Story Reader / 多次元演繹 / マトリクス順転 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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此岸

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戦闘は終わり化け物は跡形もなく消えたが、周りの赤潮が引く様子はない

カウントダウンがゼロになり、視界の全てが狂暴な赤に吞み込まれ、絶望の淵へと落ちていく

ジェタヴィは突然後ろに倒れ、その小さな体を自分の胸元に寄せてきた

いつの間にか彼女の真っ白な顔に赤いヒビが走って、破片のようにバラバラになっていた

恐らくこの前の弓矢に与えられた傷痕だろう、本人があえて口にしなかったのだ

今、私って醜いでしょう。まったく、なんで毎回こんな無様な姿になるのか

やっぱり……相変わらずキミは嫌になるほど優しすぎる

天に選ばれた人、また失敗しちゃったみたいだわ。ごめんなさい

安全区域を作るのが間に合わなくて、擬態ワクチンの製造にも失敗しちゃった……

ほとんどのモジュールと回線がパニシングに侵入されたわ

あれがこの世界に終焉をもたらすのよ

ほんの一瞬でファイヤーウォールを突破した替え玉、ホント恐ろしい化け物よね

防御コマンドが効いてても、いくら救命措置をしたってどうにもならないかも

今は説明してる場合じゃない……

言ったでしょ?カウントダウンがゼロになったら、世界が終わりを迎えるって

肝心なアイテムがないと、私たちがこの塞がれた空間から脱出する術はないの

アクセスキーよ

頭に痛みが走って、デジャヴが一瞬で脳に浮かんできた

<color=#ff0e0e>キー</color>、それは脱出ゲートを開ける要、極めて大切なもの……

これまでの徒労の繰り返しの中で、自分とジェタヴィは惜しくもそれを手に入れるチャンスを何度も逃してきた

どう?少しくらいは思い出した?

彼女はだんだん硬直し始めた体で、自分の頬に触れようと必死に手を差し伸べてきた

不幸なお話の泡よね、ふふっ……

私ももうすぐね、世界の終わりと一緒に泡となって消えていくの

儚くてキレイな旅だったけど、私たちは確かに同じ時を過ごした

たとえ何度も見た光景でも、決して退屈になんて思わない。そうよね?

私ったらまた独り言ばっかり、ごめんね。もう意識が朦朧としてきたみたい

前にも言ったように、天に選ばれた人、私たちはまだ負けてない

今度こそ私たちはきっと、もっと早く走って、この手を遠くまで伸ばせるはず

次のジェタヴィに会えたら、そんなに優しく接しない方がいいわよ

またこんな風に、悲しいお別れになるから

まったく……

彼女は握っていた自分の手を離して、ゆっくりと胸に当てた

無数の赤い光がリボンのように、彼女の胸元のひび割れから流れ出した

獰猛なる世界を包み込むかのように、ジェタヴィが両手を広げると、その体は軽やかに空中へと浮かび上がった

全アルゴリズム使用、内部よりメインシステムを改変

私の体を回線へのアクセスキーにして!さあ、もう一度!

リカバリープログラムを起動!!!!!

さよなら、天に選ばれた人

別れの言葉とともに、凄まじい光の中に彼女の姿は消えた

その後、黒い幕が全体に覆いかぶさるようにして、空の淵から黒いブロックが現れた

黒いブロックは徐々に周囲に広がっていき、世界を呑み込んだ赤潮が蔓のような触手に覆いつくされ、虚空に吸い込まれていく

世界は瞬く間に崩壊した。自らの存在も含め、何もかもがその寂しい黒に包み込まれる

そして馴染みのある漆黒の海へ戻ってきた。此岸の残響が聞こえ、揺れる彼岸の明かりも見えてくる

意識がだんだん消えていき、存在が完全に消える前、その虚無に包まれる揺り籠を見つけた

中で目覚め始めた個体が、そう遠くない未来の可能性を示している

自分の命が相手に流れていく前に、この心はまだこの世界に未練を残そうとしている

この胚胎の中の可能性に優しい言葉をかけよう……