聞いたか?
聞いたも何も、もう噂になってるさ。道々、人に訊ねながらここに来たんだと。まさか今ごろ大魚に会いたいってやつが出てくるとは
しかも今回、大魚を探してるのは小さな女の子だってよ
誰であっても、決して大魚を探させるな
ってことは、また俺らの出番だな
忙しくなるな
いつものことさ
大魚に会うためには必ずここを通る。噂ではその娘はあと数日でここに着くそうだ
全ての出入口をしっかり見張るよう伝えろ。出会ったら、暗号で連絡しろ
はい!
うわあ、立派な町ですねえ
ジャスミンの香りが立ち込める町に、ある若い客がやってきた
蒲牢はタンクトップに首にタオルを巻いた労働者たちが熱い茶工房から出て、道の先へえんどう豆のスープを飲みに行くのを見た
道のあちこちでトントンと太鼓の音が聞こえた。改良されたレンガの壁も、その後ろから漂う酒の香りを遮ることはできない
労働者たちの後を追って路地を出ると、目の前には朝食を出す露店が数多く並んでいる
蒲牢は唾をゴクリと吞み込み、でんでん太鼓を振っている梅スープ売りの老人のもとへと歩いた
お爺さん、こんにちは。梅スープを1杯ください
老人は目を開け、蒲牢に梅スープを1杯渡したあと、彼女の顔をまじまじと見つめた
お嬢ちゃん、どっかで会ったことはないかい?
え?お爺さん、多分人違いですよ。ここへは初めて来たんです。えっと、港へはどう行けばいいんでしょう?
そうかい。港は丁の四番街じゃよ。この庚の六番街から北へ向かって、連絡橋を通り、あの最も高い龍の子の柱を左へ曲がって進めばたどり着けるよ
なるほど。ありがとうございます
蒲牢は梅スープを受け取り、ゆっくりと飲んだ
礼などいらんよ。礼儀正しいお嬢ちゃんだ。一日中ずっと媚びを売るしか能がないあの小僧よりずっと立派じゃな
?
いや、なんでもない
老人はまたでんでん太鼓を揺らし、街の北の方を見つめた
ここはどうだい?いい場所じゃろう?
はい、ずいぶん賑やかな町ですね
ちっと賑やかすぎるんじゃがな
え?
お嬢ちゃん、どうしてこの道の朝食の露店は道の両側それぞれにあるのか、知っておるかの?
老人は視線を自分の店に戻し、笑いながら話題を変えた
それは知らないです。どうしてなんですか?
昔は同じ側にあったんじゃが、「しょっぱい豆花は犬も食わんぞ」とか、「どうして甘い豆乳しかないんだ」みたいなことでよく喧嘩が起きてのう
そういった喧嘩を減らすために、店の味ごとに道の両側に分けたんじゃよ
なるほど
ああ、この賑やかな町じゃ、誰もがストレスを抱えているからのう。ちょっと刺激を受けると風船みたいに破裂しよる
どんな小さなことでも刺激になるんじゃ
まあ、こんな話はやめようか。こんな若い子が、年寄りの長話を聞いてくれるなんて久しぶりだ。蜉蝣銭をあげようか
連絡橋でスイカでも買うがいい。真夏の昼間だ。甘くてうまいぞ
この町でスイカを食べなかったら、この町に行ったことがあるとはいえん
いいチャンスだ。港への道にいるやつらは追い払ったか?
あのスイカ売りのおばさん以外、全部追い払った
ふむ……
あのおばさんは心臓が悪いんだ。手は出すなよ
あの娘が連絡橋から下りるのを待ってから動け
了解ッ
ここの人たちは皆さん優しいですねぇ
スイカを一切れくださいって言ったら、こんなにたくさんくれるなんて
蒲牢は梅スープ売りの老人と別れて、真っ直ぐに港へ向かい、連絡橋の上でスイカを売るおばさんに出会った
一切れ味見したかっただけなのに、蒲牢の蜉蝣銭を見たおばさんは無言で2つの籠を寄越した。蒲牢は「これは剣」を背負い、両手にスイカの籠を下げて港へ向かった
おばさんが蜉蝣銭を見た時、なんだか懐かしそうな顔をしていたけど
きっと昔、あのお爺さんとの間に……ひゃっ!
危ない!
連絡橋を下り、龍の子の柱の側に着いた瞬間、ひとりの大男が曲がり角からいきなり現れ、蒲牢にぶつかった
おおっと、お嬢さん、大丈夫かい
大丈夫です。スイカも……うん、大丈夫みたいです。お兄さんこそ大丈夫ですか?
大丈夫だ。急いでいるから、失礼する
はい……うわ、足が速いですね
本当に急いでいるみたい
蒲牢はスイカの籠を持ち上げたが、その時背中が軽くなったことに気づいた
あれ?さっきのお兄さんが持ってた剣、どこかで見たような……
!!……そんなあ!あれは私の剣!!
田苟アニキ、うまく行ったぞ!
幼鶏、よくやった。お前たち、行くぞ