Story Reader / 叙事余録 / ER02 朽腐る灯 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER02-14 長広舌

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昇格者!?

戦闘から戻ってきた構造体がやっと支援を呼んできた

俺らの拠点が襲撃されたのは、お前のせいか??

いや、違う!僕は今来たばかりだ!

僕がいた09号医療エリアが襲撃を受けたんだ。赤潮に囲まれて通信も断ち切られた。皆は防護服がないと撤退できないから、僕が――

誰が昇格者の言葉を信じるかよ!

僕は昇格者じゃない!ただ……

僕は今、自分がどんな状態なのか、自分でもわかっていないんだ。警戒してもいい、だけど、どうか僕の話を信じてくれ!

09号医療エリアにはまだ多くの人が取り残されている。浄化塔の出力には限りがあるから、このままでは彼らが危ないんだ

俺らをそこに行かせてひとまとめに殺すつもりだろう!

一体どうすれば信じてくれるんだ??

信じる訳ないだろうが!!

ノアンに説明するチャンスも与えず、構造体たちはそれぞれの武器を振り上げ、ノアンに向かってきた

しかし彼は体をかわすばかりで、何度か体をかすめた刀や銃弾に傷つきながらも、一切反撃をしなかった

この、逃げるな!

女性構造体が崩れた石の階段から空中へ飛び上がり、勢いをつけてノアンに刀を振り下ろした

逃げてばかりか!

僕は09号医療エリアの人たちを助けるためにきただけだ

嘘ばっかりの昇格者め!

違う……!

次の言葉を待たずに四方八方から銃弾が撃ち込まれ、ノアンは後退するしかなかった。じりじりと構造体たちに包囲されつつある

殺れ!

その命令で廃墟に潜んでいた構造体たちが一斉に姿を現し、ノアンの逃げ道を全て遮った

構造体たちに刺し殺されそうになった瞬間――空気中のパニシング濃度が急上昇した。ノアンの足下にびっしりと緋色の棘が展開し、構造体たちに向かって飛んでいく

危ないっ!

棘が最前列にいた構造体を突き刺すのを見て、ノアンはあわてて手でその棘を掴んだ。しかし棘はまったく制御できず、彼の手を貫通していった

……!

これでも昇格者じゃないっていうのか!

構造体は怯まずに再び武器を手にしてノアンを突き刺そうとした。しかしノアンの周りの棘はまるで引き絞った弓のように、今にも発射されそうな状態だ

ごめん、力をまだコントロールできないんだ。これ以上僕に近づくな!

お前、一体……

……こんなこと、やりたくてやっているんじゃない。それに君たちを傷つけたくもない

僕は支援を求めにきただけなんだ。09号医療エリアの人たちが赤潮に包囲されている。それだけは信じてくれ

女性構造体はそれには答えず、端末で通信要請を送った

どうだ?

彼の言う通り、09号医療エリアからの返事はない

もし罠なら、俺ら全員死んじまう

危ないと思うなら、他から支援を呼べばいい。相手する人数が増えれば、君たちひとりあたりの危険も減るはずだ

どこの拠点も今は大変なんだ!

離反者を調べにきた精鋭小隊が近くにいる。だが彼らの手が空いてるかはわからない

とりあえず連絡してみろ

……ありがとう

こいつはどうする?彼は……資料にある昇格者とは違うみたいだけど

精鋭小隊に任せるか?

ああ、あの人たちなら大丈夫だ。でもどう処理するかは、誰がくるかによるだろう

それなら、僕はここに残る。監視したいならしてくれ。僕は09号医療エリアが助かりさえすればそれでいい

…………

構造体たちは目を見合わせ、小声で相談し始めた

もう救援要請を送った。今から我々は救援隊と合流して09号医療エリアへと向かう

……ありがとう

お前を監視しても意味はないだろう。認めたくないけど、さっきの戦闘能力……もしお前が本気で私たちを殺す気だったら誰ひとり対抗できなかったはず

じゃあ、僕はここに残ることにする

…………

本当に信じていいのね?

ああ、信じてくれていい

…………

まだ多くの疑念はあったが、彼らは自身の安全のためにひとまず妥協した

あとは精鋭小隊に任せよう。すぐにくるはずだ

…………

構造体たちを見送ったあと、ノアンは体の周囲に残った赤い棘の集合体を見て考え込んだ

……僕は一体……

昇格者や授格者ではないとしても、自分の身に異常が起きているのは間違いない

皆の敵になんかなりたくない。もしこの力を制御できないなら、言っていた精鋭小隊に頼んで……

???

……待って

路地の奥から誰かの弱々しい声が聞こえた

惑砂?どうしてここに?赤潮をどうやって乗り越えたんだ?

