティスは再びぐいっとデモンを押しつけた。あまりの力にデモンの体が壁にめり込んだ
ま……待った……殺さないでくれ!!!何でも!何でも言うから!!!
パニックに陥ったデモンは、構造体のメモリーを読み取るには所属指揮官の許可が必要なこと、つまり粛清部隊なら更にニコラ司令の許可も必要なことすら忘れていた
言え、お前は実際のとこ、どこの誰なんだよ!
私は……オブリビオンのメンバー……
上着のポケット、左の……
ノクティスはポケットからオブリビオンのバッジを取り出した。それは確かにオブリビオンのキャンプで見た物と同じだった
ワタナベ……ハッ……誰があんなやつの命令なんか……
ワタナベじゃない?じゃ一体誰だ……
そうだ。私も彼の正体は知らないが、彼なら……我々を率いて、空中庭園に反撃できる……
マジで?そいつはスゲーな。で、そのオッサンは今どこにいる?お前を助けてくれるのか?
ノクティスがデモンのすぐ横の壁に拳をぶち込むと、石が飛び散った
うわあああああ!!!!
す……数日後……
数日じゃねえ、はっきり言えやオラァ!
3日!3日後です!我々先遣部隊が異合生物を誘導して町を攻撃させ、そして……
そ……そして……
デモンは急に黙り込んだ。喉から異様な声がしている
死んだふりすんな、コラ!一生殴られてえのか……?
ノクティスは更に手に力をこめたが、デモンの状態は明らかに異常だった
おい……!
――――――――!!
真っ赤な血――正確には循環液が、デモンの口から溢れ出た
おいおい、手加減はしてたって!!
ノクティスは慌ててデモンの体を調べた。しかし外傷はひとつもないのに、早くもデモンの生存兆候は消えていた
違う……怪我じゃねえな、こりゃ「毒」だ!
構造体に毒が効くなんて初耳だ。それに誰がデモンに毒を盛ったというのだろう?
突然、ノクティスは何かに気付いて猛然と道を走り出した
ナイゼルの野郎――――ッ!!!
ノクティスは誰もいない場所に向かって狂ったように叫んだ
出てこいやァッ!!!!!
落ち着けだァァァ?落ち着けるか、タコッ!あのクソ野郎め、ここにいやがるんだ!デモンはあのボケにしか使えない「毒」を仕込まれた!
握りしめた拳がバキバキという音を立てた。ノクティスは奥歯を噛みしめ、ナイゼルが隠れているかもしれない物陰を睨みつけた
ナイゼルが……まだ生きてる……やっぱ生きてやがった……今、俺の前でデモンを殺しやがった!!
もし本当に近くに敵が潜んでいるなら、ノクティスの状況はとても危険だということだ
いや、ナイゼルは絶対にここにいるんだよ!
ぐぐっ……
ノクティスは低い唸り声をあげたが、ついに引きはがすようにして足を動かすと、その場を離れた
ノクティスの姿が完全に消えてしまってから、焚火の灯りが届かない場所にある人影が姿を現した
……