……
どうして……?
砂塵に覆われ、朽ちた墓標が無数に立つ大地。その荒野を歩く少女の瞳は疑念をはらんでいた
彼女に「放浪者」と呼ばれる者が、最後の選択を行った
人類の気配が消えた今、そのために築かれた世界にもはや存在理由などない
全てが手に入るのに、どうして諦めるのですか?
こんな「結末」は……誰も……
彼女の問いは、答えを必要としていないようだった
……結局、最後まで「私」には理解できませんでした
やはり「人類」とは、研究すればするほど理解できない生き物ですね
彼女は滅びゆく世界を見つめながら、己が消滅するその時を静かに待っている
だが、その口元には笑みが浮かんでいた
でも、この旅が無意味だったとは思いません
そう言うと、彼女はスカートの裾を軽く持ち上げ、目を閉じ、膝を曲げ――
目の前にある無数の墓標に向かって頭を下げた
長き時をともに歩んでくださり、感謝いたします
最後まで驚きと喜びの連続でした
これまでのあなたの選択を、忘れることはありません
そしてこれからは、あなたから得た全てを活かして進みます
この星に広がる潮の声を鎮め、生命がより輝かしい結晶を生み出せるように
そして次の「私たち」と「あなたたち」の出会いが、よりよいものになるように
彼女は「放浪者」に一礼し、感謝の意を示した
それと……
最後に私が「私」を代表して、別れを告げることをどうかお許しください
あなたが、そして「あなたたち」が描いた物語は……
とても素晴らしいものでした
次の瞬間――
少女の髪がそよ風になびき、
この束の間の小さな夢幻は、ひとつの終わりを迎えた
……
…………
………………
指揮官、このエリアの調査が終わりました
パニシング濃度は安全値まで低下しました。ここの赤潮は全て引いたようです
侵蝕体や異合生物の痕跡はありませんでした。少し妙ですが、ひとまず「安全」と判断してもいいかと
この後は別部隊による精密調査が予定されています。僕たちの役目はあくまでも「下調べ」ですよ
そういえば、リーフが廃墟でこれを。おそらくスカベンジャーのものかと
リーが差し出したのはボロボロの鞄だった。中には黄ばんだ表紙のノートが1冊と、インクの切れたペンやカビた包帯が入っていた
周囲の生命反応も確認しましたが……この鞄の持ち主は、もう……
名もなきスカベンジャーが残したノートを捲りながら、リーフの言葉を遮るように頷く
ここは少し前まで高濃度の赤潮が広がっていました。普通の人間が生き残るのはほぼ不可能でしょう
ノートには何が?
最後の一文を読み終え、ノートを閉じる
物語……ですか?どのような?
かつて誰かのものであった鞄にノートを戻し、それを持って隊員に声をかける
ノートに書き散らされていたのは、この荒廃した世界を生きる平凡な人間が、自分の心に従って進むというでたらめな物語だった
誰かにとっては面白くもなければ、評価され、読み解かれ、広められるものではないかもしれない
しかし、心を込めて描かれた物語は、必ずそれにふさわしい「読者」を迎える
……
……□□□の願いは……□□叶いましたか□……?
その遠くで、誰にも聞こえないほどの微かな音が響いていた