ずっと帰ってこないから……心配で……

大丈夫、もう救援が向かってる。そして君はまだ僕の質問に答えていない

彼女はただノアンの手を心配そうに見つめるだけで、質問には答えないままだ

……その手の傷……

待って、こない方がいい。僕はまだこの棘をコントロールできないんだ。もしかしたら、僕は……

……昇格者?

…………

ボクを傷つけたいの?

そんな訳がない。ただコントロールが効かないんだ

それなら、コントロールしたいと思ってる……?

ああ

昇格者を探してみない?昇格者だけがその力をコントロールできるんだと思う

……やけに詳しいね?

離反した構造体をたくさん見てきたからね

どういう意味?君も離反者だったってこと?

彼女はそれには答えず、ただノアンの目をじっと見つめながらゆっくりと近づいてきた

惑砂、近づいたら駄目だ

大丈夫……ボクは傷つきはしない。それをコントロールできるから

彼女の言う通りだった。ノアンの負傷した手を彼女が握っても、棘は反応しなかった

……君は一体何者だ?教えてくれないのか?

うん、教える。でも……まずはこの傷口の治療をしないと

彼女は道具を取りだすと、青年の傷口を優しく治療した

この「異質」さを恐れないで。あなたがそれを受け入れて制御できるようになれば、傷つけたくない人に危害を加えることなんかないし、誰かを救うことだってできる

救う……?君と会った時、身の回りにいた君の仲間たちに一体何があったんだ?

彼らは……断ってはいけないことを断ったから、罰を受けたんだ

罰?

……いうことをきかない悪い子にはお仕置きがいるんだ

その言葉を耳にした瞬間、闇に葬られた時間の大河がほの暗く照らされ、少しずつ明るくなった。その微かな手がかりから記憶が流れ出し、全てがクリアになっていく

波のように記憶が押し寄せる中、彼は目の前の惑砂を見た。その顔に不安や困惑の表情がよぎり、やがてハッと気づいたように、事実を受け入れて腑に落ちた表情になった

惑砂、君は……

……うん?

言い淀んだノアンは、また数秒ためらってから、そのあまり穏当とはいえない質問を口にした

君は男、だよね?

…………

思い出したんだね?

ああ。あの時……僕を構造体に改造したのは、君だな?

うん……

どうして嘘を?……いや、違う

初めて君と会った時に、君は別に性別を騙った訳じゃない……僕が忘れていただけだ

惑砂は頭をのけぞらせて、憐れむように笑った

いや、重要なのはそんなことじゃない。ずっと僕たちの側に紛れ込んでいた昇格者は、君だったんだな?

うん、そう……あなたは自分をコントロールできないんじゃないか、ボクを受け入れないんじゃないかって心配で、ずっと側についてたんだ

ボクと一緒に帰ろう。あなたの「異質」さはもう、その体に根を生やして芽生えてる。次はその力の使い方を教えてあげる

…………

彼はまだ記憶に欠落があるのを思い出した――自分は昇格者に向かって頑として拒否していた。その理由を思い出せないまま今返事をすれば、「彼」の罠に陥る可能性がある

いや、やめておく。僕はまだ記憶を完全に取り戻していないし、君の話がどれだけ真実なのかも判断できない

昔のことを思い出したって、あなたにとってそう意味はないよ

僕の記憶だ。それは僕が判断する

じゃあ、仲間に囲まれて殺されそうになったことも……思い出したいの?

何だって?

あなたの記憶が消されたのは今回で4回目。前回も……ボクを受け入れなかったし、昇格者の力の制御もできなかった。そして暴走してしまって、人々の攻撃対象になった

あなたを守るため、ボクが彼ら全員を殺すしかなかったけどね

……どういう意味だ!?

彼らを殺すしかなかった、そのままの意味だよ。あなたは大量の死者を見ると、意識海が乱れるから……でもどうせこんなこと、覚えてないでしょ?

……君が何を言おうが……

それでも記憶を全部取り戻してから決めるっていうの?

そうだ

そう、前回も前々回も同じことを言ってたね。でも記憶を取り戻したって、あなたはいつも肝心の「答え」を言う前に、意識海が混乱するんだけど

でもまあいいや、どうしても記憶を取り戻したいなら、その願い通りにしてあげるよ

おいで、シュレック……

惑砂はゆっくり静かに手を差し伸べた

ボクはじっと辛抱強くあなたに寄り添うから……あなたがボクを理解し、本当の家族になる日まで、ずっと

ボクはじっと辛抱強くあなたに寄り添うから……あなたがボクを理解し、本当の家族になる日まで、ずっと